ようこそ!ゲームセンター『ファンステージ』へ!   作:君脇玲

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トイレの奏子さん

原町中央店。

 

午後。

 

店内を巡回していた大沼が、ふと足を止めた。

 

メダルコーナー近くのベンチ。

 

そこに、一人の女性客が座っていた。

 

俯いたまま、ほとんど動かない。

 

顔色もあまりよくない。

 

大沼は少し様子を見てから、そっと近づいた。

 

「お客様、大丈夫ですか?」

 

女性がゆっくり顔を上げる。

 

「……ちょっと、気持ち悪くて」

 

「大丈夫ですか? お手洗い行きます?」

 

女性が小さく頷いた。

 

「場所……分からなくて」

 

「ご案内しますね」

 

大沼は女性の歩く速さに合わせ、ゆっくりと歩き始めた。

 

その様子に、近くを通りかかった浜谷が気づく。

 

「大沼さん?」

 

大沼は浜谷に小さく手を上げた。

 

「ちょっとお客様をトイレまで案内してくるね」

 

女性の様子を見て、浜谷もすぐに察する。

 

「分かりました」

 

それ以上は聞かなかった。

 

大沼は女性と一緒に女子トイレへ向かう。

 

入口まで案内すれば、それで終わり。

 

普段ならそうなる。

 

しかし。

 

大沼は入口の前で立ち止まった。

 

女性が心配だった。

 

少しして、川原がやってきた。

 

「大沼さん、どうしたんですか?」

 

「具合悪そうなお客様が中にいるの」

 

「大丈夫ですかね……」

 

「うん。ちょっと待ってようかなって」

 

川原もトイレの入口を見る。

 

「じゃあ私もいます」

 

「ありがとう」

 

二人で待つ。

 

しばらくすると、浜谷も様子を見に来た。

 

「まだ出てきてないですか?」

 

「うん」

 

「結構経ちました?」

 

「まだそんなには経ってないけど……」

 

浜谷は女子トイレの入口を見る。

 

当然、中へ様子を見に行くことはできない。

 

「何かあったら呼んでください。僕、近くにいますから」

 

「うん」

 

浜谷は少し離れた場所へ戻った。

 

その後も、大沼は仕事の合間に気にしていた。

 

そして。

 

しばらくして。

 

女性がトイレから出てきた。

 

「あっ」

 

大沼がすぐに近づく。

 

「大丈夫ですか?」

 

先ほどよりは少し顔色が戻っていた。

 

「すみません。だいぶ楽になりました」

 

「よかったぁ……」

 

大沼がほっと笑う。

 

川原も安心したように息を吐いた。

 

「少し座って休みます?」

 

「はい……」

 

「じゃあ、こっちどうぞ」

 

再びベンチまで付き添う。

 

女性は腰を下ろすと、大沼を見上げた。

 

「ありがとうございます」

 

「いえいえ」

 

「ずっと待っててくれたんですか?」

 

大沼は少し笑った。

 

「ちょっと心配だったので」

 

その言葉を聞いて、女性も小さく笑った。

 

「優しいですね」

 

「そんなことないですよ」

 

大沼は少し照れながら答えた。

 

そこへ茂田がやってきた。

 

「大丈夫そう?」

 

「はい。さっきよりは楽になったみたいです」

 

「よかったニダ」

 

茂田も女性に無理をしないよう声をかける。

 

少し離れたところでは、浜谷がその様子を見ていた。

 

やがて女性は十分に休んでから、大沼たちにもう一度礼を言って帰っていった。

 

「よかったですね」

 

浜谷が言う。

 

「うん。ほんとによかった」

 

大沼が答える。

 

川原も頷いた。

 

「大沼さん、ずっと気にしてましたもんね」

 

「だって、あんな具合悪そうだったら心配になるじゃん」

 

茂田が笑う。

 

「奏子ちゃんらしいニダ」

 

「普通ですよ!」

 

大沼は照れたように笑った。

 

すると浜谷が何かを思いついたように言う。

 

「トイレの奏子さんですね」

 

「何それ?」

 

「いや、トイレの前でずっとお客様を心配してたから」

 

「なんか怖い話みたいじゃん!」

 

川原が吹き出す。

 

「確かにちょっと怪談っぽいです」

 

「やめてよ!」

 

「夜になったら出てきたりして」

 

浜谷が声を低くする。

 

「トイレの……奏子さん……」

 

「普通に勤務してるだけだから!」

 

大沼の声が店内に響いた。

 

幽霊でもなければ。

 

怪談でもない。

 

困っている人がいれば声をかける。

 

心配なら、少しだけそばにいる。

 

原町中央店には。

 

そんな優しい。

 

トイレの奏子さんがいる。

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