原町中央店。
朝。
開店前のクレーンゲームコーナーには、大量の段ボール箱が並んでいた。
どれも今日から展開する新景品。
その中心に。
高崎麻美がいた。
「…………」
無言。
段ボールを開ける。
景品を取り出す。
台の中を確認する。
また次の段ボールを開ける。
「…………」
いつもより明らかに口数が少ない。
そして。
少しだけ。
機嫌が悪そうだった。
少し離れたところから、浜谷がその様子を見る。
「……今日は話しかけない方がよさそうですね」
隣にいた茂田が頷く。
「新景品多いからニダ」
山神も高崎を見る。
「おぅ」
三人とも落ち着いていた。
別に珍しいことではない。
高崎は新景品の展開が大量にある日、たまにこうなる。
怒っているというより。
集中している。
時間までに終わらせなければならない。
どの台に何を入れるか。
どう展開するか。
設定はどうするか。
考えることが多い。
その結果。
話しかけづらい空気が完成する。
浜谷も何度か経験していた。
茂田も当然知っている。
山神に至っては気にもしていない。
しかし。
一人だけ。
今日、初めてその高崎に遭遇した人物がいた。
「…………」
川原だった。
高崎の近くを通りかかった川原が、明らかに歩く速度を落とす。
高崎が景品を並べている。
「…………」
川原が横目で見る。
高崎が箱を開ける。
「…………」
川原が浜谷たちのところまでやってきた。
そして小声で聞いた。
「浜谷さん」
「はい?」
「麻美さん……怒ってます?」
「いや」
浜谷は即答した。
「いつものやつです」
「いつものやつ!?」
川原がさらに声を小さくする。
茂田が笑う。
「今日は新景品多いニダ」
「そうなんですか?」
「おぅ」
山神も頷く。
川原はもう一度、高崎を見る。
高崎は無言で景品を並べている。
表情は真剣。
話しかけられる雰囲気ではない。
「……怖いんですけど」
「大丈夫ですよ」
浜谷は笑った。
「別に川原さんに怒ってるわけじゃないですから」
「分かってますけど……」
その時。
高崎がこちらを向いた。
「浜谷くん」
「はい!」
浜谷の返事が一瞬で大きくなる。
川原が浜谷を見る。
「ビビってるじゃないですか!」
「ビビってません!」
「返事めちゃくちゃ良かったですよ!」
「普段からこれくらいです!」
「嘘ですよ!」
高崎が二人を見る。
「何してるの?」
「何でもないです!」
今度は二人同時だった。
茂田が吹き出す。
山神はいつものように。
「おぅ」
高崎は少し不思議そうな顔をしたあと、浜谷に言った。
「これ終わったら、あっちの台手伝ってくれる?」
「もちろんです!」
「ありがと」
それだけ言うと、高崎は再び作業へ戻った。
川原が小さく息を吐く。
「……普通でした」
「だから言ったじゃないですか」
浜谷も小声になる。
「忙しいだけですって」
「でも浜谷さんも声小さくなってますよ」
「…………」
浜谷は高崎を見る。
そして川原に囁いた。
「念のためです」
「やっぱり怖いんじゃないですか!」
しばらくして。
新景品の展開も、ようやく一段落した。
「終わったー!」
高崎が大きく伸びをする。
さっきまでの空気が嘘のように消えていた。
「川原ちゃん、おはよう」
「お、おはようございます!」
「何、その顔?」
「いえ!何でもないです!」
高崎が首を傾げる。
その横で、浜谷と茂田が笑っていた。
山神も一言。
「おぅ」
川原にとっては初めてだった。
新景品が大量に入荷した朝だけ現れる。
いつもより少し無口で。
いつもより少し近寄りがたい。
ちょっぴり怖い。
麻美さんだった。