原町中央店。
川原がクレーンゲームの景品を整えていると、一人のお客さんに声をかけられた。
「すみません」
「はい」
「これ、全然取れないんだけど」
川原が景品を見る。
「どのくらいプレイされました?」
「もう五千円くらい使ってるよ」
「五千円……」
思わず景品を見る。
それだけ使って、一個も取れていない。
そう言われると、さすがに気になる。
川原は景品の位置を確認し、少しだけ整えた。
「こちらからまた挑戦してみてください」
「これで取れる?」
「申し訳ありません。必ず取れるとはお伝えできないんですけど……」
お客さんは再びプレイを始めた。
川原は一礼して、その場を離れた。
カウンターへ戻る。
そこには高崎がいた。
「高崎さん」
「ん?」
「今、あそこのお客さんに五千円使っても取れないって言われて……」
「ああ」
高崎はすぐに分かったらしい。
「あのお客さん、ホラ吹いたね」
「え?」
川原が振り返る。
「五千円使ってるのは本当だと思うよ」
「はい」
「でも、もう二個取ってる」
「……え?」
川原が固まった。
「二個?」
「うん。私見てたもん」
「じゃあ、五千円使って一個も取れてないわけじゃ……」
「ないね」
川原は遠くのクレーンゲームを見る。
お客さんは三個目に挑戦していた。
「……言わないんですね」
「何を?」
「二個取ってること」
「聞かれてないからね」
高崎は笑った。
そこへ石村が来た。
「どうしたの?」
「さっきのお客さん、五千円使って取れないって言ってたんですけど、もう二個取ってるらしくて」
「ああ」
石村も景品コーナーを見る。
「そういう言い方する人はいるよ」
「やっぱりいるんですね」
「『何千円使った』っていうのは、本当かどうかこっちじゃ分からない時もあるしね」
「なるほど……」
夕方。
出勤してきた相馬にも、その話が伝わった。
「難しいですよね」
川原が言う。
「お客さんに言われると、本当なのかなって思っちゃって」
相馬が笑う。
「最初はね」
「相馬さんもありました?」
「あるある。『ずっとやってる』って言われて、実際はそんなに経ってなかったり」
「へえ……」
高崎が川原を見る。
「だから、言われたことだけじゃなくて、自分でも見とくといいよ」
「はい」
川原は頷いた。
その時。
例のお客さんがカウンターの前を通った。
手には袋。
中には。
同じ景品が三個。
「……」
川原が無言で見送る。
高崎も見る。
石村も見る。
相馬も見る。
お客さんはそのまま店を出ていった。
しばしの沈黙。
川原が呟いた。
「……三個になってる」
高崎が笑う。
「取れたね」
「五千円使って取れないって……」
「五千円使って」
石村が言う。
「三個取ったんだね」
相馬が頷く。
「よかったじゃない」
「……よかったんですかね?」
川原は首を傾げた。
お客さんの言葉と。
実際に起きていること。
そのあいだには。
時々。
ちょっとしたホラが挟まっている。