阿佐野店。
メダルゲームコーナー。
「……分かんない」
細井は困っていた。
目の前には、一台のメダルゲーム。
画面にはエラー表示。
さっきから何度確認しても消えない。
「これ、どうすればいいの……?」
いつもの簡単なエラーなら、細井でも対応できる。
しかし。
今回の表示は見たことがなかった。
しかも。
今日はメンテナンス担当の大澤がいない。
そして。
もう一人。
最近、阿佐野でメンテナンスをすることが増えた浜谷も、まだ出勤していなかった。
「困った……」
細井はしばらく筐体を見つめる。
そこへ。
「どうしたの?」
古坂がやってきた。
「古坂さん、これ分かります?」
「どれ?」
古坂が画面を見る。
「このエラーが消えなくて」
「うーん……」
古坂も筐体を確認する。
簡単なエラーなら古坂も分かる。
長くゲームセンターで働いていれば、よく見る症状も自然と覚えていく。
しかし。
「これ、見たことないなぁ」
「古坂さんも?」
「うん」
二人で画面を見つめる。
「大澤さんは?」
「今日いないです」
「あー……」
「浜谷くんもまだです」
「あー……」
二度目の「あー」は少し長かった。
そこへ樋口が通りかかる。
「何してるんですか?」
細井と古坂が同時に振り返った。
「麗美ちゃん、これ分かる?」
「え?」
樋口も加わった。
三人で筐体を見る。
「このエラーなんだけど」
「……見たことないですね」
「麗美ちゃんもかぁ」
説明書も確認する。
表示されている箇所も見る。
一度、分かる範囲で確認してみる。
しかし。
原因が分からない。
「下手に触らない方がいいですよね」
樋口が言う。
「そうだね」
古坂も頷く。
分からないものを適当に触って、余計におかしくしてはいけない。
三人は腕を組んだ。
「どうしよう」
その時。
「何してるんですか?」
今度は矢水だった。
三人が振り返る。
「矢水さん!」
細井が呼ぶ。
「これ分かりません?」
「私?」
矢水も筐体を見る。
そして。
数秒。
「……分かんない」
「ですよねぇ!」
これで四人。
細井。
古坂。
樋口。
矢水。
メダルゲームを囲んでいるのに。
誰も直し方が分からない。
「大澤さんがいたらなぁ」
古坂が呟く。
「今日いないですもんね」
「生田さん呼ぶほどなのかな」
「それもまだ分かんないですよね」
樋口が画面を見る。
とにかく今は、稼働を止めておくしかない。
矢水が聞く。
「浜谷くん今日来るんだよね?」
「来ます」
細井が答える。
「何時から?」
「もうそろそろだと思います」
四人が黙る。
そして。
なぜか全員。
同じ方向を見た。
事務所。
「……待つ?」
古坂が言った。
「待ちましょうか」
樋口が頷く。
細井も頷いた。
「浜谷くんに見てもらおう」
矢水も。
「それがいいかも」
決まった。
浜谷待ち。
数分後。
まだ来ない。
細井が時計を見る。
「そろそろなんだけどなぁ」
「遅刻?」
古坂が言う。
「まだ勤務時間前です!」
「分かってるって」
さらに数分。
四人はそれぞれ仕事に戻りながらも、時々事務所の方を見る。
そして。
「来た!」
細井が言った。
「え?」
古坂が振り返る。
事務所の奥から。
一人の男が出てきた。
制服姿。
浜谷琉。
出勤したばかりの浜谷は、何も知らない。
「おはようございまーす」
四人が一斉に浜谷を見る。
細井。
古坂。
樋口。
矢水。
「…………」
浜谷が立ち止まる。
「え?」
四人はまだ見ている。
「……なんですか?」
細井が歩み寄る。
「浜谷くん」
「はい」
細井はメダルゲームを指差した。
「待ってた」
「え?」
古坂も笑顔で近づいてくる。
「待ってたよー」
「なんですか?」
樋口も。
「お願いします」
「だから何がですか?」
矢水まで。
「浜谷くん、こっち」
「ちょっと待ってください!」
四人に囲まれる浜谷。
「俺まだ出勤したばっかりなんですけど!」
誰も聞いていない。
「何!?」
浜谷は状況が分からないまま、メダルゲームコーナーへ連れていかれる。
そして。
目の前には。
謎のエラーを出した一台のメダルゲーム。
浜谷は画面を見る。
四人は浜谷を見る。
「…………」
「…………」
浜谷がゆっくり振り返った。
「……これですか?」
四人が頷く。
「これただのメダル補充ですよ?」