ようこそ!ゲームセンター『ファンステージ』へ!   作:君脇玲

280 / 286
君の手も借りたい

阿佐野店。

 

午後。

 

店内は少し慌ただしかった。

 

カウンターでは古坂が作業中。

 

茂田は事務所と店内を行ったり来たりしている。

 

細井も接客に追われていた。

 

そして。

 

メダルゲームコーナー。

 

一台の筐体の前に、浜谷がしゃがみ込んでいた。

 

「……ここか」

 

扉を開け、内部を覗き込む。

 

少し前から調子が悪かった部分を確認していた。

 

原因らしき箇所は見つかった。

 

大掛かりな修理ではない。

 

浜谷でも対応できそうだった。

 

ただ。

 

「これ、一人じゃやりにくいな……」

 

部品を固定しながら、別の箇所を締めなければならない。

 

片手で部品を押さえる。

 

もう片方の手で工具を持つ。

 

やってみる。

 

「……無理やな」

 

手が足りない。

 

一度工具を置く。

 

周囲を見る。

 

ちょうどそこへ。

 

「浜谷くん、どう?」

 

細井がやってきた。

 

「直りそう?」

 

「多分いけます。ただ……」

 

「ただ?」

 

浜谷は筐体の中を見る。

 

そして細井を見る。

 

「細井さん、ちょっと手貸してもらっていいですか?」

 

「私?」

 

「はい」

 

「メンテ分かんないよ?」

 

「大丈夫です。押さえてもらうだけなんで」

 

「それならできる」

 

細井が浜谷の隣にしゃがんだ。

 

「どこ?」

 

「これです」

 

浜谷が内部の部品を指差す。

 

「ここを押さえててもらえます?」

 

「これ?」

 

「はい」

 

細井が手を伸ばす。

 

「こう?」

 

「そうです。そのままでお願いします」

 

「はーい」

 

浜谷は工具を取る。

 

細井が部品を押さえている間に、奥へ手を入れた。

 

「離しちゃダメ?」

 

「まだダメです」

 

「いつまで?」

 

「もうちょっとです」

 

「腕疲れてきた」

 

「早いですよ!」

 

「だって変な体勢なんだもん」

 

「頑張ってください」

 

「浜谷くんの仕事なのに」

 

「ていうか細井さんも一応メンテ担当じゃないですか!」

 

「確かに」

 

「忘れてたんですか!?」

 

細井が笑う。

 

浜谷も笑いながら作業を続けた。

 

「あ」

 

「何?」

 

「細井さん、もう少しこっち押さえてください」

 

「こっち?」

 

「もうちょい右です」

 

「右?」

 

「そうです。そこから……」

 

浜谷が手を伸ばす。

 

「ここです」

 

細井の手の位置を直そうとした。

 

その瞬間。

 

浜谷の手が。

 

細井の手に重なった。

 

「……」

 

浜谷の動きが止まる。

 

ほんの一瞬。

 

細井の手の上に、自分の手。

 

「浜谷くん?」

 

「……はい?」

 

「ここでいいの?」

 

「あ」

 

浜谷は慌てて手を離した。

 

「はい。そこです」

 

「分かった」

 

細井は何も気にしていない。

 

ただ言われた通りに部品を押さえている。

 

浜谷は工具を持ち直した。

 

「……」

 

「浜谷くん?」

 

「はい」

 

「止まってるけど」

 

「今やります!」

 

作業を再開する。

 

なぜか。

 

さっきより工具を持つ手に力が入る。

 

「よし……」

 

締め終える。

 

「細井さん、もう離して大丈夫です」

 

「やっと?」

 

「ありがとうございました」

 

細井が手を離した。

 

「直った?」

 

「確認してみます」

 

浜谷が筐体を動かす。

 

しばらく確認。

 

問題ない。

 

「大丈夫そうですね」

 

「おー」

 

細井が笑った。

 

「私のおかげ?」

 

「まあ……半分くらい」

 

「半分も?」

 

「いや、やっぱ一割で」

 

「減った!」

 

二人が笑う。

 

少し離れたカウンター。

 

古坂がその様子を見ていた。

 

そこへ茂田が戻ってくる。

 

「冨美子、何見てるニダ?」

 

「ん?」

 

古坂はメダルゲームコーナーを見る。

 

茂田もつられて見る。

 

浜谷と細井。

 

二人で筐体の前にしゃがんでいる。

 

「……ほぉ」

 

「千歌ちゃん」

 

「何ニダ?」

 

「余計なこと言わないでね」

 

「まだ何も言ってないニダ」

 

「顔が言ってる」

 

メダルゲームコーナーでは。

 

細井が立ち上がった。

 

「じゃあ私、戻るね」

 

「はい。助かりました!ありがとうございました!」

 

「また手が足りなくなったら呼んで」

 

「え?」

 

「手伝うから」

 

細井はそう言って笑った。

 

「……はい」

 

「じゃあね」

 

細井がカウンターへ戻っていく。

 

浜谷は筐体の前に残った。

 

工具を片付ける。

 

そして。

 

ふと。

 

自分の手を見る。

 

ほんの一瞬。

 

触れただけ。

 

細井本人は、きっと何とも思っていない。

 

「……何してんねん、俺」

 

浜谷は小さく呟いた。

 

その時。

 

「浜谷くーん!」

 

細井の声。

 

「はい!」

 

「こっちも手伝ってー!」

 

浜谷は思わず笑った。

 

「結局僕も手貸すんですか!」

 

「お互い様!」

 

「はいはい!」

 

工具を片付けて立ち上がる。

 

カウンターへ向かう途中。

 

古坂と茂田がこちらを見ていた。

 

二人とも。

 

妙に楽しそうな顔をしている。

 

「……なんですか?」

 

「別に?」

 

古坂が笑う。

 

「何もないニダ」

 

茂田も笑う。

 

「絶対なんかあるでしょ!」

 

「浜谷くーん!」

 

また細井に呼ばれる。

 

「今行きます!」

 

忙しい日は。

 

猫の手だって借りたくなる。

 

だけど。

 

今日、浜谷が借りたのは。

 

ほんの少しだけ意識してしまった。

 

細井の手だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。