阿佐野店。
日曜日。
「おはようニダ〜!」
朝から茂田の機嫌がいい。
かなりいい。
高村がその姿を見る。
「今日、なんか機嫌よくない?」
「いつも通りニダ!」
「いや、絶対なんかある」
大澤も茂田を見る。
「なんかいいことあったの?」
「別にないニダ〜」
そう言いながら。
茂田の視線は、ある人物へ向いていた。
古坂冨美子。
今日のシフトには古坂がいる。
それだけで。
茂田は朝からウキウキしていた。
「冨美子〜」
「なに?」
「今日一緒ニダ!」
「そうだね」
「頑張ろうニダ!」
「うん」
温度差がある。
細井が小声で高村に聞く。
「茂田さんって、古坂さんのこと本当に好きですよね」
「好きだよね」
「でも、茂田さんだけじゃなくて、2人がすっごく仲良いからね」
「冨美子〜!」
また呼んでいる。
古坂が振り返る。
「なに?」
「呼んだだけニダ!」
「なんで?」
古坂は再び仕事へ戻った。
高村が呟く。
「ちょっと面倒くさがられてない?」
「仲良しニダ!」
本人は気にしていない。
茂田と古坂は仲が良かった。
以前、原町で一緒に働いていた頃からの付き合いも長い。
年も近い。
だからこそ。
茂田の古坂に対する距離感は、時々バグる。
――この前もそうだった。
阿佐野店。
カウンターで浜谷と細井が話していた。
「この前のお土産のお餅食べてくれました?」
「うん。ありがと!美味しかったよ!」
「喜んでもらえて僕も嬉しいです」
二人が何やら話している。
少し離れた場所。
茂田がその方向をニヤニヤしながらじっと見ていた。
そこへ古坂がやってくる。
「千歌ちゃん、何見てるの?」
茂田が振り返った。
そして。
迷うことなく答えた。
「私が見てるのは冨美子だけニダ!」
「…………」
古坂は無言で茂田を見た。
一秒。
二秒。
そして。
スッ。
そのまま去っていった。
「冨美子!?」
――現在。
「……ってこともあったよね」
高村が言う。
古坂は苦笑する。
「怖いでしょ?」
「愛ニダ!」
「重いんだよ」
細井が笑う。
「でも仲いいですよね」
「まあ、長いからね」
古坂がそう答えると。
茂田が反応した。
「聞いたニダ!?」
「何が?」
「仲いいって認めたニダ!」
「そこ?」
「冨美子〜!」
「近い近い!」
古坂が茂田から少し離れる。
その分。
茂田が一歩近づく。
古坂がもう一歩離れる。
茂田も一歩。
「ちょっと千歌ちゃん!」
「なんでニダ!」
大澤がその光景を眺める。
「……日曜日の朝から元気ね」
「ほんとだよ」
高村も笑う。
その後も。
古坂が景品を整理していれば。
「冨美子、何してるニダ?」
「景品整理」
「手伝うニダ!」
「大丈夫」
「手伝うニダ!」
「じゃあこれお願い」
「任せるニダ!」
古坂が休憩へ向かえば。
「冨美子休憩ニダ?」
「うん」
「ゆっくり休むニダ!」
「ありがとう」
戻ってくれば。
「おかえりニダ!」
「ただいま」
細井がとうとう笑い出した。
「茂田さん、今日ずっと古坂さんのこと見てません?」
「見てないニダ!」
古坂が振り返る。
「じゃあ何見てるの?」
茂田は一瞬黙った。
全員が見る。
まさか。
また言うのか。
茂田は満面の笑みで答えた。
「冨美子ニダ!」
「見てるじゃん!」
古坂のツッコミが店内に響いた。
高村も細井も大澤も笑う。
古坂本人も、呆れながら笑っていた。
ただ同じ日に働いている。
それだけなのに。
茂田にとっては。
ちょっと嬉しい日曜日。
「冨美子〜!」
「今度は何!?」
「呼んだだけニダ!」
「仕事しよ?」
今日も茂田さんは。
ウキウキだった。