阿佐野店。
浜谷はバックヤードで、生田と話していた。
二人の前には工具箱。
その横には、先ほどまで点検していた筐体の部品が置かれている。
「じゃあ、ここはしばらく様子見で大丈夫ですかね?」
「うん。今のところは大丈夫だと思う」
「了解です」
浜谷が頷く。
生田が来ると。
普段、自分たちだけでは判断しにくい故障や不具合も、少しずつ原因が見えてくる。
浜谷にとっては、それを横で見ているだけでも勉強になる。
「これって、もしまた同じ症状出たらどうしたらいいです?」
「その時はまずここ確認して。それでもダメだったら連絡して」
「分かりました」
生田は工具を片付け始めた。
ドライバー。
レンチ。
テスター。
次々と工具箱へ戻していく。
そして立ち上がる。
「じゃあ」
「あれ?」
浜谷が生田を見る。
「もう帰っちゃうんですか?」
「今から原町行くね」
「え?」
浜谷が時計を見る。
まだ勤務時間中とはいえ。
ついさっきまで阿佐野の筐体を見ていた人である。
「今からですか?」
「うん」
「原町で何かあったんですか?」
「ちょっと見てほしい機械があるみたい」
生田は当たり前のように答える。
生田はエリアメンテナンス。
一つの店舗だけで働いているわけではない。
県内の店舗を巡り。
店舗スタッフだけでは対応できないエラーや故障を確認する。
筐体を点検し。
必要なら部品を発注する。
時には修理をして。
終われば、また別の店舗へ向かう。
浜谷が感心したように言った。
「大変ですね……」
「何が?」
「いや、阿佐野来て、今度は原町って」
「まあ、そういう仕事だからね」
生田は工具箱を持ち上げる。
そこへ茂田がやってきた。
「生田さん、もう行くニダ?」
「うん。原町寄ってくる」
「お願いします」
茂田は生田の工具箱を見る。
「今日は忙しいニダね」
「今日はまだそんなでもないよ」
「これで?」
浜谷が思わず聞いた。
生田が笑う。
「重なる時は重なるから」
「うわぁ……」
そこへ細井もやってくる。
「生田さん帰るんですか?」
「原町行ってからね」
「まだあるんだ」
「そう」
細井が浜谷を見る。
「浜谷くんも一緒に行ってくれば?」
「なんでですか」
「勉強になるんじゃない?」
「いや、めちゃくちゃ勉強にはなりますけど」
「じゃあ行ってきた方がいいんじゃない?最近原町行ってないから」
「細井さん…なんでそんなに原町に行かせたがるんですか?」
「行かせたいわけじゃないよ?…阿佐野にいて欲しいし…」
「細井さん…」
生田が笑いながら言う。
「あの、もう行くよ?」
「あっ!すみません!」
浜谷は生田の工具箱を見る。
「一日ついてったら、とんでもない移動距離になりそう」
生田が笑う。
「日によるね」
「県内ずっと回る日もあるんですか?」
「あるよ」
「県外もたまにね」
「県外も!?」
浜谷は少し考える。
自分もメンテナンスをするようになった。
簡単なエラーなら直せる。
部品を交換することもある。
配線を確認することも増えた。
それでも。
分からないことは、まだまだ多い。
そんな時。
最後に頼る人たちがいる。
「生田さん」
「ん?」
「エリアメンテナンスって、店舗からしたらめっちゃありがたいですね」
「急にどうしたの」
「いや、僕が頑張ってもどうにもならなかったら、生田さんに聞けるじゃないですか」
「まあ、そのためにいるからね」
「生田さんいなくなったら困りますもん」
「いなくならないよ」
「よかったです」
「何の確認?」
細井が笑った。
生田が工具箱を持って歩き出す。
「じゃあ行ってくるね」
「お願いします!」
茂田が手を振る。
細井も頭を下げた。
「お疲れ様です」
浜谷も生田の背中を見る。
「生田さん!」
生田が振り返る。
「原町よろしくお願いします!」
「浜谷くんが言うこと?」
「一応、所属なんで!」
「そうだったね、もう阿佐野の人だと思ってた」
「忘れないでくださいよ!」
生田は笑いながら店を出ていった。
浜谷はその姿を見送る。
「すごいなぁ……」
細井が隣に立つ。
「何が?」
「いや」
浜谷は先ほどまで点検していた筐体を見る。
「俺らが普段ここで働いてる間にも、生田さんはあっち行ったりこっち行ったりしてるんだなって」
「そうだね」
「工具箱持って」
茂田が頷く。
「エリアメンテナンスだからね」
一つの店舗で機械が止まれば。
そこへ向かう。
原因を探し。
直せるものは直す。
部品が必要なら手配する。
そして。
また別の店舗から連絡が来れば。
工具箱を持って、次の場所へ。
今日も県内のどこかで。
ゲームセンターの機械を動かすため。
生田は工具片手に西へ東へ向かうのであった。