原町中央店。
浜谷が帰省から戻ってきた。
「おはようございます」
「おはようニダ!」
出勤してきた浜谷は、仕事用のバッグとは別に小さな紙袋を持っていた。
それに気づいた川原が聞く。
「浜谷さん、それ何ですか?」
「ああ、これですか?」
浜谷が紙袋から瓶を取り出した。
中には、鮮やかな赤いいちごジャム。
「母親の職場で作ってるいちごジャムなんですよ。帰省した時にもらってきたんで」
「へえ! 美味しそう!」
大沼が興味を示す。
藤屋も瓶を覗き込んだ。
「手作り?」
「そうですね。普通に売ってるやつなんですけど」
相馬がやってくる。
「浜谷くん、お土産?」
「そんな感じです。よかったら持って帰ってください」
「いいの?」
「はい。ただ……」
浜谷が紙袋を覗いた。
「原町に持ってこれたの、二個だけなんですよ」
「…………」
周囲が静かになった。
「二個?」
川原が聞き返す。
「二個です」
いつの間にか。
相馬、川原、藤屋、大沼、石村、日村、高崎。
七人が集まっていた。
対して。
いちごジャムは二個。
「少なくない?」
高崎が言う。
「全員分は持ってこれませんでした!」
石村が聞く。
「茂田さんは?」
浜谷が答える。
「茂田さんには別で渡してます」
茂田が満足そうに頷く。
「私はあるニダ」
「えー!」
大沼から声が上がった。
「なんで茂田さんだけ!」
「茂田さんにはプレゼントとして渡したんですよ」
「店長特権ニダ」
「自分で言っちゃった!」
藤屋が笑う。
浜谷は二個のジャムを机に置いた。
全員の視線が集まる。
「……なんか怖いな」
日村が呟いた。
「ジャムですよね、これ」
浜谷も少し怖くなってきた。
大沼が瓶を手に取る。
「美味しそう!」
「美味しいですよ」
「パンに塗りたい!」
川原が反応する。
「私もパンに塗りたいです!」
「じゃあ私はヨーグルト」
相馬が参戦する。
藤屋も言う。
「アイスに乗せても美味しそう」
「それいいね」
高崎まで乗ってきた。
石村が静かに瓶を見る。
「…………」
浜谷が気づく。
「石村さんも欲しいんですか?」
「まあ……ちょっと」
「欲しいんじゃないですか!」
「日村さんは?」
「俺も欲しい」
「全員じゃないですか!」
七人。
二個。
完全に数が足りない。
茂田だけが余裕の表情で眺めている。
「人気ニダ」
「茂田さんはもう持ってますからね!」
高崎が聞いた。
「阿佐野には?」
「もう二個持っていきましたよ」
「誰が持って帰ったの?」
「高村さんと古坂さんです」
――数日前。
阿佐野店。
浜谷が差し入れとして置いていった二個のいちごジャム。
それを見つけた高村と古坂。
二人は迷わなかった。
高村が一個。
古坂が一個。
その日のうちに、二個とも消えた。
後日。
二人から浜谷へ感想が届いた。
『美味しかったよ』
「阿佐野、決着早っ!」
川原が笑う。
「置いて割とすぐでしたから。」
「他の人が来る前に2人ともすぐロッカーにしまってました」
「じゃあ原町も早い者勝ちにする?」
藤屋が言った瞬間。
全員がジャムを見る。
「待って待って!」
浜谷が慌てて二個を確保した。
「今ここで早い者勝ちにしたら危ないですって!」
「じゃんけんでいいんじゃない?」
高崎が提案する。
「平等ですね」
川原が頷く。
七人が集まった。
相馬、川原、藤屋、大沼、石村、日村、高崎。
浜谷が二個のジャムを持つ。
「じゃあ、勝ち残った二人が持って帰るということで」
「いくよー!」
七人が手を構える。
茂田は少し離れたところから見物していた。
「最初はグー!」
ジャム二個を巡る。
仁義なき戦いが始まった。
「じゃんけん、ぽん!」
一回目。
「あいこ!」
二回目。
「あいこ!」
三回目。
「多いな!」
浜谷が笑う。
そこから人数が減っていく。
「うわ、負けた!」
大沼脱落。
「ダメだった……」
藤屋脱落。
石村も敗れる。
「残念」
「石村さん、結構本気でしたよね?」
「そりゃ欲しいからね」
日村も敗退。
高崎も手を見て固まった。
「……負けた」
残ったのは。
相馬と川原。
「決まりですね!」
浜谷が笑う。
「やった!」
川原がガッツポーズ。
相馬も嬉しそうに笑った。
「ありがとう、浜谷くん」
「どうぞ」
二人へ一個ずつ渡す。
川原は早速、瓶を眺めている。
「明日の朝、パンに塗ります!」
「私はヨーグルト!」
相馬もラベルを眺める。
そんな二人を。
敗者五人が見つめていた。
「…………」
川原がジャムを抱える。
「なんか視線が怖いんですけど」
「持って帰るまでが争奪戦かもしれませんよ」
浜谷が言う。
「やめてください!」
茂田が笑う。
「私は安心ニダ」
高崎が振り返る。
「だから茂田さんはもう持ってるから!」
「私の分は阿佐野のロッカーの中にあるニダ」
「忘れてるじゃん!」
たった二個のいちごジャム。
それを巡って繰り広げられた、原町中央店の仁義なき戦い。
阿佐野では高村と古坂。
原町では相馬と川原。
それぞれの手へ渡った。
浜谷が敗者たちを見回す。
「また帰省した時に持ってきますよ」
「本当?」
高崎が即座に反応する。
「……持ってこれたらです」
「次は何個?」
「そこ重要ですか!?」
愛のある差し入れは。
時として。
奪いあいになるようだ。