原町中央店へ向かう途中。
浜谷はスマホで原町のチャットを確認していた。
新しい投稿が一件。
高崎からだった。
『お店の中にムクドリが入りました。フンに気をつけて!』
「……」
浜谷は歩きながら画面を二度見した。
「はぁ!?」
ムクドリ。
ゲームセンターの業務連絡に出てくるとは思わなかった単語だった。
原町中央店。
「おはようございまーす」
出勤した浜谷が店内へ出る。
すると。
高崎が床を拭いていた。
「……何してるんですか?」
「フン掃除」
「嘘じゃなかったんですね」
「なんで嘘つくのよ!」
「いや、チャット見て何事かと思いましたよ」
高崎が天井を指差した。
「まだいるよ」
「マジですか」
浜谷も見上げる。
だが。
「……いないですよ?」
「さっきあっち飛んでった」
近くにいた日村が天井を見ながら言った。
「天井の小さな隙間から、たまに入ってくるんだよね。でも普段はお店の中までは入ってこないんだけど……」
「今日は冒険しちゃったんですね」
「冒険されても困るけどね」
その時。
「あ!」
高崎が指差した。
天井近くを黒い影が横切った。
バサバサバサッ!
「いた!」
「うわっ!」
ムクドリは店内を飛び回り、そのままクレーンゲームの上へ。
浜谷と高崎が追いかける。
「今あそこです!」
「どこ!?」
「クレーンゲームの上!」
「見えた!」
そこへ。
日村と石村が網を持って現れた。
「いた?」
石村が聞く。
浜谷が指差す。
「あそこです。今動いてません」
日村が網を構える。
「じゃあ俺こっちから行く」
「俺、反対側行くよ」
石村も回り込む。
その間、大沼は近くのお客さんに声をかけていた。
「すみません、今ちょっと鳥が入っちゃってて……お気をつけください」
「鳥?」
「はい……ムクドリが」
ゲームセンターとは思えない説明だった。
浜谷と高崎は鳥から目を離さない。
「まだそこです」
「浜谷くん、見失わないでね」
「了解です」
日村がゆっくり近づく。
あと少し。
しかし。
バサッ!
「あっ、飛んだ!」
「どっち!?」
「メダルゲームの方!」
五人が一斉に動く。
「そっち行った!」
「いたいた!」
「日村さん、上です!」
「分かった!」
石村が反対側から回る。
ムクドリが再び飛んだ。
だが今度は。
「よし!」
日村が網を振る。
ムクドリが方向を変えた、その先。
石村が構えていた。
「こっち来た!」
網を出す。
バサバサッ!
「入った!」
「おお!」
浜谷が声を上げた。
石村が慎重に網を押さえる。
「捕まえたよ」
「よかったぁ」
高崎が息を吐いた。
日村も網の中を確認する。
「怪我してなさそうだね」
そのまま外へ。
安全な場所で網を開くと、ムクドリは勢いよく飛び出した。
五人が空を見上げる。
「帰ったね」
大沼が笑った。
「もう入ってくんなよー」
浜谷が鳥の背中へ声をかける。
高崎も笑う。
「これでフン掃除しなくて済む」
「そこが一番大事ですね」
浜谷が店内へ戻ろうとした、その時。
高崎が足元を見る。
「浜谷くん、ストップ!!」
「え!?」
「そこ」
「え?」
床に。
最後の置き土産。
「……」
浜谷はムクドリが飛んでいった空を見た。
「最後にやりよったな」
高崎が笑いながら雑巾を差し出す。
「浜谷くん、お願い」
「普通に嫌なんですけど!?」
原町にやってきた迷い鳥。
無事に空へ帰っていった。
最後の置き土産だけを。
原町に残して。