阿佐野店。
カウンターで、浜谷と細井が話していた。
「そういえば最近、クワガタとかカブトムシのキーホルダーが景品で入ったじゃないですか?」
「入ったね」
「細井さんって虫いける人なんですか?」
細井はあっさり頷いた。
「全然平気!」
「へえ、意外」
「ただ蛇とか嫌いかな。足のないのが無理」
「……魚とかも?」
「無理!」
「魚も!?」
浜谷が笑う。
「じゃあウナギとか最悪じゃないですか」
「見るのも触るのも食べるのも絶対無理」
「そんなに!?」
今度は細井が聞く。
「そういう浜谷くんは?」
「僕も大丈夫な人ですよ」
「でも、さすがに急に目の前にカナブンとか出てきたらびっくりしますけど」
細井が浜谷を見る。
「なんか意外!」
「何がですか?」
「現代っ子じゃん?」
「若いって言ってください!」
「同じようなもんでしょ」
「なんか違うんですよ!」
細井が笑った。
「あ、日村さんは虫ダメらしいよ」
「え!?そうなんですか!?」
浜谷が食いつく。
「古坂さんが言ってた」
「日村さん、平気そうなのに」
「ね。私も意外だった」
そこへ茂田がやってきた。
「何の話ニダ?」
「虫の話です」
「虫?」
「細井さんは平気らしいです」
「浜谷くんは?」
「僕も大丈夫ですよ」
浜谷は少し胸を張る。
「というか、虫はなるべく殺さないようにはしてます」
細井が首を傾げた。
「なんで?」
浜谷は真面目な顔になった。
「一寸の虫にも五分の魂ですよ?」
「おぉ」
茂田が反応する。
「不必要な殺生はしません」
細井がじっと浜谷を見る。
「……カッコつけてる」
「カッコつけてないです!」
「今の言い方絶対カッコつけたじゃん」
「つけてませんって!」
浜谷は反論する。
「僕、家で虫出てもなるべく外に逃がしますから!」
「本当に?」
「本当ですよ。ティッシュとかで捕まえて」
「優しいニダ!」
「でしょう?」
「ほら、やっぱカッコつけてる」
「なんでですか!」
三人の笑い声がカウンターに響いた。
しばらくして。
細井と茂田はそれぞれお客さんに呼ばれる。
浜谷だけがカウンターに残った。
「……」
静かな時間。
浜谷が店内を眺める。
その時。
ぷぅーん。
「……」
浜谷の耳元を。
一匹の蚊が通り過ぎた。
ぷぅーん。
浜谷の目が蚊を追う。
「チッ…」
軽く舌打ちをする。
先ほどの言葉。
一寸の虫にも五分の魂。
不必要な殺生はしない。
ぷぅーん。
蚊が浜谷の目の前を横切った。
浜谷からは笑顔が消えていた。
そして両手を構える。
パンッ!!
静寂。
ゆっくり手を開く。
蚊が落ちる。
「……」
浜谷はそれを見下ろした。
そして。
ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。