阿佐野店。
午後。
入口から、数人の小学生らしき子どもたちが入ってきた。
かなり元気がいい。
走りこそしないものの、大きな声で話しながらメダルコーナーへ向かっていく。
その姿を見た浜谷が呟いた。
「悪ガキ襲来ですね」
近くにいた古坂が笑う。
「まだ何もしてないでしょ」
「雰囲気ですよ、雰囲気」
「偏見じゃん」
「元気がいいと言ってるんです」
「今、悪ガキって言ったよね?」
浜谷は聞こえなかったふりをして巡回へ戻った。
しばらくして。
メダルコーナーから、大きな音が聞こえた。
バン!
浜谷が振り返る。
「ん?」
もう一度。
バン! バン!
さっきの小学生たちだった。
メダルゲームを囲み、盛り上がっている。
それだけなら問題はない。
しかし一人が興奮して、ゲーム機を手のひらで叩いていた。
さらに別の子まで筐体に手をかける。
ガタッ。
台が揺れた。
浜谷の表情が変わる。
ファンステージでは、ゲーム機を叩いたり揺らしたりする行為は禁止されている。
故障や事故につながる可能性もある。
近くにいた樋口のところへ行き、浜谷は小声で聞いた。
「樋口さん」
「ん?」
「あれ、ヤバいですよね?」
樋口も子どもたちを見る。
その間にも。
バン!
また台が叩かれた。
「うん。あれはダメだね」
「ですよね」
少しくらいなら様子を見ることもある。
だが、さすがにやりすぎだった。
「注意してきます」
浜谷が歩き出す。
その時だった。
スッ。
目の前に一本の腕が出た。
「ん?」
古坂だった。
浜谷の前を制するように手を出している。
「古坂さん?」
「私行くよ」
「え?」
古坂はそれだけ言うと、そのまま子どもたちのところへ向かった。
「ちょっといい?」
子どもたちが振り返る。
さっきまで浜谷と笑っていた古坂とは、少し雰囲気が違っていた。
怒鳴るわけではない。
けれど、はっきりとした声だった。
「ゲーム機、叩いたり揺らしたりするのはダメだよ」
子どもたちが静かになる。
「壊れちゃうかもしれないし、危ないからね。遊ぶのはいいけど、叩いたり揺らしたりするのはやめよう」
「……はい」
一人が小さく答えた。
古坂は他の子たちも見る。
「守れる?」
「はい」
「じゃあ、遊んでいいよ」
最後にはいつもの柔らかい表情に戻った。
古坂が離れる。
子どもたちは先ほどより静かにゲームを再開した。
その様子を見ていた浜谷が言う。
「……古坂さん」
「なに?」
「格好よかったです」
「急に何?」
「いや、僕が行こうとした瞬間のこれ」
浜谷が古坂の真似をして、片手をスッと前へ出す。
「『私行くよ』」
「やめてよ!」
樋口が笑う。
「確かにちょっと格好よかった」
「麗美ちゃんまで!」
そこへ茂田がやってきた。
「どうしたニダ?」
浜谷が事情を説明する。
子どもたちが台を叩き、揺らしていたこと。
自分が注意へ行こうとしたところ、古坂が代わりに向かったこと。
茂田は子どもたちの様子を確認した。
今は普通に遊んでいる。
「ちゃんとやめたならよかったニダ」
「古坂さんの圧ですよ」
「圧なんてかけてないよ!」
「でも一瞬、僕まで怒られるのかと思いました」
「なんで浜谷くんが怒られるの?」
「日頃の行いですかね」
「自覚あるんだ」
「ないです」
「どっちなの?」
樋口がまた笑った。
少しして、子どもたちはメダルを使い切ったのか、ゲーム機から離れた。
帰り際。
そのうちの一人が古坂に気づく。
「ありがとうございました!」
古坂も手を振る。
「はーい。またね」
子どもたちは元気よく店を出ていった。
浜谷がその背中を見る。
「悪ガキじゃなかったですね」
古坂がすぐに返す。
「だから最初から言ったじゃん」
「ちょっとテンションが上がりすぎただけでしたね」
「子どもだもん。そういうこともあるよ」
遊ぶことは悪くない。
夢中になることだって悪くない。
ただ。
ゲームセンターにも、やってはいけない遊び方がある。
そんな禁じられた遊びを見つけた時。
優しく。
でも、きちんと止める。
それもまた。
ゲームセンターで働く人の、大切な仕事だった。