原町中央店。
休日の午後。
クレーンゲームコーナーには、家族連れの姿が多かった。
その中で。
一人の子どもが、何度も同じ台に挑戦していた。
景品は。
信濃路モンスターのお風呂セット。
小さなお風呂椅子と桶がセットになっている。
「もうちょっと!」
ボタンを押す。
アームが降りる。
景品に触れる。
少し動いた。
しかし。
落ちない。
「あー!」
子どもが悔しそうな声を上げる。
その様子を見ていた浜谷が近づいた。
「惜しかったね」
「うん……」
「ちょっと見せてね」
浜谷は扉を開け、景品の位置を確認する。
少しだけ手直しする。
その時。
景品を見ながら、何気なく呟いた。
「このお風呂セット欲しいなぁ」
子どもが浜谷を見る。
「お兄さんも欲しいの?」
「ちょっと欲しい」
浜谷が笑う。
「これでお風呂入ったら楽しそうやん」
すると。
子どもは嬉しそうに言った。
「ぼく、おじいちゃんとお風呂に入るの!」
「……おじいちゃんと?」
「うん!」
子どもは景品を指差す。
「これ取って、おじいちゃんと使うの!」
浜谷の手が止まった。
「おじいちゃん、喜んでくれるの!」
「……」
ほんの一瞬。
浜谷の頭に。
昔の記憶が浮かんだ。
大好きだった祖父。
小さい頃から。
たくさん可愛がってもらった。
一緒に過ごした時間。
交わした言葉。
今になって。
もっとこうしておけばよかったと思うこともある。
もっと話せばよかった。
もっと会いに行けばよかった。
何かしてあげればよかった。
けれど。
もう。
浜谷にはできない。
目の前の子どもは。
そんなことを知るはずもなく。
ただ嬉しそうに景品を見ていた。
浜谷は笑った。
「そっか、コマッターモンダーだね」
そして。
景品の位置を整える。
「よし!」
扉を閉めた。
「頑張ってね!!」
「うん!」
子どもが再び百円を入れる。
浜谷は少し離れて見守った。
アームが動く。
景品を掴む。
少しずつ。
出口へ近づいていく。
「あっ!」
あと少し。
子どもが浜谷を見る。
「お兄さん!」
「大丈夫。もうちょっと!」
浜谷はもう一度位置を確認する。
「ここ狙ってみて」
「ここ?」
「そう!」
子どもが頷く。
再び挑戦。
アームが降りる。
景品が動く。
そして。
ゴトン。
「取れた!!」
子どもが飛び跳ねた。
「やった!」
浜谷も笑う。
「おめでとう!」
子どもは景品口から、お風呂セットを取り出した。
大事そうに抱える。
「今日、おじいちゃんと使う!」
「うん」
浜谷は頷いた。
「いっぱい一緒に入ってあげてね」
「うん!」
子どもは家族のもとへ走っていった。
その後ろ姿を。
浜谷はしばらく見ていた。
「浜谷さん?」
声をかけられた。
川原だった。
「どうしたんですか?」
「いや」
浜谷は笑う。
「なんでもないです」
そこへ藤屋もやってくる。
「さっきの子、取れたんだ」
「取れましたよ」
「よかったね」
「はい」
浜谷は少しだけ遠くを見る。
「おじいちゃんと使うらしいです」
「へぇ」
藤屋が笑った。
「いいね」
「いいですよね」
それだけ答えた。
川原が浜谷の顔を見る。
何かを感じたのかもしれない。
けれど。
何も聞かなかった。
しばらくして。
茂田がやってきた。
「何してるニダ?」
「さっき、お風呂セット取った子がいたんですよ」
藤屋が答える。
「おじいちゃんと使うんだって」
「いいニダねぇ」
茂田が笑う。
浜谷も頷いた。
「喜んでくれるといいですね」
「きっと喜ぶニダ」
「……そうですね」
浜谷はもう一度。
子どもが帰っていった方を見る。
自分には。
もうできない。
大好きだった祖父に。
何かをしてあげることも。
一緒に笑うことも。
もう一度。
ありがとうと伝えることも。
だからこそ。
さっきの子には。
たくさん笑ってほしいと思った。
あのお風呂セットを使って。
おじいちゃんと一緒に。
楽しい時間を過ごしてほしいと思った。
それは。
浜谷自身のおじいちゃん孝行ではない。
けれど。
最後にほんの少しだけ。
誰かのおじいちゃん孝行を。
手伝うことはできた。
「浜谷さん」
川原が呼ぶ。
「はい?」
「お客さんです」
「あ、はい!」
浜谷はいつもの表情に戻る。
「今行きます!」
そして。
また店内を歩き出した。
あの子と。
あの子のおじいちゃんに。
今日のお風呂が。
いつか思い出すくらい。
楽しい時間になりますように。