阿佐野店。
昼過ぎ。
一台の車が駐車場へ入ってきた。
助手席から降りてきたのは浜谷。
運転席にいるのは、大学の親友・長北だった。
「ありがとさん!助かったわ」
「いいよ、暇だったし」
浜谷はバッグを肩に掛ける。
今日は遅番。
昼から閉店までの勤務だった。
「じゃ、行ってくるわ」
「頑張れよ」
「送ってくれてほんまありがとな!」
車を離れ、阿佐野店へ入る。
そして数分後。
制服に着替えた浜谷が店内へ出ると。
「……」
見覚えのある男がクレーンゲームをしていた。
浜谷はため息をつきながら、背後から近づき、声を作った。
「お客さん、何をされてるんですか?」
長北が振り返る。
「びっくりした!!遊んでるだけ!」
「帰ったんちゃうんかい!」
「せっかく来たし」
「今日は何とも言えん!」
その声に矢水が気づいた。
「あら、長北くん」
「どうも、お久しぶりです」
「今日はどうしたの?」
「浜谷が寝坊したので送ってきました!」
「優しいねぇ」
「こいつが寝坊したからっすよ!」
浜谷が睨む。
「余計なこと言わんでええねん」
矢水が笑った。
しばらくして、樋口もやってくる。
「あ、長北くんじゃん!」
「麗美ちゃんー!」
「麗美ちゃんって言うな。」
浜谷が真顔で言う。
「長北くんは何してんの?」
「浜谷送ってきたついでに遊んでます」
「お前もうそれ言わんでええやろ!」
浜谷の声が飛ぶ。
樋口が笑った。
「仲いいね」
「腐れ縁ですよ」
「誰が腐れ縁や!」
「お前」
「帰れ!」
結局、長北はしばらく遊んでから帰っていった。
浜谷はそのまま仕事へ。
接客をして。
エラーに呼ばれて。
景品を補充して。
時間は過ぎていく。
そして。
閉店後。
浜谷が阿佐野店を出る。
昼とは違い、駐車場は暗い。
その一角。
見覚えのある車が停まっていた。
助手席の窓が開く。
「お疲れー」
「おう」
浜谷は助手席に乗り込んだ。
「すまんな、帰りまで」
「ええよ。どうせ暇だったし」
車が走り出す。
窓の外には、夜の街。
昼から働き続けた浜谷は、シートに深く座った。
「疲れた?」
「まあまあ」
「今日何してたん?」
「仕事」
「知っとるわ」
浜谷が笑う。
しばらく走ると、長北が言った。
「腹減ったな」
「俺も」
「なんか食ってく?」
「行くか」
「じゃあ今日も」
長北がニヤリとする。
いつもの流れ。
夕飯代を賭けたじゃんけん。
「最初は――」
「いや」
浜谷が止めた。
「今日はええわ」
「何が?」
「じゃんけん」
長北が一瞬だけ浜谷を見る。
「なんで?」
浜谷は窓の外を見たまま言った。
「今日は俺出す」
「……珍し」
「行きも帰りもありがとな。送ってもらったし」
「ええの?」
「ええよ。好きなん食え」
「マジ?」
「おう」
「じゃあ一番高いやつ」
「限度はあるぞ」
「好きなん食えって言ったやん!」
「常識の範囲内でや!」
二人の笑い声が車内に響いた。
信号で車が止まる。
浜谷は何気なく窓の外を見る。
夜空に、小さな星がいくつか見えた。
「どこ行く?」
長北が聞く。
「どこでもええよ」
「じゃあ肉」
「高いやんけ」
「お前が好きなの食えって」
「……言わなきゃよかった」
信号が青に変わる。
車は再び走り出した。
昼に送ってくれて。
夜には迎えに来て。
最後は一緒に飯を食う。
大袈裟なことは何もない。
それでも浜谷にとって。
星の見える帰り道を走るこいつは。
なんだかんだ。
大切な「あいつ」だった。