八月。
原町中央店は一年で最も忙しい時期を迎えていた。
浜谷にとっては、二度目のお盆営業。
昨年は何が何だか分からないまま、一日が終わってしまった。
だが今年は違う。
朝礼。
「おつかれさまぁ〜ず!」
茂田が出勤メンバーを見回す。
「今日からお盆本番!」
「めちゃくちゃ忙しくなるよー!」
「みんな、水分補給だけは忘れないでね!」
「はい!」
事務所に元気な返事が響いた。
浜谷は去年のお盆を思い出す。
開店直後から鳴り止まないインカム。
終わらない景品補充。
気付けば閉店。
「あの頃は本当に必死だったな……。」
そんな独り言に石村が笑った。
「今年は違うだろ?」
「そうですね。」
浜谷も笑ってうなずいた。
「少しは成長できたと思います。」
「その調子。」
石村は軽く肩を叩いた。
⸻
開店十分後。
店内はあっという間に家族連れでいっぱいになった。
「琉くん!」
茂田の声が飛ぶ。
「景品補充お願い!」
「はい!」
「細井ちゃん!」
「イベントお願い!」
「はい!」
二人はそれぞれ持ち場へ走る。
去年なら慌てていた浜谷も、今は落ち着いて周囲を見ながら動いていた。
景品が少なくなればすぐ補充。
ゴミを見つければ拾う。
お客様から呼ばれれば笑顔で対応する。
その姿を見ていた山神が小さくつぶやく。
「おぅ。」
相馬は微笑んだ。
「去年とは別人みたいだね。」
⸻
昼前。
インカムが鳴る。
『イベントコーナー、応援お願いしまーす。』
浜谷はすぐに向かう。
そこでは細井が景品補充をしていた。
「浜谷くん!」
「思ったより減るの早い!」
「お盆はこんな感じなんです。」
浜谷は笑いながら段ボールを開ける。
「去年、僕もびっくりしました。」
二人は手分けして景品を並べていく。
「細井ちゃん!」
高崎も応援にやって来た。
「今日は考えるより動く!」
「分かりました!」
三人で作業すると、補充はあっという間に終わった。
「助かりました!」
細井はほっと息をつく。
⸻
午後。
店内はさらに混雑していた。
あちこちでインカムが鳴る。
「石村、向かいまーす。」
「藤屋、確認します。」
「大沼、大丈夫です!」
「アリガトゴザイマス。」
それぞれが自分の持ち場で動き続ける。
浜谷も休む暇なく走り回る。
そんな中、小さな女の子が迷子になってしまった。
「どうしたの?」
浜谷が優しく声をかける。
女の子は泣きそうな顔でうつむいていた。
細井も駆け寄る。
「大丈夫。」
「一緒にお母さん探そう。」
二人で女の子を落ち着かせ、館内放送をお願いする。
数分後。
母親が駆け寄ってきた。
「ありがとうございました!」
深々と頭を下げる母親。
女の子も笑顔で手を振った。
「ばいばーい!」
二人も笑顔で手を振り返した。
「よかったですね。」
「うん。」
細井はほっと胸をなで下ろした。
⸻
閉店後。
スタッフ全員が疲れ切った表情で事務所へ戻る。
「おつかれさまぁ〜ず!」
茂田は笑顔だった。
「今年のお盆も無事終了!」
拍手が起こる。
高崎が浜谷を見る。
「琉くん、本当に落ち着いてたね。」
武藤もうなずく。
「去年とは全然違った。」
石村が静かに笑う。
「もう一人前だな。」
浜谷は少し照れくさそうに笑った。
「ありがとうございます。」
その隣で細井も笑う。
「浜谷くんがいてくれて助かった。」
「こちらこそです。」
去年は助けてもらう側だった。
今年は誰かを支える側になっていた。
同じお盆でも、見える景色は一年前とはまるで違う。
浜谷は少しだけ、自分の成長を実感していた。