ようこそ!ゲームセンター『ファンステージ』へ!   作:君脇玲

32 / 92
2度目のお盆戦争

八月。

 

原町中央店は一年で最も忙しい時期を迎えていた。

 

浜谷にとっては、二度目のお盆営業。

 

昨年は何が何だか分からないまま、一日が終わってしまった。

 

だが今年は違う。

 

朝礼。

 

「おつかれさまぁ〜ず!」

 

茂田が出勤メンバーを見回す。

 

「今日からお盆本番!」

 

「めちゃくちゃ忙しくなるよー!」

 

「みんな、水分補給だけは忘れないでね!」

 

「はい!」

 

事務所に元気な返事が響いた。

 

浜谷は去年のお盆を思い出す。

 

開店直後から鳴り止まないインカム。

 

終わらない景品補充。

 

気付けば閉店。

 

「あの頃は本当に必死だったな……。」

 

そんな独り言に石村が笑った。

 

「今年は違うだろ?」

 

「そうですね。」

 

浜谷も笑ってうなずいた。

 

「少しは成長できたと思います。」

 

「その調子。」

 

石村は軽く肩を叩いた。

 

 

開店十分後。

 

店内はあっという間に家族連れでいっぱいになった。

 

「琉くん!」

 

茂田の声が飛ぶ。

 

「景品補充お願い!」

 

「はい!」

 

「細井ちゃん!」

 

「イベントお願い!」

 

「はい!」

 

二人はそれぞれ持ち場へ走る。

 

去年なら慌てていた浜谷も、今は落ち着いて周囲を見ながら動いていた。

 

景品が少なくなればすぐ補充。

 

ゴミを見つければ拾う。

 

お客様から呼ばれれば笑顔で対応する。

 

その姿を見ていた山神が小さくつぶやく。

 

「おぅ。」

 

相馬は微笑んだ。

 

「去年とは別人みたいだね。」

 

 

昼前。

 

インカムが鳴る。

 

『イベントコーナー、応援お願いしまーす。』

 

浜谷はすぐに向かう。

 

そこでは細井が景品補充をしていた。

 

「浜谷くん!」

 

「思ったより減るの早い!」

 

「お盆はこんな感じなんです。」

 

浜谷は笑いながら段ボールを開ける。

 

「去年、僕もびっくりしました。」

 

二人は手分けして景品を並べていく。

 

「細井ちゃん!」

 

高崎も応援にやって来た。

 

「今日は考えるより動く!」

 

「分かりました!」

 

三人で作業すると、補充はあっという間に終わった。

 

「助かりました!」

 

細井はほっと息をつく。

 

 

午後。

 

店内はさらに混雑していた。

 

あちこちでインカムが鳴る。

 

「石村、向かいまーす。」

 

「藤屋、確認します。」

 

「大沼、大丈夫です!」

 

「アリガトゴザイマス。」

 

それぞれが自分の持ち場で動き続ける。

 

浜谷も休む暇なく走り回る。

 

そんな中、小さな女の子が迷子になってしまった。

 

「どうしたの?」

 

浜谷が優しく声をかける。

 

女の子は泣きそうな顔でうつむいていた。

 

細井も駆け寄る。

 

「大丈夫。」

 

「一緒にお母さん探そう。」

 

二人で女の子を落ち着かせ、館内放送をお願いする。

 

数分後。

 

母親が駆け寄ってきた。

 

「ありがとうございました!」

 

深々と頭を下げる母親。

 

女の子も笑顔で手を振った。

 

「ばいばーい!」

 

二人も笑顔で手を振り返した。

 

「よかったですね。」

 

「うん。」

 

細井はほっと胸をなで下ろした。

 

 

閉店後。

 

スタッフ全員が疲れ切った表情で事務所へ戻る。

 

「おつかれさまぁ〜ず!」

 

茂田は笑顔だった。

 

「今年のお盆も無事終了!」

 

拍手が起こる。

 

高崎が浜谷を見る。

 

「琉くん、本当に落ち着いてたね。」

 

武藤もうなずく。

 

「去年とは全然違った。」

 

石村が静かに笑う。

 

「もう一人前だな。」

 

浜谷は少し照れくさそうに笑った。

 

「ありがとうございます。」

 

その隣で細井も笑う。

 

「浜谷くんがいてくれて助かった。」

 

「こちらこそです。」

 

去年は助けてもらう側だった。

 

今年は誰かを支える側になっていた。

 

同じお盆でも、見える景色は一年前とはまるで違う。

 

浜谷は少しだけ、自分の成長を実感していた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。