ようこそ!ゲームセンター『ファンステージ』へ!   作:君脇玲

273 / 280
大人になれない僕と大人な君

阿佐野店。

 

夕方。

 

「浜谷くん、これお願いしてもいい?」

 

「はーい!」

 

細井から景品の入った箱を受け取った浜谷は、そのまま倉庫へ向かった。

 

しばらくして戻ってくると、細井がカウンターでメモを書いていた。

 

「何書いてるんですか?」

 

「今日ちょっと気になったことがあったから」

 

「なるほど」

 

浜谷は隣から用紙を覗き込んだ。

 

「……細井さんって字綺麗ですよね」

 

「え? そう?」

 

「はい。大人の字って感じがします」

 

「何それ!」

 

細井が笑った。

 

「浜谷くんだって大人でしょ?」

 

「いやぁ、僕はまだまだ大学生ですよ」

 

「もう二十一歳じゃん」

 

「年齢だけですよ」

 

浜谷は自分の書いたメモを見せた。

 

「ほら」

 

「……ふふっ」

 

「笑いましたね!?」

 

「いや、可愛い字だなって」

 

「子供っぽいってことじゃないですか!」

 

「そんなこと言ってないよ!」

 

細井は笑いながらメモを返した。

 

「細井さんって、僕より六つも上なんですよね」

 

「そうだけど、急にどうしたの?」

 

「僕が小学生の頃、細井さん中学生だったんですよ」

 

「そりゃそうでしょ!」

 

「なんか不思議ですよね」

 

「何が?」

 

「今は同じ店で働いてるんですから」

 

細井は少し笑った。

 

「確かにね」

 

浜谷は頷く。

 

仕事では自分の方が先輩。

 

でも、年齢では細井の方が上。

 

普段はあまり気にしないことだったが、改めて考えると妙な関係だった。

 

「浜谷くんってさ、年齢のこと結構気にする?」

 

「いや、そんなに」

 

「じゃあ何で今日そんな話するの?」

 

「……何となくです」

 

「何となくかい!」

 

二人は笑った。

 

その後、クレーンゲームの景品補充をしていた時だった。

 

「細井さん、それ持ちますよ」

 

「ありがとう!」

 

浜谷が箱を受け取る。

 

「こういう時くらい頼ってくださいよ」

 

「いつも頼ってるよ?」

 

「え?」

 

「メンテのこととか、浜谷くんに聞いてるじゃん」

 

「まあ、そうですけど」

 

「頼りにしてるよ、浜谷くん!」

 

「……ありがとうございます」

 

浜谷は箱を持ち直した。

 

「でも、細井さんの方が大人だなって思う時ありますよ」

 

「そう?」

 

「はい。僕だったらすぐ慌てるようなことでも、細井さんは落ち着いてるし」

 

「私だって慌てるよ?」

 

「そうですかねぇ」

 

「この前だって、景品の場所分かんなくなって探してたじゃん!」

 

「ああ、ありましたね!」

 

「全然大人じゃないでしょ?」

 

「……あれは面白かったです」

 

「殴るよ?」

 

「一発だけですよ?」

 

「一発で仕留めるから!」

 

いつものやり取りに、二人は笑った。

 

夕方の店内。

 

仕事が落ち着いた頃、細井がふと尋ねた。

 

「浜谷くんは、どんな大人になりたいの?」

 

「え?」

 

「さっきから大人、大人って言ってるから」

 

浜谷は少し考えた。

 

「……余裕のある人ですかね」

 

「余裕?」

 

「はい。何かあっても慌てないで、ちゃんと人のことを考えられる人」

 

「いいじゃん」

 

「あと、言いたいことをちゃんと言える人」

 

「それも大事だね」

 

「細井さんは?」

 

「私?」

 

「はい。もう大人ですけど」

 

「だから、私だってまだまだだって!」

 

細井は笑った。

 

「でも、そうだなぁ。人に優しくできる人かな」

 

「……いいですね」

 

「浜谷くんだって優しいじゃん」

 

「そうですか?」

 

「うん。さっきも荷物持ってくれたし」

 

「いや、それくらい普通ですよ」

 

「そういうところじゃない?」

 

浜谷は少し照れくさそうに笑った。

 

「……ありがとうございます」

 

「なんで恥ずかしそうにしてるの!」

 

「してないですよ!」

 

また二人は笑った。

 

しばらくして、細井は別の仕事へ向かった。

 

浜谷はカウンターで、さっきの会話を思い返していた。

 

言いたいことをちゃんと言える人。

 

自分で言っておきながら、なかなか難しい。

 

「……まあ、少しずつですかね」

 

浜谷は小さく呟いた。

 

その時。

 

「浜谷くーん!」

 

遠くから細井が呼んだ。

 

「これ、ちょっと手伝って!」

 

「はーい!」

 

浜谷はすぐに駆け出した。

 

大人になれない僕と、大人な君。

 

六年の差は、そう簡単には縮まらない。

 

けれど、今は。

 

こうして隣で笑っていられるだけで、十分だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。