原町中央店。
午前。
荷物が届いた。
「景品来たよー」
バックヤードに運び込まれた段ボールを開けながら、高崎が言う。
浜谷と川原も仕分けを手伝っていた。
ぬいぐるみ。
雑貨。
お菓子。
そして。
「なんだこれ」
浜谷が一つの箱を手に取った。
開けてみる。
「うわ!」
中に入っていたのは。
手錠だった。
もちろん本物ではない。
クレーンゲーム用の景品である。
銀色に光る手錠を見て、浜谷の目が輝いた。
「すごいな!」
「浜谷くん、好きそう」
高崎が笑う。
「いや、こういうのちょっとワクワクしません?」
浜谷は手錠を持ち上げた。
カチャカチャ。
「ちゃんと動く!」
そして。
何を思ったのか。
片方を自分の左手首へ。
ガチャ。
「おお!」
「浜谷くん」
高崎が呆れる。
「何してるの?」
「試してるだけです!」
そこへ。
別の景品を持った川原がやってきた。
「浜谷さん、何遊んでるんですか?」
「いや、川原さん。これ見てくださいよ」
「手錠?」
「景品です」
浜谷が腕を上げる。
手錠の片方がぶら下がる。
「ちゃんと閉まるんですよ」
「へぇ」
川原が近づいた。
「結構ちゃんとしてますね」
「でしょ?」
「もう片方も?」
「多分――」
ガチャ。
「……」
「……」
浜谷。
川原。
二人が黙る。
浜谷の左手首。
川原の右手首。
その間を。
銀色の鎖が繋いでいた。
「……浜谷さん?」
「はい」
「今、何しました?」
「いや」
浜谷は手錠を見る。
「川原さんが近かったんで」
「なんで閉めたんですか!?」
「ノリで!」
「ノリで手錠かけないでください!」
高崎が腹を抱えて笑い始めた。
「何やってんの二人とも!」
「僕だけが悪いみたいになってません!?」
「浜谷さんが悪いですよ!」
「それは……はい!」
浜谷は手錠を見る。
「まあ、鍵で開ければ――」
止まった。
「……鍵」
三人が箱を見る。
高崎が中を探す。
「ないよ?」
「え?」
浜谷も探す。
川原も、繋がれたまま覗き込む。
ない。
「説明書は?」
「ないですね」
「予備の鍵とか」
「ないです」
「……」
浜谷が伝票を見る。
そして。
「もしかして」
「何ですか?」
「鍵、別の荷物なんじゃ……」
川原が固まる。
「別の荷物?」
「今回、景品だけ先に来たとか」
「じゃあ鍵は?」
「次の荷物で届くと……信じるしかないですね」
「信じるしかないって何ですか!?」
そこへ。
「何してるニダ?」
茂田がやってきた。
二人を見る。
手錠を見る。
もう一度二人を見る。
「……」
ニヤッ。
「違いますよ」
浜谷が先回りした。
「まだ何も言ってないニダ」
「その顔で分かります!」
「細井ちゃんがいるのに罪な男ニダ」
「だから細井さんとは何もないんです!」
事情を説明する。
茂田は笑いを堪えながら手錠を見る。
「切ればいいニダ」
「景品ですよ!」
「ニッパーで」
「ダメですって!」
高崎も頷く。
「景品だからね」
「じゃあ鍵が来るまでそのままニダ?」
茂田が言う。
浜谷と川原が顔を見合わせる。
「……」
「……」
「嫌です」
川原が即答した。
「僕だって嫌ですよ!」
「なんで私より嫌そうなんですか!」
そこへ山神が来た。
「おぅ」
二人を見る。
「何やってんだ?」
「山神さん!」
浜谷が助けを求める。
「外せません?」
山神が手錠を見る。
少し触る。
「鍵は?」
「ないです」
「おぅ」
「終わらせないでください!」
さらに相馬までやってきた。
「何この状況」
「事故です!」
浜谷と川原の声が重なった。
相馬が笑う。
「仲良しねぇ」
「違います!」
また声が重なった。
「息まで合ってる」
「相馬さん!」
問題は。
仕事だった。
鍵が届くまで。
二人は離れられない。
「川原さん、そっち行きすぎです!」
「浜谷さんが遅いんです!」
「待って待って!」
カウンターへ移動するにも二人。
景品を運ぶにも二人。
浜谷がメダルゲームを確認しようとしても。
「川原さん、ちょっとしゃがんでもらっていいですか?」
「なんで私まで!」
「繋がってるからですよ!」
「誰のせいですか!」
「僕です!」
休憩にも行けない。
トイレにも行けない。
「これ地獄ですよ」
「浜谷さんが始めたんですよ」
「反省してます……」
カウンターでは。
茂田が楽しそうに二人を見ていた。
「絆が深まったニダ?」
「不便さが深まりました!」
高崎も笑う。
「でも今日一日で連携よくなりそう」
「嫌な研修だなぁ!」
山神が通りかかる。
「おぅ。まだ繋がってんのか」
「もうヘトヘトですよ!」
「おぅ」
「助けてくださいよ!」
そんな時間が続き。
午後。
新しい荷物が届いた。
「来た!」
浜谷が立ち上がる。
当然。
川原も引っ張られる。
「うわっ!」
「川原さん行きますよ!」
「急に走らないでください!」
二人でバックヤードへ向かう。
高崎が箱を開ける。
茂田、山神、相馬。
全員が見守る。
「鍵……」
浜谷が祈る。
川原も祈る。
「お願いします……」
高崎が箱の中を探す。
「あ」
全員が止まった。
高崎が小さな袋を取り出した。
中には。
鍵。
「来た!!」
浜谷と川原が叫んだ。
「よかったぁ……!」
鍵を差し込む。
カチャ。
浜谷の手首が外れる。
カチャ。
川原も外れる。
二人は同時に距離を取った。
「自由だ!!」
浜谷が両手を上げる。
「やっと離れられた……」
川原も自分の手首を見る。
茂田が笑った。
「寂しくないニダ?」
「全然!」
「全然です!」
また二人の声が重なった。
相馬が笑う。
「やっぱり息合ってるじゃない」
「だから違いますって!」
浜谷が手錠を見る。
しばらく考えて。
「……これ、結構面白い景品ですね」
川原が浜谷を見る。
「浜谷さん」
「はい?」
「もう触らないでください」
「はい」
そう答えた。
はずだった。
浜谷が、届いたばかりの荷物を見る。
「あれ?」
別の箱にも。
手錠が入っていた。
「こっちにもある」
高崎が見る。
「あ、それも景品だよ」
「へぇ」
浜谷が取り出す。
さっきのものとは少し形が違う気がする。
「浜谷さん」
川原が睨む。
「大丈夫ですって!」
浜谷は笑った。
「今度は鍵ありますから!」
先ほど届いた鍵を見せる。
「ほら!」
「……絶対ですよ?」
「大丈夫大丈夫!」
ガチャ。
浜谷が自分の手首につける。
そして。
「川原さん」
「嫌です」
「鍵ありますって!」
「嫌です!」
「一瞬だけ!」
「絶対嫌です!」
「大丈夫ですから!」
「ちょっ、浜谷さん――」
ガチャ。
「……」
「……」
再び。
浜谷の左手首。
川原の右手首。
二人は手錠で繋がった。
「ほら」
浜谷は余裕の表情で鍵を持つ。
「今度はちゃんと――」
鍵を差し込む。
入らない。
「……」
もう一度。
入らない。
「……あれ?」
川原の顔から表情が消えた。
「浜谷さん?」
「いや、ちょっと待ってください」
高崎が箱を見る。
「あ」
「何ですか?」
「それ、さっきの手錠とは別の商品だよ」
「……はい?」
「だから鍵も別なんじゃない?」
「……」
浜谷が手元の鍵を見る。
手錠を見る。
川原を見る。
「じゃあ、この鍵は?」
「さっきの手錠の鍵」
「じゃあ、この手錠の鍵は?」
高崎は伝票を確認した。
そして。
「次の荷物みたい」
「……」
「……」
沈黙。
茂田が吹き出した。
相馬も腹を抱える。
山神が一言。
「おぅ」
川原がゆっくり浜谷を見る。
「浜谷さん」
「はい」
「殴っていいですか?」
「手錠外れてからにしてください」
「外れないから言ってるんです!!」
原町中央店。
同い年の先輩と後輩は。
無事に解放され。
そして。
数分後。
再び繋がれた。
絆が深まったかどうかは。
やっぱり分からない。
ただ一つ。
今度こそ二人の心は完全に一致していた。
次の荷物。
早く来い。