原町中央店。
午後。
浜谷と日村がカウンターで、メダルゲームの方を見ながら話していた。
「日村さん」
「ん?」
「あそこのソレノイドなんですけど……」
「あれはね、多分ソレノイド自体じゃないと思う」
「マジですか?」
「うん。一回配線見た方がいいかも」
「なるほど……」
浜谷が頷く。
日村が腕を組む。
「動作自体はしてた?」
「してました。ただ、たまに戻りが悪いんですよね」
「あー、じゃあそっちかもしれない」
「あと、ワッシャーも紛失してるっぽくて……」
「それは同じサイズのやつ探して入れれば大丈夫」
「あります?」
「多分メンテ棚の中にあるよ」
「了解です」
二人にとっては。
ごく普通の会話だった。
その少し離れたところ。
川原と大沼が立っていた。
「…………」
「…………」
川原が大沼を見る。
大沼も川原を見る。
「何の話?」
「分かりません」
「ソレ……なんとか?」
「ソレノイドって言ってました」
「ソレノイドって何?」
「分かりません」
「ワッシャーは?」
「分かりません」
二人揃って、もう一度浜谷と日村を見る。
「ここのナットも一回外します?」
「いや、それは残していいと思う」
「じゃあスペーサーだけ確認します?」
「そうだね。あとハーネスも見とこうか」
「了解です」
川原が呟いた。
「また増えた……」
「スペーサー?」
「ハーネス?」
「なんの話してるんだろう」
二人はとうとう近づいていった。
「浜谷さん」
「はい?」
「さっきから何の話してるんですか?」
浜谷が不思議そうな顔をする。
「メンテナンスの話ですけど」
「それは分かります」
大沼が聞く。
「ソレノイドって何?」
「ああ、ソレノイドですか?」
浜谷が説明しようとする。
「電気を流すと磁力が発生して、それで――」
「待って待って」
大沼が止めた。
「もう難しい」
「まだ最初ですよ!」
日村が笑う。
「簡単に言えば、電気でガチャって動く部品」
「ガチャって?」
「そう。ガチャって」
大沼が頷く。
「それなら分かる」
浜谷が日村を見る。
「僕の説明いらなかったじゃないですか」
「浜谷くん、説明から入るから」
「ちゃんと説明しようとしたんですよ!」
川原が今度は聞く。
「ワッシャーって何ですか?」
「こういうやつです」
日村が小さな金属の輪を見せた。
「あ、見たことあります!」
「ボルトとかネジのところに入ってるやつですね」
浜谷が補足する。
川原が手に取って眺める。
「これにも名前あるんですね」
「ありますよ!」
「ただの輪っかだと思ってました」
「全国のワッシャーに謝ってください」
「なんでですか!」
大沼が笑う。
「でも浜谷くん、こういうの詳しくなったよね」
「まだまだですよ。日村さんとか生田さん、御所野だったら大澤さんに聞いてばっかりです」
日村も頷く。
「俺だって分かんないことあるからね」
「日村さんでも?」
川原が少し驚く。
「あるよ。機械によって全然違うし」
日村はゲーム機を見る。
「メンテって、壊れたところだけ見ればいいわけじゃないから」
浜谷が頷く。
「原因が別の場所にあることもありますもんね」
「そうそう。だから一個ずつ見ていく」
大沼が二人を見る。
「やっぱり難しい話に戻った」
「まだ普通ですよ!」
「普通じゃないよ!」
浜谷が笑う。
川原はゲーム機の内部を覗いた。
今までなら。
ゲーム機は、遊ぶためのもの。
調子が悪ければ浜谷や日村を呼ぶもの。
それくらいの認識だった。
でも。
その中にはたくさんの部品があって。
一つひとつに名前があって。
誰かがそれを覚えて、直している。
「ちょっと面白いですね」
川原が言った。
「おっ」
浜谷が反応する。
「メンテやります?」
「いや、そこまでは言ってないです」
「やりましょうよ」
「急に勧誘しないでください!」
日村が笑った。
「でも覚えとくと便利だよ」
大沼もゲーム機の中を覗く。
「私でもできる?」
「最初は簡単なところからなら」
「じゃあ教えてください」
「もちろん」
浜谷も嬉しそうに言う。
「メンテ仲間増えますね」
「浜谷さん、なんでそんな嬉しそうなんですか?」
「仲間が欲しいんですよ!」
日村が工具を手に取る。
「じゃあまず、ここのネジ外してみる?」
「はい!」
川原と大沼が近づく。
その横で浜谷が言った。
「これで原町のメンテナンシュ担当も増えますね」
「メンテナンスね」
日村が訂正する。
「メンテナンシュ」
「言えてないよ」
「スシュメていきましょう」
「それも言えてない」
川原が笑う。
「浜谷さん、専門用語より日本語の方が苦手じゃないですか?」
「そんなことないです!」
ソレノイド。
ワッシャー。
スペーサー。
ハーネス。
知らない言葉は、まだたくさんある。
だけど。
知ってみれば。
ゲーム機の中は、意外と面白い。
日村さんの。
メンテナンシュのスシュメ。
今日から二人。
新しい生徒が増えたようだった。