阿佐野店。
「今日、りゅう座流星群が見えるらしいニダ!」
茂田がスマートフォンを見ながら言った。
浜谷と細井が顔を上げる。
「りゅう座流星群?」
「そうニダ。今日が見頃らしいニダ」
「へえ、流星群なんて久しぶりに聞きました」
浜谷も茂田のスマートフォンを覗き込む。
今日は浜谷と細井が遅番。
天気も悪くない。
閉店する頃でも、まだ見られるかもしれない。
「見たいですねー」
浜谷が言うと。
茂田が何かに気づいた。
「あ!」
「なんですか?」
「りゅう座流星群って、琉くんの名前が二個入ってるニダ!」
「二個?」
「りゅう座の『りゅう』と、流星群の『りゅう』ニダ!」
「いや『りゅう』ってだけじゃないですか!漢字違うし!」
細井が笑う。
「確かに浜谷くんの琉だけど」
「浜谷琉星群ニダ!」
「それは違いません?」
浜谷は笑った。
流星群。
見られればいい。
その程度に思っていた。
そして。
その日の閉店後。
店内の片付けを終えた浜谷は、外へ出た。
夜空を見上げる。
「…………」
街の明かりはある。
それでも。
空を見ていると。
「あ」
一筋。
光が走った。
「すげーな……」
浜谷は立ったまま空を見上げる。
しばらく待つ。
また一つ。
「おお……」
思っていた以上に綺麗だった。
仕事が終わった後。
ただ夜空を眺める。
研究続きでまともに空を見たのは久しぶりだった。
いつぶりだろうか。
たまには、こういう時間も悪くない。
「綺麗だね」
「ほんとですね……って」
浜谷が横を見る。
「いつの間に!?」
細井が立っていた。
「今来た」
「声かけてくださいよ!」
「かけたじゃん」
「そういう意味じゃなくて!」
細井は笑いながら。
すぐに夜空へ視線を戻した。
「あ!」
流れ星。
「見た?」
「見ました」
「すごいね」
細井は完全に流星群へ夢中だった。
空を見上げたまま。
次の流れ星を待っている。
「あ、また!」
「…………」
浜谷は返事をしなかった。
夜空を見ていない。
隣を見ていた。
流れ星を見つけるたびに。
嬉しそうに笑う細井。
その横顔を。
ぼんやりと眺めていた。
「浜谷くん」
「はい」
「ちゃんと見てる?」
「見てますよ」
見ている。
確かに。
見てはいる。
ただし。
流星群を見ているとは言っていない。
「あっ!」
細井がまた声を上げる。
「今のすごかった!」
「…………」
「ほんとに綺麗!!」
浜谷は。
少しだけ間を置いて。
「……綺麗です……」
「ね!」
細井は空を見上げたまま答えた。
気づいていない。
浜谷も。
それ以上は何も言わなかった。
二人の頭上を。
また一つ。
光が流れていく。
細井は。
流星群を見ていた。
浜谷は。
その隣で。
別のものを見ていた。
年に一度の。
りゅう座流星群。
その夜。
阿佐野店の前には。
もう一つ。
誰にも気づかれない。
阿佐野琉星群が。
静かに流れていた。