古坂が阿佐野店へ異動してから数日。
原町中央店は少しだけ静かになった。
人数が一人減っただけ。
それなのに、どこか広く感じる。
浜谷は景品補充をしながら、ふとそんなことを思っていた。
「浜谷くん。」
相馬が優しく声をかける。
「その景品、こっちに並べたほうがお客様見やすいよ。」
「ありがとうございます!」
相馬は笑顔でうなずき、そのまま小さな女の子のもとへ歩いていく。
「取れそう?」
「うん!」
「頑張ってね。」
たった一言。
それだけで女の子は笑顔になった。
浜谷はその様子を見て思う。
(相馬さんは、自然にお客様を笑顔にできる人だ。)
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イベントコーナーでは武藤が黙々と準備をしていた。
ポスターを貼り、景品を並べ、備品を確認する。
誰よりも早く終わらせてしまう。
浜谷が声をかける。
「武藤さん、手伝います!」
「ありがとう。」
「でももう終わっちゃった。」
武藤は少し照れくさそうに笑う。
派手ではない。
目立つこともない。
それでも、武藤が準備してくれるからイベントは予定通り始められる。
誰も気づかないところで支えてくれている人だった。
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クレーンコーナーでは藤屋がお客様と話していた。
普段は口数が少なく、人見知りな藤屋。
それでも、小さな男の子の前では違った。
「あとちょっとだったね。」
「もう一回やってみよう。」
男の子はうれしそうにうなずく。
景品を獲得すると、
「やったー!」
と飛び跳ねた。
「おめでとう。」
藤屋も少し照れながら笑う。
浜谷は初めて見る藤屋の表情だった。
(藤さん、あんな笑い方するんだ。)
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その頃、高崎は大きな段ボールを軽々と持ち上げていた。
「よろしく頼む〜!」
いつもの口癖。
浜谷も慌てて駆け寄る。
「持ちます!」
「大丈夫、大丈夫。」
「琉くんはこっちお願い。」
高崎は笑顔で指示を出す。
明るくて、頼もしい。
高崎がいるだけで職場の雰囲気まで明るくなる。
そんな存在だった。
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閉店後。
メダルコーナーでは山神が一人、機械を覗き込んでいた。
「山神さん。」
浜谷が声をかける。
「何してるんですか?」
「詰まってた。」
それだけ言うと、山神はメダルを取り出し、機械を元に戻した。
ガチャッ。
エラーランプが消える。
「はい、終わり。」
浜谷は驚く。
「誰も気づいてなかったですよね。」
「おぅ。」
「気づかれないほうがいい。」
「止まらないのが一番だから。」
その言葉に浜谷は思わずうなずいた。
(山神さんは、お客様が気づく前に直してるんだ。)
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事務所では石村が売上を確認していた。
レジを締め、書類を書き、明日の準備をする。
時計を見ると、閉店から三十分以上が過ぎていた。
浜谷が声をかける。
「石村さん、まだ帰らないんですか?」
石村は苦笑いを浮かべる。
「副店長は意外とやること多いんだよ。」
「店長が兼任になったからなおさらな。」
そう言いながらも、手は止まらない。
浜谷は初めて、副店長の仕事の多さを知った。
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帰り道。
浜谷は今日一日を思い返していた。
相馬さんには、お客様を笑顔にする優しさがある。
邦美さんには、見えないところで支える力がある。
藤さんには、子どもたちを安心させる笑顔がある。
麻美さんには、みんなを元気にする明るさがある。
山神さんには、誰にも気づかれない仕事への誇りがある。
石村さんには、お店全体を支える責任がある。
そして茂田は、二つのお店をまとめる店長として走り続けている。
浜谷はふと空を見上げた。
(このお店って。)
(誰か一人がすごいんじゃない。)
(みんなが、それぞれの役割を果たしているから成り立ってるんだ。)
そのことを改めて知った一日だった。
ゲームセンターの灯りは、今日も優しく街を照らしていた。