阿佐野店。
浜谷はメダルゲームの前にいた。
「…………」
工具を持つ。
機械の中を見る。
説明書を見る。
もう一度、機械の中を見る。
「なんで直らんねん……」
今日はなかなか手強い。
原因らしき箇所を確認して、試して、またエラー。
別の場所を見て、試して。またエラー。
悪戦苦闘すること。
しばらく。
「…………あ」
動いた。
エラー表示が消える。
浜谷は少し待った。
再発しない。
「ふぅー!」
大きく息を吐く。
「終わったー!」
達成感。
その直後だった。
「浜谷くーん!」
細井がやってきた。
「はい?」
「次、二台エラー出てる!」
「二台!?」
余韻終了。
浜谷は工具を持ち直した。
「行きますね!」
一台目。
原因を探す。
直す。
二台目。
こちらも確認する。
途中で少し詰まりながら。
なんとか。
「……よし」
二台とも復旧した。
「終わった……」
浜谷は立ち上がる。
メンテ担当になってから。
いろいろなエラーを見てきた。
すぐに直るもの。
原因が分からないもの。
何度直しても再発するもの。
少しずつ。
できることは増えてきた。
それでも、立て続けに二台はちょっとしんどい。
「浜谷さーん!」
今度は矢水の声だった。
「はい!」
「四台エラー出ちゃった!」
「四台!?」
浜谷は思わず聞き返した。
「一応見てみます……」
一台。
二台。
三台。
四台。
順番に確認していく。
「…………」
嫌な予感。
どれもこれも一筋縄ではいかなそうだった。
一台目。
分からない。
二台目。
これも少し面倒。
三台目。
「なんやこれ……」
四台目。
「…………」
浜谷は立ち尽くした。
頭の中で四台分のエラーが混ざり始める。
「ちょ、待って……」
軽くパニックである。
そこへ大澤がやってきた。
「浜谷くん」
「大澤さん……」
救世主。
「浜谷くんは、あっちの二台見て」
大澤が二台を指した。
「こっち二台やるから」
「あ、ありがとうございます!」
そして大澤が時計を見る。
「もう上がりの時間でしょ」
「え?」
浜谷も時計を見る。
「…………ほんまや」
退勤まで。
残り一時間。
「じゃあお願いします!」
浜谷は担当する二台へ向かった。
一台目。
説明書を開く。
機械と見比べる。
「あー……ここか?」
確認。
違う。
また説明書。
「あ、こっち?」
試す。
少し進んだ。
もう一度確認。
「よし……!」
一台目。
復旧。
そして二台目。
こちらも。
簡単ではなかった。
「あとちょっと……」
時計を見る。
時間は減っていく。
説明書。
機械。
説明書。
機械。
何度も往復して。
ようやく。
エラーが消えた。
「…………終わった」
浜谷は息を吐いた。
なんとか。
二台とも直した。
「大澤さんはどうなんだろう?」
近くにいた細井を見る。
「細井さん、大澤さんの方どうなりました?」
「大澤さん?」
「はい」
細井は普通に答えた。
「もう帰ったよ?」
「は!?」
浜谷が振り返る。
いない。
「帰ったんですか!?」
「うん」
「いつ!?」
「浜谷くんがやってる間にチャチャっとやって、終わりの時間だから帰ったよ」
「…………」
浜谷は。
大澤が担当した二台を見る。
正常に動いている。
完璧に。
直っている。
「…………」
そして。
思い出した。
あの二台。
確かに。
手間はかかる。
けれど。
何度も見たことのあるエラーだった。
「あっ……」
大澤は。
四台を見た時点で。
分かっていたのかもしれない。
自分なら。
あの二台は早く終わらせられると。
そして浜谷には。
説明書を見れば。
なんとか対応できそうな二台を残した。
大澤は自分の二台を直し。
定時になった。
だから。
帰った。
何もおかしくない。
何ひとつ。
おかしくない。
「…………」
細井が浜谷を見る。
「どうしたの?」
浜谷は。
静かに天を仰いだ。
そして。
叫んだ。
「大澤さぁぁぁぁん!!」
阿佐野店に。
浜谷の声が響いた。
今日のメンテは。
倍々と増えるエラーと。
戦った。
そして大澤は。
浜谷より一足先に。
メンテにも。
阿佐野店にも。
バイバイしていた。