阿佐野店。
ある日の午後。
「浜谷くんってさ」
細井がふと口を開いた。
「女の人に弱いですよね」
近くにいた古坂が笑う。
「分かる」
「分かりますよね?」
樋口も頷いた。
「綺麗な人とかいると、ちょっと見てない?」
「見るニダ」
茂田まで加わった。
四人の視線が。
少し離れたところで作業している浜谷へ向く。
本人は何も知らない。
「でも、本当にそうなのかな?」
古坂が言った。
「確かめてみる?」
細井が笑った。
作戦は単純だった。
存在しないお客さんを作る。
そして、浜谷の前でその人が、とても色っぽい女性であるかのように話す。
それだけである。
しばらくして、浜谷が戻ってきた。
「何の話してるんですか?」
「別にー」
細井が答える。
そして。
作戦開始。
古坂が何気なく言った。
「さっきのお客さん、すごかったね」
樋口が合わせる。
「すごかったです。めっちゃセクシーでした」
浜谷の手が。
ほんの一瞬止まった。
「…………」
茂田も続ける。
「妖艶だったニダ」
浜谷が反応した。
細井は笑いを堪えながら言う。
「ほんと色っぽかったですよね」
「へえ」
浜谷は平静だった。
少なくとも本人は、そのつもりだった。
「じゃ、巡回行ってきます」
四人が一斉に浜谷を見る。
「…………」
「何ですか?」
「別に?」
「行ってきます」
浜谷は歩き出した。
店内を巡回する。
メダルゲーム。
クレーンゲーム。
通路。
ちらり。
ちらり。
「…………」
いない。
そもそも誰を探せばいいのか、浜谷は知らない。
どんな服か?
髪型は?
年齢は?
何も聞いていない。
分かっているのはセクシー。
そして、妖艶で色っぽい。
それだけだった。
浜谷は一周して戻ってきた。
「…………」
細井が聞く。
「どうだった?」
「何がですか?」
「巡回」
「異常なしです」
「そっか」
「はい」
少しして。
浜谷はまた歩き出した。
古坂が呼び止める。
「琉くん、どこ行くの?」
「巡回です」
「さっき行ったよね?」
「巡回は何回してもいいじゃないですか」
二周目。
ちらり。
ちらり。
「…………」
やっぱり分からない。
浜谷が戻ってくる。
四人が見ている。
「何ですか?」
樋口が聞いた。
「いなかった?」
「何がですか?」
「妖艶な人」
「探してないですよ!」
即答だった。
細井が笑う。
「誰も探してるなんて言ってないよ?」
「…………」
浜谷が止まる。
茂田がニヤニヤしている。
古坂も。
樋口も。
「…………ドッキリ?」
「正解!」
細井が笑った。
浜谷は四人を見る。
「最悪や!」
「やっぱり探したんじゃん!」
「探してないです!巡回です!」
「二回も?」
「念入りな巡回です!」
茂田が言う。
「琉くん、妖艶なお客さんなんて最初からいないニダ」
「でしょうね!」
「残念?」
樋口が聞く。
「残念じゃないですよ!」
古坂が笑う。
「じゃあなんで二周したの?」
「…………」
浜谷は少し考えた。
「店内の安全確認です」
「シラ切ってる!」
細井が笑った。
「じゃあもし本当にいたら?」
「何がですか?」
「妖艶で色っぽいお客さん」
浜谷は答えた。
「普通に接客しますよ」
「見る?」
「見ません」
「ほんと?」
「…………」
四人が浜谷を見る。
浜谷は視線を逸らした。
「…………まあ、視界には入るかもしれないですけど」
「ほら!」
「それは仕方ないでしょ!」
阿佐野店。
浜谷琉は女の人に弱いのか。
その答えは。
二度にわたる念入りな巡回が何より雄弁に物語っていた。