阿佐野店。
カウンター。
浜谷、細井、古坂、樋口の四人が話していた。
比較的落ち着いた時間帯。
話題は何気ないところから、入社した時期の話になっていた。
「そういえば」
細井が浜谷を見る。
「浜谷くんって、私よりだいぶ先に入ってるんだよね」
「そうですよ」
「なんか変な感じ」
「なんでですか」
「だって浜谷くん、私より年下じゃん」
「それは関係ないでしょ」
古坂が笑う。
「でも分かる。年齢と入った順番がバラバラなんだよね」
樋口も頷いた。
「確かにそうかも」
「一回整理してみます?」
浜谷が言う。
「まず、入社した順番だと」
四人が顔を見合わせる。
古坂が自分を指差した。
「私」
「次、僕ですね」
浜谷。
「その次が私!」
樋口。
最後に細井。
「で、私」
浜谷がカウンターに指を置きながら並べていく。
「古坂さん、僕、樋口さん、細井さん」
「そうなるね」
古坂が頷く。
「じゃあ年齢順は?」
細井が聞く。
今度は古坂が即答する。
「私」
「そこは変わらないですね」
「何よ、その言い方」
「いや、分かりやすいなと思って」
「殴るよ?」
「古坂さんも!?」
細井が笑いながら続ける。
「その次が樋口さんですよね」
「そう!」
樋口が頷く。
「で、私」
細井が自分を指差す。
全員の視線が最後に浜谷へ向いた。
「……僕」
少し沈黙。
浜谷が首を傾げる。
「あれ?」
古坂が笑う。
「浜谷くん、一番年下なのに入った順番だと二番目なんだ」
「そうなりますね」
樋口が浜谷を見る。
「私より先輩!?」
「えええ?樋口さんの方が先輩でいいですよ!」
「私よりも先輩」
細井も言う。
「それはそうですよ」
「なんで私だけ!」
「まぁ、後輩ですからね」
「なんか悔しい」
「なんでですか!」
古坂が笑っている。
浜谷は改めて三人を見る。
「じゃあ僕、樋口さんと細井さんより若いけど先輩ってことですよね」
「そういうことになるね」
「じゃあ先輩として敬ってください」
細井が即答した。
「嫌」
「早っ!」
樋口も笑う。
「浜谷くんを先輩って呼ぶの、なんか違和感ある!」
「樋口さんまで!?」
「だって浜谷くんで定着してるし」
「でも逆に今更先輩扱いされるのは嫌かもです!」
そこへ。
「何の話?」
高村がやってきた。
古坂が答える。
「入社順と年齢順の話」
「入社順?」
「古坂さん、僕、樋口さん、細井さんです」
浜谷が説明する。
「年齢順は古坂さん、樋口さん、細井さん、僕」
高村が四人を見る。
もう一度。
浜谷を見る。
「浜谷くんが一番下なの?」
「年齢はそうです」
「でも入ったのは二番目?」
「そうです」
高村は少し考えた。
「ややこしいわね」
「ですよね!」
浜谷が妙に嬉しそうに頷く。
細井が言う。
「だから浜谷くんが私の先輩なんですよ」
「そうですよ。もっと敬ってください」
「浜谷くん」
「はい?」
「一発だけでいい?」
「なんで殴るんですか!」
古坂と樋口が笑う。
高村も呆れたように笑っていた。
「でも、別にいいんじゃない?」
「何がです?」
「年齢が上だから先輩とも限らないし、先に入ったから偉いってわけでもないでしょ」
「まあ、そうですね」
「仕事してたら、それぞれ得意なことも違うし」
古坂が頷く。
「確かにね」
樋口も言う。
「浜谷くんにメンテナンス聞くこともありますしね」
「僕も樋口さんにクレーン聞きますし」
細井が笑う。
「私は?」
浜谷が少し考える。
「接客?」
「なんで疑問形なの?」
「痛い痛い!まだ何もされてないけど痛い!」
「殴ってないよ!」
笑い声がカウンターに響く。
年齢だけ見れば。
古坂、樋口、細井、浜谷。
入社した順番なら。
古坂、浜谷、樋口、細井。
先輩だけど年下。
後輩だけど年上。
少しあべこべ。
だけど。
一緒に働くうちに。
そんな順番は、案外どうでもよくなっていく。
「で、浜谷くん」
細井が呼ぶ。
「はい」
「先輩、これお願い」
細井が仕事を一つ差し出す。
「そういう時だけ先輩扱いするのやめてもらえます!?」
今日も阿佐野店は。
あべこべな先輩後輩で回っている。