阿佐野店。
今日は生田が巡回に来ていた。
クレーンゲームの前にしゃがみ込み、外したパネルの奥を確認している。
その手には。
電動ドライバー。
ウィィィィーン。
ネジが一瞬で外れる。
ウィィィィーン。
また一つ。
少し離れたクレーンゲームの陰から。
浜谷がその様子を見ていた。
「……」
ウィィィィーン。
「……かっこええ」
浜谷はクレーンゲームの陰から出ると、生田の隣へ近づいた。
「生田さん」
「ん?」
「電動ドライバーかっこいいですね」
生田が手元を見る。
「これ?」
「はい。楽そうだし」
「浜谷くんにはまだ早いよ」
「なんでですか!」
即座に返した。
「僕だってメンテやってるじゃないですか!」
「やってるけど」
生田は再びネジへ電動ドライバーを当てる。
ウィィィィーン。
浜谷の視線が吸い寄せられる。
「……いいなぁ」
「普通のドライバー使えば?」
「手で回すの面倒なんですよ」
「それも練習だから」
「文明を使いましょうよ!」
そこへ細井が通りかかった。
「何してんの?」
「生田さんが電動ドライバー買わせてくれないんですよ」
「買わせてくれない?」
生田が笑う。
「自分で買うなら別に止めないよ」
「じゃあ買います」
「でも浜谷くんにはまだ早い」
「どっちなんですか!」
細井が電動ドライバーを見る。
「そんなにいいの?」
「いいですよ!」
浜谷は妙に熱く語り始めた。
「ネジ外すの速いし、締めるのも速いし、何よりウィィィィーンって!」
「最後それ?」
「大事ですよ!」
生田が作業を続ける。
ウィィィィーン。
浜谷はまた見つめる。
「……欲しい」
そこへ茂田までやってきた。
「何の集まりニダ?」
細井が答える。
「浜谷くんが電動ドライバー欲しいんだって」
「買えばいいニダ」
浜谷が勢いよく茂田を見る。
「ですよね!?」
「でも使いこなせるニダ?」
「使えますよ!」
生田が横から言う。
「締めすぎてネジ壊しそう」
「壊しません!」
「勢い余ってどっか飛ばしそう」
細井も乗っかる。
「やりそう」
「やりませんって!」
「ウィィィィーン!って一緒に言って楽しんでそう」
「……」
浜谷が黙った。
茂田が笑う。
「やるニダ」
「やるね」
生田まで頷いた。
「……最初だけですよ」
「やるんじゃん」
生田は最後のネジを締める。
ウィィィィーン。
作業終了。
浜谷はその音を聞きながら、天井を見上げた。
「電動ドライバーを買えば〜」
突然つぶやいた。
細井が振り返る。
「何?」
「作業が楽になる〜」
「何?急に」
「そして空に唄えば〜」
茂田が笑う。
「急にどうしたニダ!」
浜谷は両手を広げた。
「ウィィィィーン!」
「それ音じゃん!」
生田が電動ドライバーをケースにしまう。
「浜谷くん」
「はい」
「やっぱまだ早いわ」
「なんでですか!」
阿佐野店に響いた、電動ドライバーの音。
そして。
電動ドライバーに魅せられた大学生のつぶやき。
浜谷が自分の電動ドライバーを手にする日は。
まだ少しだけ。
遠そうだった。