ようこそ!ゲームセンター『ファンステージ』へ!   作:君脇玲

258 / 269
阿佐野琉星群

阿佐野店。

 

「今日、りゅう座流星群が見えるらしいニダ!」

 

茂田がスマートフォンを見ながら言った。

 

浜谷と細井が顔を上げる。

 

「りゅう座流星群?」

 

「そうニダ。今日が見頃らしいニダ」

 

「へえ、流星群なんて久しぶりに聞きました」

 

浜谷も茂田のスマートフォンを覗き込む。

 

今日は浜谷と細井が遅番。

 

天気も悪くない。

 

閉店する頃でも、まだ見られるかもしれない。

 

「見たいですねー」

 

浜谷が言うと。

 

茂田が何かに気づいた。

 

「あ!」

 

「なんですか?」

 

「りゅう座流星群って、琉くんの名前が二個入ってるニダ!」

 

「二個?」

 

「りゅう座の『りゅう』と、流星群の『りゅう』ニダ!」

 

「いや『りゅう』ってだけじゃないですか!漢字違うし!」

 

細井が笑う。

 

「確かに浜谷くんの琉だけど」

 

「浜谷琉星群ニダ!」

 

「それは違いません?」

 

浜谷は笑った。

 

流星群。

 

見られればいい。

 

その程度に思っていた。

 

そして。

 

その日の閉店後。

 

店内の片付けを終えた浜谷は、外へ出た。

 

夜空を見上げる。

 

「…………」

 

街の明かりはある。

 

それでも。

 

空を見ていると。

 

「あ」

 

一筋。

 

光が走った。

 

「すげーな……」

 

浜谷は立ったまま空を見上げる。

 

しばらく待つ。

 

また一つ。

 

「おお……」

 

思っていた以上に綺麗だった。

 

仕事が終わった後。

 

ただ夜空を眺める。

 

研究続きでまともに空を見たのは久しぶりだった。

 

いつぶりだろうか。

 

たまには、こういう時間も悪くない。

 

「綺麗だね」

 

「ほんとですね……って」

 

浜谷が横を見る。

 

「いつの間に!?」

 

細井が立っていた。

 

「今来た」

 

「声かけてくださいよ!」

 

「かけたじゃん」

 

「そういう意味じゃなくて!」

 

細井は笑いながら。

 

すぐに夜空へ視線を戻した。

 

「あ!」

 

流れ星。

 

「見た?」

 

「見ました」

 

「すごいね」

 

細井は完全に流星群へ夢中だった。

 

空を見上げたまま。

 

次の流れ星を待っている。

 

「あ、また!」

 

「…………」

 

浜谷は返事をしなかった。

 

夜空を見ていない。

 

隣を見ていた。

 

流れ星を見つけるたびに。

 

嬉しそうに笑う細井。

 

その横顔を。

 

ぼんやりと眺めていた。

 

「浜谷くん」

 

「はい」

 

「ちゃんと見てる?」

 

「見てますよ」

 

見ている。

 

確かに。

 

見てはいる。

 

ただし。

 

流星群を見ているとは言っていない。

 

「あっ!」

 

細井がまた声を上げる。

 

「今のすごかった!」

 

「…………」

 

「ほんとに綺麗!!」

 

浜谷は。

 

少しだけ間を置いて。

 

「……綺麗です……」

 

「ね!」

 

細井は空を見上げたまま答えた。

 

気づいていない。

 

浜谷も。

 

それ以上は何も言わなかった。

 

二人の頭上を。

 

また一つ。

 

光が流れていく。

 

細井は。

 

流星群を見ていた。

 

浜谷は。

 

その隣で。

 

別のものを見ていた。

 

年に一度の。

 

りゅう座流星群。

 

その夜。

 

阿佐野店の前には。

 

もう一つ。

 

誰にも気づかれない。

 

阿佐野琉星群が。

 

静かに流れていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。