原町中央店。
メダルゲームコーナー。
日村が一台の機械の前にしゃがみ込んでいた。
「……詰まってるな」
扉を開け、内部を覗き込む。
メダルの通り道。
そこには何枚ものメダルが重なるように引っかかっていた。
「結構ギチギチに詰まってるな」
日村は工具を手に取り、作業を始めた。
その頃。
カウンターでは、川原が浜谷を見ていた。
「……」
浜谷は天を仰いでいる。
いつものように仕事はしている。
呼ばれれば返事もする。
接客も普通。
ただ。
明らかに元気がない。
「浜谷さん」
「はい?」
「元気出してくださいよ」
浜谷が苦笑する。
「元気ではあるんですけどね」
「そうは見えないですけど」
「まあ……」
少し黙る。
「なかなか、いつも通りにはいきませんよ」
「……そうですよね」
川原はそれ以上聞かなかった。
何があったのか。
浜谷も話さない。
川原も無理には聞かない。
ただ隣に立っていた。
一方。
「……固いな」
日村は詰まったメダルと格闘していた。
一枚動かそうとすると、別の一枚が引っかかる。
押してもダメ。
引いてもダメ。
「ここか」
少し角度を変える。
一枚。
カラン。
メダルが落ちた。
だが、まだ詰まっている。
カウンター。
「川原さんって、嫌なことあった時どうします?」
突然、浜谷が聞いた。
「私ですか?」
「はい」
川原は少し考える。
「寝ます」
「それが一番ですよね」
「あと、誰かと話したり」
「なるほど」
「浜谷さん、今話してるじゃないですか」
「……確かに」
浜谷が少し笑った。
さっきより。
ほんの少しだけ、いつもの顔だった。
メダルゲームコーナー。
日村はさらに奥を覗き込む。
「これが原因か」
引っかかっていた一枚を動かす。
カラン。
また一枚。
さらに。
カラン。
少しずつ、メダルが流れ始める。
カウンターでは川原が言った。
「まあ、無理にいつも通りじゃなくてもいいんじゃないですか?」
「え?」
「そのうち戻りますよ」
「……ですかね」
「たぶん」
「たぶんなんかい!」
浜谷が笑う。
川原も笑った。
その時。
メダルゲームコーナーから。
ジャラジャラジャラ――。
詰まっていたメダルが一気に流れた。
「お」
日村が手を止める。
メダルは次々と通り道を抜けていく。
「抜けた」
同じ頃。
浜谷が小さく息を吐いた。
「……まあ、いつまでも引きずっててもしょうがないか」
そう言って。
いつものように少し笑った。
川原も頷く。
「その方が浜谷さんっぽいです」
「なんですか、それ」
「そのままです」
日村は正常に流れ始めたメダルを確認し、扉を閉める。
浜谷はカウンターから店内へ歩き出す。
完全に消えたわけじゃない。
それでも。
詰まっていたメダルが一枚ずつ抜けていくように。
浜谷の中に引っかかっていた悲しみも。
少しずつ。
少しずつ。
すり抜けていった。