原町中央店。
夕方。
川原はカウンターで景品の整理をしていた。
昼から勤務している日村は、メダルコーナーの機械を確認している。
すると、事務所の扉が開いた。
「おはようございまーす」
相馬だった。
「あっ、相馬さん!」
川原が振り返る。
「おはようございます!」
「おはよう」
相馬は時計を見る。
夕方。
そして笑った。
「おはようって時間じゃないけどね」
「確かに」
川原も笑う。
ゲームセンターでは夕方でも夜でも、その日初めて会ったスタッフには「おはようございます」。
相馬は遅番のスタッフである。
川原にとって一日が後半へ入る頃。
相馬の勤務は、ここから始まる。
「今日どう?」
相馬が店内を見ながら聞く。
「今日は結構お客さん多かったですよ」
「忙しかった?」
「ちょっとバタバタしました」
そこへ、メダルコーナーから日村が戻ってきた。
「あ、相馬さん。おはようございます」
「日村さん、おはようございます」
川原が二人を見る。
「日村さんも遅番ですよね?」
「そうだね」
日村は昼から。
相馬は夕方から。
同じ遅番でも、勤務の始まる時間は同じとは限らない。
「私はもう今日一日結構働いてるのに、相馬さんは今からなんですね」
川原が言う。
「そういうこと」
相馬は荷物を置き、勤務の準備を始めた。
少しすると、いつものように店内へ。
常連客を見つければ自然に声をかける。
「今日も来たの?」
客も笑いながら相馬と話している。
日村は機械を見ながらメダルコーナーを回り、相馬もその近くで仕事を始める。
時間帯によって、働いているスタッフも少しずつ入れ替わっていく。
そして。
夜。
「お疲れ様でした!」
勤務を終えた川原が事務所から出てきた。
「お疲れ様」
「お疲れさまー」
相馬と日村が見送る。
「お先に失礼します!」
「気をつけてね」
「はい!お疲れ様です!」
川原が帰っていく。
自動ドアが閉まる。
少しだけ静かになった。
相馬が店内を見る。
「若い子が帰ると静かになるね」
日村が笑う。
「相馬さんがいるから変わらないんじゃない?」
「どういう意味?」
「元気ってこと」
「それならいいけど」
二人は笑った。
夜のゲームセンター。
昼間とは客層も少し変わり、仕事帰りらしい客の姿も増えている。
相馬がメダルゲームの椅子を直す。
日村はその隣でメダルを回収している。
「川原さんも頑張ってるよね」
相馬がふと言った。
「頑張ってる」
「若いっていいねぇ」
「相馬さん、それ言ったら俺も巻き込まれる」
「日村さんはもういい年でしょ」
「確かに」
「まあ……川原さんと比べたら」
日村が苦笑する。
「浜谷くんとか川原さん見てると、若いなぁとは思うな」
「思うよね」
「元気だもん」
「私たちだって元気でしょ?」
「まあ、それなりに」
「それなりって何よ」
また笑う。
少しして。
相馬がぽつりと言った。
「でも不思議だよね」
「何がです?」
「若い頃って、今くらいの歳になったら、もっとちゃんとした大人になってると思ってなかった?」
日村の手が止まる。
「あー……」
少し考える。
「思ってたかも」
「でしょ?」
「なんでも分かってて、悩みもなくて」
「そうそう」
相馬が頷く。
「実際なってみたら、全然そんなことない」
「分かんないことだらけ」
「仕事もそうだし、人生もね」
二人の間に、少しだけ静かな時間が流れる。
遠くからメダルゲームの音が聞こえてくる。
日村が笑った。
「急に大人の話になった」
「川原さん帰ったから」
「いたらできないの?」
「できるけど」
相馬は笑う。
「若い子の前では、ちょっと先輩っぽくしてたいじゃない」
「ああ、それは分かるかも」
「でしょ?」
「じゃあ今度、川原さんに言っとこうか?」
「何を?」
「相馬さんも人生分かんないって言ってたって」
「やめなさいよ!」
夜の店内に二人の笑い声が響く。
その時。
メダルコーナーから声が飛んできた。
「すみませーん!」
「はーい!」
相馬がすぐに振り返る。
「日村さん」
「はい?」
「人生は分かんないけど」
相馬がメダルコーナーへ歩き出す。
「仕事はしなきゃね」
日村が笑う。
「そうだね」
朝から働く早番がいる。
午前から働いて夕方帰る中番がいる。
昼から働く遅番がいる。
夕方から働く遅番もいる。
誰かの勤務が終わる頃に、誰かの勤務が始まる。
そうやってファンステの一日は夜まで続いていく。
相馬聖子の勤務は今夜も夜ひらく。