ようこそ!ゲームセンター『ファンステージ』へ!   作:君脇玲

268 / 269
遠くて近い存在

原町中央店。

 

午後。

 

比較的落ち着いた店内。

 

浜谷はカウンターの近くで、高崎と山神と話していた。

 

「浜谷くん、最近阿佐野ばっかりだよね」

 

高崎が言う。

 

「そうですね。ずっとあっちです」

 

「もう向こうにも慣れた?」

 

「もう慣れましたね」

 

「おぅ」

 

山神が頷く。

 

「向こうでもメンテやってんだろ?」

 

「やってます。阿佐野のメンテ担当の人がいない時とか、僕が見ることも増えましたね」

 

「へぇ。頼られてるじゃん」

 

「いやいや、分かんないのもまだいっぱいありますよ」

 

浜谷が笑う。

 

すると高崎が、ふと思い出したように言った。

 

「そういえば」

 

「はい?」

 

「古坂さんと細井さんは元気?」

 

浜谷はすぐに笑った。

 

「元気ですよ!」

 

少し考えて。

 

「元気すぎるくらいです」

 

「そんなに?」

 

「そんなにです」

 

山神が笑う。

 

「おぅ。古坂さんは変わんねぇか」

 

「変わんないですねぇ」

 

「細井さんも?」

 

「変わんないです」

 

浜谷は少しだけ考える。

 

「まあ、僕に対する扱いは年々雑になってる気がしますけど」

 

「仲良くなったってことでしょ」

 

「そういうことにしときます」

 

高崎が笑った。

 

そこへ石村が通りかかる。

 

「何の話?」

 

「古坂さんと細井さん」

 

高崎が答える。

 

「浜谷くんに近況聞いてたの」

 

「ああ」

 

石村も懐かしそうな顔になる。

 

「二人とも元気?」

 

「元気ですよ」

 

「古坂さん、原町にいた頃から変わらない?」

 

「多分変わってないと思います」

 

「そうかぁ」

 

その会話を聞きつけたのか。

 

今度は大沼がやってきた。

 

「古坂さんの話してるんですか?」

 

「そう」

 

「懐かしい!」

 

「みんなで一緒に働いてましたもんね」

 

「ね!」

 

さらに藤屋。

 

相馬まで。

 

気づけば。

 

カウンターの周りに人が増えていた。

 

「古坂さん、原町にいた時よく喋ってたよね」

 

藤屋が言う。

 

「喋ってましたねぇ」

 

大沼も笑う。

 

「明るかったし」

 

相馬が懐かしそうに頷く。

 

「細井さんもいたね」

 

「いましたね」

 

浜谷が答える。

 

誰かが名前を出すたび。

 

一つ。

 

また一つ。

 

昔の光景が浮かんでくる。

 

同じカウンターに立っていたこと。

 

忙しい日に一緒に走り回ったこと。

 

休憩中にくだらない話をしていたこと。

 

失敗して。

 

笑って。

 

また仕事に戻ったこと。

 

今は。

 

二人とも阿佐野店にいる。

 

同じ制服を着ていても。

 

毎日顔を合わせるわけではない。

 

「なんか不思議だね」

 

高崎が言った。

 

「何がです?」

 

「一緒に働いてた人が別の店にいるって」

 

「ああ」

 

浜谷も頷く。

 

「確かに」

 

「ずっといたような気がするのにね」

 

石村も言う。

 

「古坂さんがいないの、最初は変な感じだったなぁ」

 

「分かる」

 

相馬が頷いた。

 

「いるのが普通だったからね」

 

「細井さんも、今じゃ完全に阿佐野の人だもんね」

 

藤屋が言う。

 

浜谷は少し笑う。

 

「二人とも馴染んでますよ」

 

「浜谷くんもでしょ?」

 

高崎が言った。

 

「いや、僕は原町です!」

 

「最近どっちの人か分かんないよ」

 

「高崎さんまで!?」

 

みんなが笑った。

 

その時。

 

「何の話してるの?」

 

日村がやってきた。

 

「古坂さんと細井さん」

 

大沼が答える。

 

「二人とも元気かなって」

 

「ああ。元気だよ」

 

日村はあっさり答えた。

 

浜谷が見る。

 

「日村さんも知ってますもんね」

 

「阿佐野ちょくちょく行くからね」

 

「そうだった」

 

高崎が笑う。

 

「ここにも近況知ってる人いた」

 

「この前も普通に話したよ」

 

日村にとっては。

 

古坂も細井も。

 

そこまで久しぶりの存在ではない。

 

阿佐野へ応援に行けば会うことがある。

 

浜谷も同じだった。

 

だから。

 

原町のみんなが懐かしそうに話していることが、少し不思議でもあった。

 

自分にとっては。

 

つい最近も顔を合わせた二人なのだから。

 

「今度、二人に言っときますよ」

 

浜谷が言った。

 

「何を?」

 

「原町で話題になってましたよって」

 

大沼が笑う。

 

「それだけ?」

 

「じゃあ、みんな元気にしてるって」

 

「それがいいね」

 

相馬が頷いた。

 

山神も。

 

「おぅ」

 

短く答えた。

 

高崎が浜谷を見る。

 

「あと、たまには顔出してって言っといて」

 

「分かりました」

 

「古坂さんにも細井さんにもね」

 

「伝えときます」

 

浜谷にとって。

 

古坂も細井も。

 

決して遠い存在ではない。

 

日村にとっても。

 

きっと同じ。

 

けれど。

 

原町中央店で働く人たちにとっては。

 

昔より少しだけ遠くなった二人。

 

それでも。

 

名前が出れば。

 

みんなが自然と話し始める。

 

思い出が次々と出てくる。

 

そして。

 

今どうしているのか。

 

少し気になる。

 

働く店が変わっても。

 

一緒に働いた時間まで。

 

なくなるわけではない。

 

遠くなったようで。

 

案外。

 

近くにいる。

 

そんな二人の話をしながら。

 

原町中央店の午後は。

 

いつものように過ぎていくのであった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。