ようこそ!ゲームセンター『ファンステージ』へ!   作:君脇玲

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時間帯責任者が来た!

阿佐野店。

 

午後。

 

「じゃあ休憩行ってきまーす!」

 

細井がバックヤードから出てきた。

 

その横では、樋口が帰る準備をしている。

 

「じゃあ私上がりだから帰るねー!お疲れー!」

 

「お疲れ様です!」

 

浜谷が返事をする。

 

「お疲れ様です!」

 

細井も手を振った。

 

そして。

 

「浜谷くん」

 

「はい?」

 

細井が店舗用スマホを差し出した。

 

さらに。

 

鍵の入ったキーケース。

 

「はい」

 

「…………え?」

 

浜谷は受け取らず、それを見る。

 

「なんですか?」

 

「スマホと鍵」

 

「それは分かります」

 

「浜谷くん持ってて」

 

「なんでですか?」

 

細井が不思議そうに浜谷を見る。

 

「浜谷くん、次の時間、時間帯責任者でしょ?」

 

「…………え?」

 

浜谷はワースケを確認した。

 

自分の名前。

 

時間。

 

役割。

 

「…………」

 

もう一度見る。

 

間違いない。

 

「ほんまや……」

 

樋口が笑った。

 

「知らなかったの?」

 

「見てなかったです!」

 

「じゃあよろしくねー」

 

「え、ちょっ」

 

「お疲れー!」

 

樋口は帰っていった。

 

細井も時計を見る。

 

「じゃあ私、休憩行ってくるね」

 

「待ってください!」

 

「何?」

 

浜谷はスマホとキーケースを両手に持ったまま聞く。

 

「僕、ちゃんと時間帯責任者なの初めてなんですけど」

 

「そうなの?」

 

「そうですよ!」

 

浜谷はこれまでにも、店内を一人で見る時間を経験している。

 

鍵を預かったこともある。

 

店舗用スマホを持ったことだってある。

 

しかし。

 

ワースケ上で正式に。

 

この時間の責任者として名前が入っているのは。

 

かなり久々だった。

 

時間帯責任者。

 

それは、その時間帯の責任者。

 

金庫など、貴重なものを管理するための鍵。

 

店にかかってくる電話を受ける店舗用スマホ。

 

それらを持ち。

 

その時間。

 

店を任される。

 

浜谷は手の中のキーケースを見る。

 

「…………」

 

店舗用スマホを見る。

 

「…………」

 

急に重く感じる。

 

細井が言った。

 

「大丈夫だよ」

 

「いや、仕事自体はいつも通りなんですけど」

 

「うん」

 

「時間帯責任者って言われると急に怖いです」

 

「大丈夫大丈夫」

 

細井は笑っている。

 

「なんかあったら電話して」

 

浜谷は店舗用スマホを持ち上げた。

 

「その電話、今僕が持ってるんですよ」

 

「あ、そっか」

 

「責任者ぁ……」

 

「頑張って!」

 

細井は休憩へ向かった。

 

そして。

 

浜谷、一人。

 

「…………」

 

店内を見渡す。

 

いつもの阿佐野店。

 

何も変わっていない。

 

クレーンゲーム。

 

メダルゲーム。

 

お客さん。

 

いつもの景色。

 

ただし。

 

今だけは。

 

自分が時間帯責任者。

 

浜谷は少し姿勢を正した。

 

「よし」

 

巡回する。

 

クレーンゲームを見る。

 

問題なし。

 

メダルゲームを見る。

 

問題なし。

 

店内を見る。

 

問題なし。

 

「…………」

 

もう一周。

 

問題なし。

 

「責任者やからな」

 

さらに一周。

 

何もない。

 

店舗用スマホも鳴らない。

 

エラーも出ない。

 

トラブルもない。

 

「…………暇やな」

 

結局、いつもの阿佐野店だった。

 

しばらくして。

 

ピロリン。

 

浜谷の手の中で店舗用スマホが鳴った。

 

「うわっ!」

 

画面を見る。

 

事業部チャット。

 

浜谷はスマホを開く。

 

「お、原町からやん」

 

内容は。

 

石村からクレーンゲームの展開方法について送られてきた。

 

「あとで細井さんに言っとかんとな」

 

そして、返信する。

 

『確認しました!ありがとうございます 阿佐野店 浜谷』

 

浜谷はスマホを見る。

 

「できた」

 

誰も褒めてくれない。

 

時間帯責任者だから。

 

その後。

 

お客さんに両替について聞かれた。

 

答えた。

 

メダルゲームのエラーが出た。

 

直した。

 

クレーンゲームの景品を手直しした。

 

いつもやっている仕事。

 

何も変わらない。

 

なのに。

 

キーケースが腰にあるだけで。

 

妙に責任を感じる。

 

「時間帯責任者……」

 

浜谷は小さく呟いた。

 

悪くない。

 

ちょっとだけ。

 

偉くなった気分もする。

 

「…………」

 

周囲に誰もいないことを確認する。

 

胸を張る。

 

「時間帯責任者、浜谷琉。キラーン」

 

少し格好をつけた。

 

「いや、キラーンちゃうな、シャキーン!」

 

その瞬間。

 

「ただいまー」

 

「うわっ!」

 

細井が戻ってきた。

 

「何してたの?」

 

「何もしてません!」

 

「今なんか言ってなかった?」

 

「言ってないです!」

 

細井は笑いながら浜谷のところへ来た。

 

「どうだった?時間帯責任者」

 

「余裕でしたよ」

 

「本当に?」

 

「チャットも返信しました」

 

「おー」

 

「メンテもしました」

 

「おー」

 

「店も守りました」

 

「それはいつもやってるでしょ」

 

「責任者としてです!」

 

浜谷は少し得意げだった。

 

細井が手を出す。

 

「じゃあスマホと鍵ちょうだい」

 

「はい」

 

浜谷は店舗用スマホを渡す。

 

続いてキーケースも。

 

手から離れた。

 

「…………」

 

軽い。

 

細井が聞く。

 

「どうしたの?」

 

「いや……」

 

浜谷は自分の手を見る。

 

「時間帯責任者、終わったなと思って」

 

「またあるよ」

 

「ですよね」

 

ほんの短い時間。

 

浜谷琉。

 

初めての、正式な時間帯責任者。

 

特別な事件は。

 

何も起こらなかった。

 

それでも。

 

少しだけ。

 

いつもより背筋を伸ばして働いた時間だった。

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