阿佐野店。
メダルゲームコーナー。
「すみませーん!」
「あ、はい!」
お客さんに呼ばれた大澤が、メダルゲームの扉から顔を上げた。
現在、大澤は別のお客さんから頼まれたメダルゲームを修理中。
そして。
「すみません、こっちもいいですか?」
今度は反対側から呼ばれた。
「あ、ちょっと待ってくださいね」
大澤が辺りを見回す。
そこへ、ちょうど浜谷が通りかかった。
「大澤さん」
「浜谷くん」
「こっち代わりましょうか?」
「お願い」
「任せてください!」
「よろしく」
大澤は浜谷と入れ替わり、その場を離れた。
浜谷は修理中だったメダルゲームの前にしゃがむ。
「すみません、少々お待ちください」
「ああ」
待っていたのは、一人のおじいさんだった。
浜谷は機械の扉を開ける。
「えーっと……」
表示されているエラーを確認。
そこまで大したものではなさそうだ。
浜谷は中を覗き込み、作業を始めた。
「…………」
ただ。
妙に視線を感じる。
浜谷がちらりと横を見る。
「…………」
おじいさんが腕を組んで立っていた。
眉間にはしわ。
そして、浜谷の手元をじっと見つめている。
「…………」
浜谷は機械へ視線を戻した。
(なんか怖いな……)
作業を続ける。
少しして。
また、ちらり。
「…………」
まだ見ている。
腕を組んだまま、険しい表情も変わらない。
(なんやろ……)
浜谷の手が止まる。
そして。
ある考えが頭をよぎった。
(待てや)
もう一度、おじいさんを見る。
貫禄のある佇まい。
鋭い眼光。
無言でスタッフの作業を見つめるその姿。
(これ、実は本社のお偉いさんがお忍びで来とるとか、そういうんちゃうよな?)
そう思った瞬間。
浜谷の中で、ただのおじいさんが一気に本社のお偉いさんへと変わった。
(いや、でも聞いとらんぞ……)
再び作業へ戻る。
(抜き打ちの店舗視察とか?)
カチッ。
部品を確認する。
(だとしたら、なんで俺が修理しとるタイミングなんや……)
「…………」
相変わらず、おじいさんは見ている。
(やりづれぇ!!)
別に何も悪いことはしていない。
いつも通り修理すればいいだけ。
それなのに。
(これで変なことしてもうたら、俺だけやなくて阿佐野店の評価まで……)
完全に考えすぎていた。
普段ならサッと終わらせるところも、念入りに確認。
一度確認したところを、もう一度確認。
さらに念のため、もう一度。
(よし……大丈夫や)
浜谷は扉を閉めた。
動作確認。
メダルが正常に払い出される。
直った。
「お待たせしました。大丈夫です」
「おお」
先ほどまで険しかったおじいさんの表情が緩んだ。
「ありがとう」
「いえ、大変お待たせしました!」
浜谷はいつもより少しだけ深く頭を下げた。
おじいさんはそのままゲームを再開する。
浜谷は数歩離れたところで、ようやく息を吐いた。
そこへ。
「浜谷くん」
対応を終えた大澤が戻ってきた。
「どうだった?」
「あ、直りました」
「ありがとう」
「いえ」
浜谷は一度、おじいさんを見る。
そして大澤のそばへ寄った。
「あの、大澤さん」
「ん?」
「あのお客さんって……何者ですか?」
「何者?」
「なんか、めちゃくちゃ貫禄ありません?」
大澤もおじいさんを見る。
「え?」
「本社の偉い人とかじゃないですよね?」
「本社?」
浜谷は小さくうなずく。
「ずっと腕組んで、俺の修理めっちゃ見てたんですよ」
「ああ」
大澤が納得したような顔をする。
浜谷は少し身構えた。
やっぱり。
何か知っている。
「あの人ね」
「はい」
「全然違うよ」
「え?」
「ただの常連さん」
「…………」
浜谷は固まった。
そして、ゆっくりとおじいさんを見る。
「……ただの?」
「常連さん」
「…………」
あれだけ感じていた謎の重圧。
あれだけ慎重に行った修理。
そして勝手に心配していた阿佐野店の評価。
すべて。
浜谷の思い込みだった。
大澤の代わりに修理を引き受けた浜谷。
代役としての仕事は、無事に果たしたものの。
相手の正体については。
どうやら、とんだ大誤算だったようで。