原町中央店。
夕方。
メダルゲームコーナーの隅に、一台の古いゲーム機があった。
長い間、この店で動き続けてきた機械。
だが、それも今日まで。
明日の朝には搬出されることになっていた。
「今日で最後かぁ」
相馬が機械を見ながら呟く。
「長かったね」
隣にいた日村も筐体を見る。
何度もメダルを補充した。
何度もエラーを解除した。
何度も扉を開けた。
特別な機械というわけではない。
それでも、ずっとそこにあった。
その時。
ピピピピッ。
「……」
日村が画面を見る。
エラー表示。
相馬も覗き込んだ。
「最後の日まで?」
「最後の日まで」
日村はしゃがみ込むと、機械の扉を開けた。
そこへ、巡回に来ていた生田が通りかかる。
「どうした?」
「エラーです」
「それ、明日撤去でしょ?」
「そう」
生田は機械を見る。
「直すの?」
日村は内部を確認しながら答えた。
「まだ今日の営業、終わってないから」
「……そっか」
生田はそれ以上何も言わなかった。
少し離れたところでは、大倉がその様子を見ていた。
「明日なくなるんやったら、もう止めてもええんちゃう?」
「まあ、そうなんですけど」
日村は手を止めない。
メダルの通り道を確認する。
センサーを拭く。
内部に残ったメダルを取り除く。
何度も触ってきた機械だった。
だからこそ、日村にはだいたいの見当がついていた。
「ここかな」
部品を調整する。
エラースイッチを押す。
画面が立ち上がる。
エラーは消えた。
試しにメダルを投入する。
一枚。
二枚。
三枚。
問題なく流れていく。
「よし」
生田が小さく頷いた。
「直ったね」
「はい」
大倉が笑う。
「最後の最後まで手ぇかかるなぁ」
「そういう機械ほど覚えてるもん」
日村は扉を閉めた。
それから少しして。
一組のお客さんが、その機械の前に座った。
メダルを入れる。
ゲームが始まる。
いつもと変わらない音が鳴る。
相馬がそれを見ながら日村の隣に立った。
「直してよかったね」
日村もゲーム機を見る。
「そうだね」
やがて。
閉店時間。
最後のお客さんが帰り、店内が静かになる。
日村はメダルゲームの電源を一台ずつ落としていった。
そして。
あの機械の前へ。
いつものように電源を切る。
画面が暗くなる。
ただ一つ違うのは。
明日、この電源を入れることはない。
日村はしばらく筐体を見ていた。
そして、誰に聞かせるでもなく。
「ありがとうございました」
小さく呟いた。
少し離れた場所にいた生田には聞こえていた。
けれど、何も言わなかった。
大倉も機械を見ている。
「最後まで働いたな」
日村は少し笑った。
「メダルゲームだから」
長い間。
たくさんの人に遊ばれて。
何度も壊れて。
そのたびに直されて。
最後の日まで動き続けた。
それが。
その機械にとっての。
日村の、最後のメンテナンスだった。