原町中央店。
開店前。
まだ客のいない店内。
事務所で。
茂田は一人、パソコンに向かっていた。
「うーん……」
画面に表示されているのは。
スタッフの評価。
接客態度。
勤務態度。
業務習熟度。
それぞれについて。
日頃の働きぶりを記入していく。
「次は……琉くんね」
浜谷琉。
茂田はキーボードに手を置いた。
まず。
接客態度。
「これは……」
少し考える。
客には明るく接する。
困っている客を見つければ、自分から声をかける。
子どもと話す。
常連客とも話す。
困っている人にも話しかける。
スタッフにも話しかける。
「……よく喋るボーイだね」
茂田は笑った。
もちろん。
接客としては悪いことではない。
むしろ。
浜谷の長所だった。
続いて。
勤務態度。
基本的には真面目。
頼まれた仕事はやる。
分からないことがあれば確認する。
メンテナンスも。
入った頃と比べれば。
できることがずいぶん増えた。
阿佐野店への応援にも行く。
原町とは違う環境の中で。
向こうのスタッフとも関係を築いている。
「…………」
茂田の手が止まる。
考えてみれば。
最初からそうだったわけではない。
面接に来た大学生。
まだゲームセンターの仕事を何も知らなかった。
採用して。
仕事を教えて。
大学との両立をして。
失敗して。
注意されて。
悩んで。
それでも。
辞めずに続けてきた。
今では。
原町だけでなく。
阿佐野でも働いている。
「成長したな」
茂田が小さく呟く。
そして。
最後の欄。
備考。
「…………」
何を書くか。
茂田は考えた。
大学生のため、学業との両立に配慮。
阿佐野店への応援勤務実績あり。
メンテナンス業務を積極的に習得中。
まずは。
そんなことを書いていく。
けれど。
まだ何かある気がした。
浜谷について。
備考。
「…………」
茂田は腕を組む。
よく喋る。
たまに余計なことも言う。
女性客に気を取られる。
山神の「おぅ」に反応する。
何かあればすぐ誰かに話す。
いろんなことに興味を持つ。
「これは備考じゃない……」
消す。
もう一度考える。
浜谷のことを。
仕事が完璧なわけではない。
まだ知らないことも多い。
失敗だってする。
けれど。
人のことをよく見ている。
誰かが困っていれば気にする。
原町でも。
阿佐野でも。
人と人の間に入って。
いつの間にか。
その場所に馴染んでいる。
茂田は。
少しだけ笑った。
そして。
備考欄に文字を打ち込む。
『今後の成長に期待』
「…………」
あまりにも。
普通だった。
「んー!つまらない」
自分で書いておいて。
自分で消した。
もう一度。
キーボードに手を置く。
『原町中央店だけでなく、阿佐野店でも良好な関係を築いている。今後も幅広い業務経験を積ませたい』
「…………」
茂田は頷く。
今度は消さなかった。
そして。
誰にも見せない。
手元のメモにだけ。
小さく書き加えた。
『採用してよかった』
茂田はその文字を見る。
少し照れくさくなって。
メモを裏返した。
「本人には言わないでおこう」
時計を見る。
もうすぐ開店時間。
茂田は立ち上がった。
評価表には。
接客態度も。
勤務態度も。
仕事の習熟度も書くことができる。
けれど。
一緒に働ってきた時間まで。
全部を備考欄に書くことはできない。
面接の日から。
今日まで。
いろいろあった。
そして。
これからも。
きっといろいろある。
茂田は事務所を出る。
すると山神が出勤してきた。
「おつかれさまぁ〜ず!!」
「おぅ」
「今日も頑張るニダ!」
開店時間。
原町中央店の。
また一日が始まった。