ようこそ!ゲームセンター『ファンステージ』へ!   作:君脇玲

28 / 92
みんな、それぞれ

古坂が阿佐野店へ異動してから数日。

 

原町中央店は少しだけ静かになった。

 

人数が一人減っただけ。

 

それなのに、どこか広く感じる。

 

浜谷は景品補充をしながら、ふとそんなことを思っていた。

 

「浜谷くん。」

 

相馬が優しく声をかける。

 

「その景品、こっちに並べたほうがお客様見やすいよ。」

 

「ありがとうございます!」

 

相馬は笑顔でうなずき、そのまま小さな女の子のもとへ歩いていく。

 

「取れそう?」

 

「うん!」

 

「頑張ってね。」

 

たった一言。

 

それだけで女の子は笑顔になった。

 

浜谷はその様子を見て思う。

 

(相馬さんは、自然にお客様を笑顔にできる人だ。)

 

 

イベントコーナーでは武藤が黙々と準備をしていた。

 

ポスターを貼り、景品を並べ、備品を確認する。

 

誰よりも早く終わらせてしまう。

 

浜谷が声をかける。

 

「武藤さん、手伝います!」

 

「ありがとう。」

 

「でももう終わっちゃった。」

 

武藤は少し照れくさそうに笑う。

 

派手ではない。

 

目立つこともない。

 

それでも、武藤が準備してくれるからイベントは予定通り始められる。

 

誰も気づかないところで支えてくれている人だった。

 

 

クレーンコーナーでは藤屋がお客様と話していた。

 

普段は口数が少なく、人見知りな藤屋。

 

それでも、小さな男の子の前では違った。

 

「あとちょっとだったね。」

 

「もう一回やってみよう。」

 

男の子はうれしそうにうなずく。

 

景品を獲得すると、

 

「やったー!」

 

と飛び跳ねた。

 

「おめでとう。」

 

藤屋も少し照れながら笑う。

 

浜谷は初めて見る藤屋の表情だった。

 

(藤さん、あんな笑い方するんだ。)

 

 

その頃、高崎は大きな段ボールを軽々と持ち上げていた。

 

「よろしく頼む〜!」

 

いつもの口癖。

 

浜谷も慌てて駆け寄る。

 

「持ちます!」

 

「大丈夫、大丈夫。」

 

「琉くんはこっちお願い。」

 

高崎は笑顔で指示を出す。

 

明るくて、頼もしい。

 

高崎がいるだけで職場の雰囲気まで明るくなる。

 

そんな存在だった。

 

 

閉店後。

 

メダルコーナーでは山神が一人、機械を覗き込んでいた。

 

「山神さん。」

 

浜谷が声をかける。

 

「何してるんですか?」

 

「詰まってた。」

 

それだけ言うと、山神はメダルを取り出し、機械を元に戻した。

 

ガチャッ。

 

エラーランプが消える。

 

「はい、終わり。」

 

浜谷は驚く。

 

「誰も気づいてなかったですよね。」

 

「おぅ。」

 

「気づかれないほうがいい。」

 

「止まらないのが一番だから。」

 

その言葉に浜谷は思わずうなずいた。

 

(山神さんは、お客様が気づく前に直してるんだ。)

 

 

事務所では石村が売上を確認していた。

 

レジを締め、書類を書き、明日の準備をする。

 

時計を見ると、閉店から三十分以上が過ぎていた。

 

浜谷が声をかける。

 

「石村さん、まだ帰らないんですか?」

 

石村は苦笑いを浮かべる。

 

「副店長は意外とやること多いんだよ。」

 

「店長が兼任になったからなおさらな。」

 

そう言いながらも、手は止まらない。

 

浜谷は初めて、副店長の仕事の多さを知った。

 

 

帰り道。

 

浜谷は今日一日を思い返していた。

 

相馬さんには、お客様を笑顔にする優しさがある。

 

邦美さんには、見えないところで支える力がある。

 

藤さんには、子どもたちを安心させる笑顔がある。

 

麻美さんには、みんなを元気にする明るさがある。

 

山神さんには、誰にも気づかれない仕事への誇りがある。

 

石村さんには、お店全体を支える責任がある。

 

そして茂田は、二つのお店をまとめる店長として走り続けている。

 

浜谷はふと空を見上げた。

 

(このお店って。)

 

(誰か一人がすごいんじゃない。)

 

(みんなが、それぞれの役割を果たしているから成り立ってるんだ。)

 

そのことを改めて知った一日だった。

 

ゲームセンターの灯りは、今日も優しく街を照らしていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。