阿佐野店。
夕方。
学校が終わる時間になると。
店内にはランドセルを背負った小学生たちの姿が増えてくる。
メダルゲームコーナーでは。
数人の子どもたちが一台のゲームを囲んでいた。
「いけいけ!」
「あー!」
「もう一回!」
メダルが払い出される。
子どもたちが歓声を上げた。
少し離れたところで。
細井がその様子を見ていた。
「楽しそう」
隣で古坂が笑う。
「学校終わって、みんなでゲームセンターかぁ」
「いいですよね」
細井が言った。
「私も小学生だったら混ざりたいです」
「今でも混ざれるんじゃない?」
「店員が仕事中にメダルゲームやってたらダメでしょ」
そこへ。
茂田がやってきた。
「楽しそうニダ」
「茂田さんも混ざります?」
「店長が混ざったらもっとダメニダ」
三人が笑う。
子どもたちはまだ盛り上がっていた。
一人がメダルを入れる。
みんなで画面を見る。
結果が出る。
喜ぶ。
悔しがる。
そして。
また笑う。
茂田がふと思い出したように言った。
「そういえば琉くんも、小学生の頃よくゲームセンター行ってたらしいニダ」
「へえ」
細井が振り返る。
「やっぱり。なんか遊び方とか詳しいですもんね」
「しかも、地元のファンステらしいニダ!」
古坂が少し驚く。
「じゃあ、ファンステで遊んでた子どもが、大学生になってファンステで働いてるってこと?」
「そういうことニダ」
「すごいね」
細井はもう一度。
メダルゲームで遊ぶ子どもたちを見た。
「じゃあ、あの子たちも」
「ん?」
「十年後とかに、ファンステで働いてるかもしれないってことですよね」
古坂が笑う。
「あるかもね」
そこへ。
大澤がメダルコーナーの巡回から戻ってきた。
「何の話?」
「浜谷くんが、小学生の頃からファンステで遊んでたって話です」
「ああ」
大澤も子どもたちを見る。
「今遊んでる子たちも、大人になったら覚えてるのかな」
その言葉に。
少しだけ。
みんなが静かになった。
学校が終わって。
友達と集まって。
百円玉を握って。
メダルを入れて。
欲しい景品を見つけて。
取れなくて。
もう一回挑戦して。
そんな何でもない一日を。
十年後。
二十年後。
ふと思い出すことがあるのかもしれない。
そこへ高村がやってきた。
「みんなで何見てるの?」
古坂が答える。
「子どもたち」
「何それ」
高村が笑う。
茂田は腕を組んだ。
「私たちの仕事は、みんなの笑顔を作る仕事ニダ!」
「急に店長っぽい」
細井が言った。
「店長ニダ!」
「知ってますよ」
高村が子どもたちを見ながら言う。
「子どもたちの夢や、大人たちの憩いの場だね」
「おお」
古坂が頷く。
「百合枝さんもいいこと言うね」
「何よ、その反応」
また。
みんなが笑った。
その向こうでは。
小学生たちがまだメダルゲームを続けていた。
今の彼らにとって。
ここは。
友達と遊ぶゲームセンター。
ただ、それだけなのかもしれない。
けれど。
いつか大人になって。
子どもの頃を振り返った時。
学校帰りに友達と遊んだこと。
メダルが増えて喜んだこと。
欲しい景品が取れなくて悔しかったこと。
そんな記憶と一緒に。
ファンステージの風景を思い出す日が来るのかもしれない。
山や川だけが。
懐かしい風景になるわけではない。
ゲーム機の音。
メダルの音。
クレーンゲームの光。
友達の笑い声。
誰かにとっては。
そんなゲームセンターも。
いつか。
懐かしく思い出す場所になる。
今日もまた。
その思い出の一日が。
阿佐野店で生まれていた。