原町中央店。
午後。
比較的落ち着いた店内。
浜谷はカウンターの近くで、高崎と山神と話していた。
「浜谷くん、最近阿佐野ばっかりだよね」
高崎が言う。
「そうですね。ずっとあっちです」
「もう向こうにも慣れた?」
「もう慣れましたね」
「おぅ」
山神が頷く。
「向こうでもメンテやってんだろ?」
「やってます。阿佐野のメンテ担当の人がいない時とか、僕が見ることも増えましたね」
「へぇ。頼られてるじゃん」
「いやいや、分かんないのもまだいっぱいありますよ」
浜谷が笑う。
すると高崎が、ふと思い出したように言った。
「そういえば」
「はい?」
「古坂さんと細井さんは元気?」
浜谷はすぐに笑った。
「元気ですよ!」
少し考えて。
「元気すぎるくらいです」
「そんなに?」
「そんなにです」
山神が笑う。
「おぅ。古坂さんは変わんねぇか」
「変わんないですねぇ」
「細井さんも?」
「変わんないです」
浜谷は少しだけ考える。
「まあ、僕に対する扱いは年々雑になってる気がしますけど」
「仲良くなったってことでしょ」
「そういうことにしときます」
高崎が笑った。
そこへ石村が通りかかる。
「何の話?」
「古坂さんと細井さん」
高崎が答える。
「浜谷くんに近況聞いてたの」
「ああ」
石村も懐かしそうな顔になる。
「二人とも元気?」
「元気ですよ」
「古坂さん、原町にいた頃から変わらない?」
「多分変わってないと思います」
「そうかぁ」
その会話を聞きつけたのか。
今度は大沼がやってきた。
「古坂さんの話してるんですか?」
「そう」
「懐かしい!」
「みんなで一緒に働いてましたもんね」
「ね!」
さらに藤屋。
相馬まで。
気づけば。
カウンターの周りに人が増えていた。
「古坂さん、原町にいた時よく喋ってたよね」
藤屋が言う。
「喋ってましたねぇ」
大沼も笑う。
「明るかったし」
相馬が懐かしそうに頷く。
「細井さんもいたね」
「いましたね」
浜谷が答える。
誰かが名前を出すたび。
一つ。
また一つ。
昔の光景が浮かんでくる。
同じカウンターに立っていたこと。
忙しい日に一緒に走り回ったこと。
休憩中にくだらない話をしていたこと。
失敗して。
笑って。
また仕事に戻ったこと。
今は。
二人とも阿佐野店にいる。
同じ制服を着ていても。
毎日顔を合わせるわけではない。
「なんか不思議だね」
高崎が言った。
「何がです?」
「一緒に働いてた人が別の店にいるって」
「ああ」
浜谷も頷く。
「確かに」
「ずっといたような気がするのにね」
石村も言う。
「古坂さんがいないの、最初は変な感じだったなぁ」
「分かる」
相馬が頷いた。
「いるのが普通だったからね」
「細井さんも、今じゃ完全に阿佐野の人だもんね」
藤屋が言う。
浜谷は少し笑う。
「二人とも馴染んでますよ」
「浜谷くんもでしょ?」
高崎が言った。
「いや、僕は原町です!」
「最近どっちの人か分かんないよ」
「高崎さんまで!?」
みんなが笑った。
その時。
「何の話してるの?」
日村がやってきた。
「古坂さんと細井さん」
大沼が答える。
「二人とも元気かなって」
「ああ。元気だよ」
日村はあっさり答えた。
浜谷が見る。
「日村さんも知ってますもんね」
「阿佐野ちょくちょく行くからね」
「そうだった」
高崎が笑う。
「ここにも近況知ってる人いた」
「この前も普通に話したよ」
日村にとっては。
古坂も細井も。
そこまで久しぶりの存在ではない。
阿佐野へ応援に行けば会うことがある。
浜谷も同じだった。
だから。
原町のみんなが懐かしそうに話していることが、少し不思議でもあった。
自分にとっては。
つい最近も顔を合わせた二人なのだから。
「今度、二人に言っときますよ」
浜谷が言った。
「何を?」
「原町で話題になってましたよって」
大沼が笑う。
「それだけ?」
「じゃあ、みんな元気にしてるって」
「それがいいね」
相馬が頷いた。
山神も。
「おぅ」
短く答えた。
高崎が浜谷を見る。
「あと、たまには顔出してって言っといて」
「分かりました」
「古坂さんにも細井さんにもね」
「伝えときます」
浜谷にとって。
古坂も細井も。
決して遠い存在ではない。
日村にとっても。
きっと同じ。
けれど。
原町中央店で働く人たちにとっては。
昔より少しだけ遠くなった二人。
それでも。
名前が出れば。
みんなが自然と話し始める。
思い出が次々と出てくる。
そして。
今どうしているのか。
少し気になる。
働く店が変わっても。
一緒に働いた時間まで。
なくなるわけではない。
遠くなったようで。
案外。
近くにいる。
そんな二人の話をしながら。
原町中央店の午後は。
いつものように過ぎていくのであった。