12月。
武藤の退職から数週間。
原町中央店は、少し静かになっていた。
朝礼。
「おつかれさまぁ〜ず!」
茂田が明るく声を出す。
その声はいつもと変わらない。
けれど、事務所を見渡すと、一つひとつの景色が少し変わっていた。
古坂さんがいた場所。
細井さんが座っていた椅子。
そして、邦美さんのロッカー。
そこにはもう誰もいない。
浜谷はその景色を見ながら、小さく息をついた。
⸻
営業が始まる。
「琉くん!」
「景品補充お願い!」
「はい!」
「浜谷くん!」
「イベントお願い!」
「分かりました!」
「浜谷くん!」
「お客様対応!」
「はい!」
次々と仕事が舞い込んでくる。
以前なら、古坂や武藤、細井も分担していた仕事。
今は残ったスタッフで補わなければならない。
一人ひとりの仕事量は確実に増えていた。
⸻
休憩時間。
浜谷は自動販売機の前で缶コーヒーを飲んでいた。
ふと、一年前を思い出す。
メダル補充を教えてくれた古坂。
「そんなに力入れなくて大丈夫だよ。」
そう言って笑っていた姿。
細井と初めて二人で担当したイベント。
「ありがとう、浜谷くん。」
年上なのに後輩だった、不思議な関係。
そして。
「その気持ちがあれば大丈夫。」
最後まで優しく背中を押してくれた邦美さん。
みんな、この店から旅立っていった。
浜谷は少し寂しそうに笑った。
「みんな元気かな……。」
⸻
「琉くん。」
相馬が隣へ座る。
「何考えてたの?」
「皆さんのことを。」
浜谷は正直に答えた。
「古坂さん。」
「細井さん。」
「邦美さん。」
「みんな辞めたり異動したりして。」
「少し寂しいです。」
相馬は静かにうなずいた。
「お店ってね。」
「ずっと同じメンバーじゃないんだよ。」
「出会いもあれば別れもある。」
「でも。」
「その人たちから教わったことは、ちゃんと残る。」
浜谷はその言葉を静かに聞いていた。
⸻
午後。
店内は予想以上の混雑。
景品補充。
イベント。
接客。
インカムが次々と鳴る。
「浜谷、向かいます!」
去年なら焦っていた。
でも今は違う。
優先順位を考え、走りながら周囲を見渡す。
困っているスタッフがいれば自然と手伝いに入る。
「ありがとう!」
大沼が笑う。
「助かりました!」
「大丈夫です!」
浜谷も笑顔で返した。
その様子を見ていた石村が、小さくうなずく。
「頼もしくなったな。」
山神も短く言う。
「おぅ。」
その一言だけで十分だった。
浜谷は認められた気がした。
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閉店後。
茂田が今日の営業を振り返る。
「みんな、お疲れさま!」
「人数は減っちゃったけど。」
「その分、みんなで助け合えてるね!」
「はい!」
スタッフ全員がうなずく。
帰り支度をしながら浜谷は店内を見渡した。
ここにはもう、古坂も、細井も、武藤もいない。
でも。
三人が教えてくれたことは、今も自分の中に生きている。
そして今度は、自分が誰かを支える番だ。
まだ一人前とは言えない。
それでも、一年前の自分とは違う。
少しずつ。
本当に少しずつ。
浜谷は原町中央店の”戦力”へと成長していた。