阿佐野店。
夕方。
「浜谷くん、これお願いしてもいい?」
「はーい!」
細井から景品の入った箱を受け取った浜谷は、そのまま倉庫へ向かった。
しばらくして戻ってくると、細井がカウンターでメモを書いていた。
「何書いてるんですか?」
「今日ちょっと気になったことがあったから」
「なるほど」
浜谷は隣から用紙を覗き込んだ。
「……細井さんって字綺麗ですよね」
「え? そう?」
「はい。大人の字って感じがします」
「何それ!」
細井が笑った。
「浜谷くんだって大人でしょ?」
「いやぁ、僕はまだまだ大学生ですよ」
「もう二十一歳じゃん」
「年齢だけですよ」
浜谷は自分の書いたメモを見せた。
「ほら」
「……ふふっ」
「笑いましたね!?」
「いや、可愛い字だなって」
「子供っぽいってことじゃないですか!」
「そんなこと言ってないよ!」
細井は笑いながらメモを返した。
「細井さんって、僕より六つも上なんですよね」
「そうだけど、急にどうしたの?」
「僕が小学生の頃、細井さん中学生だったんですよ」
「そりゃそうでしょ!」
「なんか不思議ですよね」
「何が?」
「今は同じ店で働いてるんですから」
細井は少し笑った。
「確かにね」
浜谷は頷く。
仕事では自分の方が先輩。
でも、年齢では細井の方が上。
普段はあまり気にしないことだったが、改めて考えると妙な関係だった。
「浜谷くんってさ、年齢のこと結構気にする?」
「いや、そんなに」
「じゃあ何で今日そんな話するの?」
「……何となくです」
「何となくかい!」
二人は笑った。
その後、クレーンゲームの景品補充をしていた時だった。
「細井さん、それ持ちますよ」
「ありがとう!」
浜谷が箱を受け取る。
「こういう時くらい頼ってくださいよ」
「いつも頼ってるよ?」
「え?」
「メンテのこととか、浜谷くんに聞いてるじゃん」
「まあ、そうですけど」
「頼りにしてるよ、浜谷くん!」
「……ありがとうございます」
浜谷は箱を持ち直した。
「でも、細井さんの方が大人だなって思う時ありますよ」
「そう?」
「はい。僕だったらすぐ慌てるようなことでも、細井さんは落ち着いてるし」
「私だって慌てるよ?」
「そうですかねぇ」
「この前だって、景品の場所分かんなくなって探してたじゃん!」
「ああ、ありましたね!」
「全然大人じゃないでしょ?」
「……あれは面白かったです」
「殴るよ?」
「一発だけですよ?」
「一発で仕留めるから!」
いつものやり取りに、二人は笑った。
夕方の店内。
仕事が落ち着いた頃、細井がふと尋ねた。
「浜谷くんは、どんな大人になりたいの?」
「え?」
「さっきから大人、大人って言ってるから」
浜谷は少し考えた。
「……余裕のある人ですかね」
「余裕?」
「はい。何かあっても慌てないで、ちゃんと人のことを考えられる人」
「いいじゃん」
「あと、言いたいことをちゃんと言える人」
「それも大事だね」
「細井さんは?」
「私?」
「はい。もう大人ですけど」
「だから、私だってまだまだだって!」
細井は笑った。
「でも、そうだなぁ。人に優しくできる人かな」
「……いいですね」
「浜谷くんだって優しいじゃん」
「そうですか?」
「うん。さっきも荷物持ってくれたし」
「いや、それくらい普通ですよ」
「そういうところじゃない?」
浜谷は少し照れくさそうに笑った。
「……ありがとうございます」
「なんで恥ずかしそうにしてるの!」
「してないですよ!」
また二人は笑った。
しばらくして、細井は別の仕事へ向かった。
浜谷はカウンターで、さっきの会話を思い返していた。
言いたいことをちゃんと言える人。
自分で言っておきながら、なかなか難しい。
「……まあ、少しずつですかね」
浜谷は小さく呟いた。
その時。
「浜谷くーん!」
遠くから細井が呼んだ。
「これ、ちょっと手伝って!」
「はーい!」
浜谷はすぐに駆け出した。
大人になれない僕と、大人な君。
六年の差は、そう簡単には縮まらない。
けれど、今は。
こうして隣で笑っていられるだけで、十分だった。