原町中央店。
浜谷はメダルゲームの前にしゃがみ込み、扉を開けて内部を覗き込んでいた。
「んー……ここか?」
エラーの原因を探しながら、部品を確認していく。
その途中。
浜谷の目に、ひとつの穴が入った。
金属板に開いた、小さな丸い穴。
「…………」
エラーとは関係ない。
触る必要もない。
だが。
「これ、俺の指入るんちゃう?」
浜谷は人差し指を伸ばした。
するっ。
「おー!」
綺麗に入った。
「ジャストフィット!」
浜谷は妙に嬉しそうに笑う。
「結婚指輪、この大きさでって言お!」
もちろん、結婚の予定はない。
満足した浜谷は指を抜こうとした。
「…………」
抜けない。
「ん?」
もう一度。
「…………」
抜けない。
「え?」
少し強く引っ張る。
「痛っ」
浜谷は固まった。
「…………あかん」
数分後。
「どうしたの?」
日村がやってきた。
浜谷はメダルゲームの前にしゃがんだまま答える。
「指抜けなくなりました」
「は?」
「穴に入れたら抜けなくなりました」
日村が覗き込む。
「なんで入れたの」
「入ると思ったんですよ」
「入ったじゃん」
「入りました」
「よかったじゃん」
「出ないんですよ!」
日村が浜谷の手を見る。
「ちょっと引いてみるか」
「お願いします」
日村が浜谷の手を持つ。
「いくぞ」
「はい」
ぐっ。
「痛い痛い痛い!」
「無理だな」
「早いですよ!」
そこへ石村が通りかかった。
「どうした?」
日村が答える。
「浜谷くんが機械に捕まった」
「捕まったんじゃないです!僕から入ったんです!」
「余計ダメでしょ」
石村も加わった。
角度を変えて。
少し回して。
ゆっくり引く。
「抜けないな」
「ですよね……」
さらに。
「おぅ」
山神が来た。
浜谷は助けを求めるように見る。
「山神さん!」
「おぅ」
「抜けないです!」
「おぅ」
山神も指を見る。
引いてみる。
「痛い痛い!」
「おぅ」
「その『おぅ』は無理って意味ですか!?」
気づけば。
浜谷、日村、石村、山神。
四人の男がメダルゲームを囲んでいた。
そこへ、たまたま原町中央店へ来ていた生田まで現れる。
「何集まってんの?」
日村が答えた。
「浜谷くんが抜けなくなった」
「何から?」
「メダルゲーム」
「どういうこと?」
事情を説明する。
生田は穴を見る。
浜谷を見る。
もう一度、穴を見る。
「なんで入れたの?」
「入ると思ったんです…」
「入った?」
「入りました!」
「じゃあよかったじゃん」
「日村さんと同じこと言わないでください!」
生田まで加わった。
だが。
抜けない。
さらに。
「何やってんねん」
大倉までやってきた。
浜谷が顔を上げる。
「大倉さん!」
「なんで男ばっかりこんな集まっとんねん」
「僕の指が抜けないんです!」
「知らんがな!」
大倉も結局、様子を見る。
「ちょい回したらええんちゃう?」
「やりました!」
「引っ張った?」
「やりました!」
「押した?」
「それ戻ってます!」
男たちが考える。
日村、石村、山神、生田、大倉。
そして。
穴から抜け出せない浜谷。
誰も答えに辿り着けない。
「これ最悪、どうする?」
「穴の方を広げるか?」
「機械の部品だからなぁ」
「琉くんの指を細くするんは?」
「どうやってですか!」
「おぅ」
「山神さんまで乗らないでください!」
そこへ。
「何してるニダ?」
茂田がやってきた。
全員が振り返る。
「茂田さん!」
「千歌ちゃん」
「茂田」
茂田は男たちの隙間から浜谷を見る。
「琉くん、何してるニダ?」
「指が抜けなくなりました……」
「なんで?」
「穴があったので」
「なんで?」
「……入れたくなって」
茂田はしゃがみ込んだ。
浜谷の指を見る。
ほんの数秒。
「琉くん」
「はい」
「指を曲げるニダ」
「え?」
「ちょっと曲げてみるニダ」
浜谷は言われた通り、穴の中で指先を少し曲げた。
角度が変わる。
スポッ。
「…………」
抜けた。
浜谷は自分の手を見る。
日村も見る。
石村も。
山神も。
生田も。
大倉も。
全員、黙った。
「…………抜けた」
浜谷が呟く。
茂田が立ち上がった。
「抜けたニダ」
大倉が男たちを見る。
「俺ら何してたん?」
日村が答える。
「ずっと引っ張ってた」
石村が苦笑する。
「誰も曲げること考えませんでしたね」
生田が腕を組む。
「こんだけメンテできる人間集まってたのにな」
山神。
「おぅ」
浜谷は解放された人差し指を眺めた。
そして。
「……結婚指輪、このサイズやめとこ」
茂田が首を傾げる。
「なんの話ニダ?」
「なんでもないです」
原町中央店。
六人の男たちが挑み。
誰ひとり抜け出せなかった難題。
それを解決したのは。
最後にやってきた茂田千歌の、たった一言だった。
なお。
その後、浜谷は二度と。
メダルゲームの穴に指を入れなかった。
たぶん。