原町中央店。
バックヤード。
新しく届いた景品の箱が開けられていた。
「これか」
石村が取り出したのは。
シナモンのリュック。
浜谷が見る。
「おお、シナモン大集合ですね」
「これ阿佐野にも入るはず」
「そうなんですか?」
浜谷はリュックを見る。
そして。
思った。
(樋口さん、テンション上がってるだろうな……)
信濃路モンスター好きの樋口。
阿佐野店でも同じ景品が届いているのなら。
今頃かなり喜んでいるに違いない。
石村がリュックを確認する。
「これ、そのままだと潰れちゃうから」
「はい」
「空気アンコ膨らませて、リュックの中に入れるよ」
石村は浜谷に資材を渡した。
「膨らませておいて!」
「はい!!」
浜谷は作業を始めた。
空気アンコを作る。
一個。
二個。
三個。
四個。
「…………」
プシュー。
また一個。
「…………」
プシュー。
さらに一個。
特に何も考えない。
ボーッと。
無心で。
ひたすら膨らませる。
そこへ川原が通りかかった。
「浜谷さん、何してるんですか?」
「空気アンコ作ってます」
「へえ」
「…………」
プシュー。
「結構ありますね」
「そうですね」
プシュー。
川原はその場を離れた。
浜谷は続ける。
「…………」
プシュー。
「…………」
プシュー。
今度は藤屋がやってきた。
「何してるの?」
「空気アンコ作ってます」
「いっぱいあるね」
「ですね」
プシュー。
「まだ作るの?」
「はい」
「ふーん」
藤屋も去っていった。
浜谷は。
何も疑問に思わない。
言われたから。
作る。
ただそれだけ。
プシュー。
プシュー。
プシュー。
気づけば。
浜谷の周りには。
大量の空気アンコ。
そこへ石村が戻ってきた。
「浜谷くん、できた?」
「はい!」
浜谷が振り返る。
石村が止まった。
「…………」
浜谷も見る。
「…………」
リュック。
数個。
空気アンコ。
大量。
石村が聞く。
「これ全部作ったの?」
「はい!」
「浜谷くん」
「はい?」
「空気アンコは景品の中に入れるんだよ!」
「はい」
「景品より多くてどうすんの!」
浜谷が。
大量の空気アンコを見る。
リュックを見る。
もう一度。
空気アンコを見る。
「あちゃー!」
そこへ。
川原と藤屋が戻ってきた。
「やっぱり多かったんですね」
川原が笑う。
浜谷が振り返る。
「気づいてたんですか!?」
「途中から」
「言ってくださいよ!」
藤屋も笑う。
「ずっと作ってるから、何個作るんだろうって思ってた」
「止めてくださいよ!」
「浜谷さんも途中で気づいてください」
「無心だったんですよ!」
石村がリュックへ空気アンコを入れながら笑う。
「普通、景品の数見たら分かるでしょ」
「言われた仕事に集中してたんです!」
「集中する方向が違うよ」
「そんな!」
結局。
余った空気アンコは。
別の景品に使うため保管することになった。
浜谷はリュックの形を整えながら。
呟く。
「次から数えます」
「そうしてください」
川原が笑う。
原町中央店。
言われた仕事を。
真面目にやる。
それは大切なこと。
ただし。
たまには。
周りを見ることも。
同じくらい大切だった。