阿佐野店。
昼過ぎ。
浜谷が景品の入った段ボールを整理していると、細井がやってきた。
「浜谷くん」
「はい?」
「これ、上に置いてくれない?」
細井が指差したのは、棚の上段。
「いいですよ」
浜谷は箱を受け取り、ひょいと持ち上げた。
「ありがと!」
「いえいえ」
数分後。
「浜谷くん」
「はい?」
「これ運ぶの手伝って」
「いいですよ」
さらに数分後。
「浜谷くん、このエラー見ておいてくれない?」
「いいですよ」
さらに。
「浜谷くん」
「はい?」
「私カウンター行かなきゃだから、これ片付けといてくれない?」
「いいですよ」
その様子を、古坂がじっと見ていた。
「……ねえ」
隣にいた高村が振り返る。
「何?」
「浜谷くん、細井ちゃんに頼まれたこと全部やってない?」
高村も浜谷を見る。
「……やってるね」
そこへ茂田もやってきた。
「何の話ニダ?」
「浜谷くんが細井ちゃんのお願い全部聞くの」
「全部?」
浜谷が聞きつけた。
「全部じゃないですよ!」
古坂が笑う。
「さっきから全部やってるじゃん」
「仕事ですから!暇だから手伝うんです!」
「本当に?」
「当たり前じゃないですか」
そこへ。
「浜谷くーん」
細井の声。
「はい!」
浜谷が即座に振り返る。
「これ、後ろに持ってってくれない?」
「いいですよ」
受け取る。
三人が浜谷を見る。
「……なんですか?」
高村が笑った。
「今も聞いたね」
「だから仕事ですって!」
茂田の目が光る。
「検証するニダ」
「やめてください」
「細井ちゃん、何か頼んでみるニダ!」
「聞こえてますよ!」
細井も面白くなってきたらしい。
「じゃあ……浜谷くん」
「はい」
「ゴミ捨て行ってきて」
「いいですよ」
古坂が吹き出した。
「行くんだ!」
「ゴミ捨てくらい行くでしょ!」
細井がさらに段ボールを差し出す。
「じゃあ、これもついでに」
「はい」
「あとこれも」
「はい」
「戻ってきたら、さっきのメダルゲームもう一回見て」
「いいですよ」
気づけば浜谷の両手はいっぱいだった。
高村が呟く。
「全部聞いてるね」
「業務ですから!」
「じゃあ私も」
古坂が小さな箱を持ってくる。
「浜谷くん、これもお願い」
「今無理です」
「えっ」
即答だった。
古坂は箱を持ったまま固まる。
そして細井を見る。
「細井ちゃん」
「ん?」
「これ浜谷くんにお願いしてみて」
「いいけど……」
箱を受け取る。
「浜谷くん、これもお願い」
「そこ置いといてください。後でやります」
古坂が指を差した。
「やるんじゃん!!」
「後でですよ!?」
「私の時は今無理って言ったじゃん!」
「だって今無理ですもん!」
「細井ちゃんでも今は無理でしょ!」
「だから後でやるって!」
茂田が笑いながら頷く。
「完全に術中ニダ」
「何の術ですか!」
細井本人まで笑っている。
「じゃあ最後にもう一個」
「まだあるんですか?」
「浜谷くん、ジュース買ってきて」
「それは自分で行ってください」
一瞬。
静かになった。
高村が声を上げる。
「断った!」
古坂も拍手する。
「やればできるじゃん!」
「何なんですか、これ!」
細井は少し考えてから。
「じゃあ一緒に買いに行こ」
「行きましょう!」
「……」
古坂、高村、茂田。
三人が同時に浜谷を見る。
浜谷も三人を見る。
「……何ですか?」
古坂が呆れた。
「結局行くんじゃん」
「いや、一緒なら別にいいでしょ!」
細井は笑いながら歩き出す。
「ほら、浜谷くん行くよ!」
「はいはい」
その後ろを浜谷がついていく。
茂田は二人の背中を見送りながら。
「十中八九……」
少し考えた。
「いや、術中八九ニダ」
浜谷は今日も。
細井の術中で。
四苦八苦していた。