ようこそ!ゲームセンター『ファンステージ』へ!   作:君脇玲

272 / 280
あべこべ先輩後輩

阿佐野店。

 

カウンター。

 

浜谷、細井、古坂、樋口の四人が話していた。

 

比較的落ち着いた時間帯。

 

話題は何気ないところから、入社した時期の話になっていた。

 

「そういえば」

 

細井が浜谷を見る。

 

「浜谷くんって、私よりだいぶ先に入ってるんだよね」

 

「そうですよ」

 

「なんか変な感じ」

 

「なんでですか」

 

「だって浜谷くん、私より年下じゃん」

 

「それは関係ないでしょ」

 

古坂が笑う。

 

「でも分かる。年齢と入った順番がバラバラなんだよね」

 

樋口も頷いた。

 

「確かにそうかも」

 

「一回整理してみます?」

 

浜谷が言う。

 

「まず、入社した順番だと」

 

四人が顔を見合わせる。

 

古坂が自分を指差した。

 

「私」

 

「次、僕ですね」

 

浜谷。

 

「その次が私!」

 

樋口。

 

最後に細井。

 

「で、私」

 

浜谷がカウンターに指を置きながら並べていく。

 

「古坂さん、僕、樋口さん、細井さん」

 

「そうなるね」

 

古坂が頷く。

 

「じゃあ年齢順は?」

 

細井が聞く。

 

今度は古坂が即答する。

 

「私」

 

「そこは変わらないですね」

 

「何よ、その言い方」

 

「いや、分かりやすいなと思って」

 

「殴るよ?」

 

「古坂さんも!?」

 

細井が笑いながら続ける。

 

「その次が樋口さんですよね」

 

「そう!」

 

樋口が頷く。

 

「で、私」

 

細井が自分を指差す。

 

全員の視線が最後に浜谷へ向いた。

 

「……僕」

 

少し沈黙。

 

浜谷が首を傾げる。

 

「あれ?」

 

古坂が笑う。

 

「浜谷くん、一番年下なのに入った順番だと二番目なんだ」

 

「そうなりますね」

 

樋口が浜谷を見る。

 

「私より先輩!?」

 

「えええ?樋口さんの方が先輩でいいですよ!」

 

「私よりも先輩」

 

細井も言う。

 

「それはそうですよ」

 

「なんで私だけ!」

 

「まぁ、後輩ですからね」

 

「なんか悔しい」

 

「なんでですか!」

 

古坂が笑っている。

 

浜谷は改めて三人を見る。

 

「じゃあ僕、樋口さんと細井さんより若いけど先輩ってことですよね」

 

「そういうことになるね」

 

「じゃあ先輩として敬ってください」

 

細井が即答した。

 

「嫌」

 

「早っ!」

 

樋口も笑う。

 

「浜谷くんを先輩って呼ぶの、なんか違和感ある!」

 

「樋口さんまで!?」

 

「だって浜谷くんで定着してるし」

 

「でも逆に今更先輩扱いされるのは嫌かもです!」

 

そこへ。

 

「何の話?」

 

高村がやってきた。

 

古坂が答える。

 

「入社順と年齢順の話」

 

「入社順?」

 

「古坂さん、僕、樋口さん、細井さんです」

 

浜谷が説明する。

 

「年齢順は古坂さん、樋口さん、細井さん、僕」

 

高村が四人を見る。

 

もう一度。

 

浜谷を見る。

 

「浜谷くんが一番下なの?」

 

「年齢はそうです」

 

「でも入ったのは二番目?」

 

「そうです」

 

高村は少し考えた。

 

「ややこしいわね」

 

「ですよね!」

 

浜谷が妙に嬉しそうに頷く。

 

細井が言う。

 

「だから浜谷くんが私の先輩なんですよ」

 

「そうですよ。もっと敬ってください」

 

「浜谷くん」

 

「はい?」

 

「一発だけでいい?」

 

「なんで殴るんですか!」

 

古坂と樋口が笑う。

 

高村も呆れたように笑っていた。

 

「でも、別にいいんじゃない?」

 

「何がです?」

 

「年齢が上だから先輩とも限らないし、先に入ったから偉いってわけでもないでしょ」

 

「まあ、そうですね」

 

「仕事してたら、それぞれ得意なことも違うし」

 

古坂が頷く。

 

「確かにね」

 

樋口も言う。

 

「浜谷くんにメンテナンス聞くこともありますしね」

 

「僕も樋口さんにクレーン聞きますし」

 

細井が笑う。

 

「私は?」

 

浜谷が少し考える。

 

「接客?」

 

「なんで疑問形なの?」

 

「痛い痛い!まだ何もされてないけど痛い!」

 

「殴ってないよ!」

 

笑い声がカウンターに響く。

 

年齢だけ見れば。

 

古坂、樋口、細井、浜谷。

 

入社した順番なら。

 

古坂、浜谷、樋口、細井。

 

先輩だけど年下。

 

後輩だけど年上。

 

少しあべこべ。

 

だけど。

 

一緒に働くうちに。

 

そんな順番は、案外どうでもよくなっていく。

 

「で、浜谷くん」

 

細井が呼ぶ。

 

「はい」

 

「先輩、これお願い」

 

細井が仕事を一つ差し出す。

 

「そういう時だけ先輩扱いするのやめてもらえます!?」

 

今日も阿佐野店は。

 

あべこべな先輩後輩で回っている。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。