阿佐野店。
メダルゲームコーナー。
一台の機械の前で、浜谷がエラー表示を見つめていた。
「…………」
表示されている内容を確認する。
少々厄介なエラーだった。
しかし。
「これ、似たようなのやったことあるな」
浜谷の表情は明るい。
まったく分からないエラーではない。
以前にも似た症状を直したことがある。
「よし、いける!」
工具と説明書を用意し、機械の扉を開けた。
そこへ細井がやってくる。
「直りそう?」
「多分いけます。前にも似たのやったことあるんで」
「おお!」
「任せてください!」
やる気満々。
浜谷は説明書を開き、エラーコードを確認する。
該当する箇所。
原因として考えられるもの。
ひとつずつ確認していく。
部品を外す。
さらに奥を見る。
「あ」
見つけた。
メダルが詰まっている。
「これですね」
詰まっていたメダルを取り除く。
周囲も確認。
問題なし。
部品を戻す。
「よし」
エラー解除スイッチを押した。
表示が消える。
機械が動き始める。
「復旧!」
細井が笑う。
「早かったね」
「まあ、経験がありますから」
少し得意げな浜谷。
その時。
ピピッ。
「…………」
浜谷が止まる。
画面を見る。
先ほどと同じエラー。
「え?」
細井も画面を見る。
「また出たよ?」
「いやいや」
浜谷はもう一度機械を開けた。
先ほどの箇所を見る。
「…………」
メダルは。
詰まっていない。
「ないな」
「ないね」
「なんで?」
原因がないのに、同じエラーが出ている。
浜谷は説明書を見る。
周辺を確認する。
特に異常は見当たらない。
「一回、解除してみます」
エラー解除スイッチ。
押す。
「…………」
復旧。
しない。
代わりに。
ピピッ。
別の表示が出た。
「…………」
細井が読む。
「違うエラーになった」
「…………」
浜谷は静かに息を吐いた。
「増えた……」
「増えたね」
「直してたはずなんですけどね」
「うん」
なぜか。
エラーが変わった。
浜谷は額を押さえる。
しかし。
放っておくわけにはいかない。
「……やるしかないか」
今度はさっきよりも奥まで分解する。
説明書を横に置き、配線や部品を確認。
「ここは……大丈夫」
次。
「ここも違う」
さらに奥。
「異常ないな……」
目立った異常が。
見当たらない。
細井が覗き込む。
「何かあった?」
「何もないです」
「じゃあ、なんでエラー出てるの?」
「それを今、僕も機械に聞きたいです」
浜谷は部品を元に戻した。
「とりあえず一回いきます」
エラー解除スイッチ。
押す。
表示が消えた。
「おっ」
機械が動く。
浜谷と細井が見守る。
数秒。
十数秒。
「…………」
出ない。
浜谷の顔が明るくなる。
「復旧!!」
「やった!」
今度こそ。
浜谷が工具を片づけようとした。
ピピッ。
「…………」
二人が。
同時に画面を見る。
そこに表示されていたのは。
「…………」
最初のエラー。
浜谷は無言で工具を置いた。
細井が浜谷を見る。
「戻ったね」
「戻りましたね」
「一周したね」
「一周しましたね」
最初のエラー。
メダル詰まりを取る。
復旧。
また最初のエラー。
解除する。
別のエラー。
分解する。
復旧。
そして。
最初のエラー。
浜谷は画面を見つめた。
「…………」
細井が聞く。
「もう一回やる?」
「やるしかないですよね……」
浜谷は再び機械の扉を開けた。
さっき外した部品。
さっき見た配線。
さっき確認した場所。
もう一度。
同じ道を辿っていく。
細井はしばらく、その様子を見ていた。
「浜谷くん」
「はい?」
「さっきからずっと、エラー直してるよね」
「はい」
「直してもエラー出るよね」
「……はい」
「それ直しても、また別のエラー出るよね」
「…………はい」
細井は。
どこか遠くを見るような目で言った。
「それはエラーを吐きながら続ける悲しいメンテナンスですよ」
「…………」
浜谷の手が止まった。
ゆっくり細井を見る。
「急に何言ってるんですか?」
「なんとなく」
「めちゃくちゃ壮大に言われましたけど」
しかし。
否定はできない。
直して。
エラー。
直して。
エラー。
そして。
また直す。
浜谷は機械へ向き直った。
「……悲しいメンテナンス、続けます」
「頑張って」
「細井さんも手伝ってくださいよ!」
「えー」
「一人で悲しませないでください!」
阿佐野店。
エラーを吐き続ける機械と。
それを直し続ける大学生。
悲しいメンテナンスは。
まだ。
終わりそうになかった。