夕方。
店内も少し落ち着き、休憩へ入るスタッフが増え始める時間だった。
石村がインカムを外しながら言う。
「ちょっと一服してきます。」
山神が立ち上がる。
「おぅ。」
浜谷もポケットから煙草を取り出した。
「僕も行ってきます。」
「私も休憩行こうかな。」
高崎が続き、景品整理を終えた古坂も加わる。
気づけば五人で店の喫煙所へ向かっていた。
外へ出ると、少しひんやりとした風が吹く。
店内の賑やかな音が遠くなり、聞こえるのは車の走る音と風の音だけだった。
石村が煙草に火をつける。
「この時間の一服が一番うまいな。」
高崎が笑う。
「石村さん、毎日同じこと言ってますよ。」
「そうか?」
「そうですよ。」
そのやり取りに古坂も思わず笑った。
山神は静かに煙を吐きながら空を見上げる。
「今日は天気いいな。」
「おぅ。」
短い返事。
でも、その一言だけで会話が成立するのが山神らしかった。
浜谷も煙草に火をつける。
最初のぎこちなさはもうない。
古坂が浜谷を見る。
「浜谷くん、すっかり慣れたね。」
「最初は吸ってる姿が初々しかったのに。」
浜谷は照れ笑いを浮かべる。
「最初はむせてばかりでしたから。」
石村が笑う。
「覚えてる。」
「一本吸うのにすごい時間かかってたもんな。」
「やめてくださいよ。」
五人から笑いが起こった。
しばらく誰も話さない時間が流れる。
こういう沈黙も、このメンバーでは心地いい。
高崎がぽつりと口を開いた。
「喫煙所って不思議だよね。」
「仕事中なのに、ここだけ時間がゆっくり流れてる感じ。」
「確かに。」
浜谷もうなずく。
「店の中だとずっと動いてますからね。」
「ここに来ると少しだけ頭が切り替わります。」
古坂も同意した。
「私もこの時間好き。」
「仕事の話をしても、なんか重くならないし。」
石村は煙草を灰皿へ軽く落としながら言う。
「まぁ、結局仕事の話になるんだけどな。」
「それは副店長だからですよ。」
高崎が笑う。
「店長が兼任になってから忙しいですか?」
浜谷が尋ねると、石村は苦笑いを浮かべた。
「まぁな。」
「書類も増えたし、店長が阿佐野店へ行ってる時間は俺が判断することも多くなった。」
「でも、店長が安心して向こうへ行けるようにしないとな。」
山神が静かにうなずく。
「石村なら大丈夫だ。」
石村は少し照れくさそうに笑った。
「ありがとうございます。」
高崎が浜谷へ目を向ける。
「そういえば琉くんも、もう二年目だね。」
「早いですね。」
「一年目の頃は、インカム鳴るたびに緊張してたのに。」
古坂も笑う。
「景品補充でもすごく慌ててたよね。」
「今は落ち着いて動けるようになった。」
浜谷は少し恥ずかしそうに頭をかく。
「皆さんが教えてくれたおかげですよ。」
山神が浜谷を見る。
「おぅ。」
「成長した。」
それだけだった。
けれど浜谷は、その一言が何より嬉しかった。
「ありがとうございます。」
自然と笑顔になる。
石村も浜谷を見ながら口を開く。
「最初は『この子大丈夫かな』って思ってたけど。」
「今じゃ安心して仕事任せられる。」
高崎もうなずく。
「お客様対応も落ち着いたしね。」
古坂も笑顔で続けた。
「困ってるとちゃんと声かけられるようになったよね。」
浜谷は少し照れながら笑う。
「まだ失敗も多いですけど。」
「失敗しなくなったら成長も止まる。」
石村はそう言って煙草を消した。
「だから気にしすぎるな。」
「はい。」
その返事は、一年前よりずっと力強かった。
休憩時間も終わりに近づく。
石村が立ち上がる。
「よし、戻るか。」
高崎も伸びをする。
「切り替えて頑張ろう!」
古坂も笑顔で続いた。
「行きましょう!」
山神は灰皿へ煙草を入れ、一言だけ。
「おぅ。」
浜谷は最後に喫煙所を振り返る。
仕事の合間のほんの十分。
でも、この場所では先輩も副店長もベテランも関係ない。
ただ、一緒に働く仲間として笑い合える。
そんな時間が、浜谷は好きだった。
五人はいつもの店内へ戻っていく。
再びインカムが鳴り、ゲームセンターの日常が動き始めた。