ようこそ!ゲームセンター『ファンステージ』へ!   作:君脇玲

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新しい風

十二月。

 

武藤の退職から一か月。

 

少ない人数で営業を続ける原町中央店。

 

そんなある日の朝礼。

 

「おつかれさまぁ〜ず!」

 

茂田がいつものように元気よく事務所へ入ってくる。

 

「今日はみんなにお知らせがあるニダ!」

 

スタッフが一斉に茂田を見る。

 

「原町中央店に、新しいスタッフが入りまーす!」

 

「おぉ!」

 

高崎が嬉しそうに拍手する。

 

事務所のドアが開き、一人の女性が少し緊張した様子で入ってきた。

 

「はじめまして。」

 

「本日から勤務します、川原木乃香です。」

 

「よろしくお願いいたします。」

 

深々と頭を下げる川原。

 

茂田が笑顔で紹介する。

 

「木乃香ちゃんは琉くんと同い年!」

 

「そして教育係は大沼さんです!」

 

「はい!」

 

大沼が笑顔で手を挙げる。

 

「よろしくね!」

 

「よろしくお願いいたします!」

 

浜谷は心の中で驚いていた。

 

(同い年なんだ……。)

 

自分が新人だった頃を思い出す。

 

あれから一年以上。

 

気付けば、自分より後に入るスタッフが増えてきていた。

 

⸻

 

営業が始まり、大沼は川原を連れて店内を案内する。

 

「ここがイベントコーナー。」

 

「景品倉庫はこっちだよ。」

 

「分からないことがあったら何でも聞いてね。」

 

「はい!」

 

川原は何度もメモを取りながら真剣に話を聞いていた。

 

その姿を見て浜谷は、一年前の自分と重ね合わせる。

 

インカムを付けるだけで緊張していた頃。

 

先輩たちの後ろを必死について歩いていた毎日。

 

少し懐かしかった。

 

⸻

 

昼頃。

 

景品補充を終えた浜谷が倉庫へ戻ろうとすると、川原が声を掛けた。

 

「浜谷さん。」

 

「はい?」

 

「少しお聞きしてもいいですか?」

 

「もちろんです。」

 

川原は少し笑いながら言う。

 

「茂田店長から、同い年だって聞いたんですけど……。」

 

「本当ですか?」

 

浜谷も笑顔になる。

 

「はい、本当ですよ。」

 

「二十歳です。」

 

「やっぱり!」

 

川原は安心したように笑った。

 

「私も二十歳なんです。」

 

「同い年の方がいるって聞いて、ちょっと安心しました。」

 

「僕もびっくりしました。」

 

「今まで同年代のスタッフってほとんどいなかったので。」

 

二人は思わず笑い合う。

 

「でも。」

 

川原が少し照れながら続ける。

 

「同い年なのに先輩って、不思議ですね。」

 

「確かにそうですね。」

 

浜谷も苦笑した。

 

「でも仕事では僕の方が少し先輩なので。」

 

「分からないことがあれば、いつでも聞いてください。」

 

「はい!」

 

「よろしくお願いします。」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします。」

 

同い年だからこその話しやすさ。

 

それでも、まだお互い敬語。

 

その少しぎこちない距離感が、どこか心地よかった。

 

⸻

 

午後。

 

「大沼さん!」

 

川原が少し慌てて呼ぶ。

 

「この景品の置き方で合っていますか?」

 

「うん!」

 

「すごくいいよ!」

 

「ありがとう!」

 

大沼は笑顔で一つひとつ丁寧に教えていく。

 

その様子を見た浜谷は思う。

 

(大沼さん、本当に教えるの上手だな。)

 

相手を焦らせず、安心させる。

 

自分も新人の頃、何度もその笑顔に助けられた。

 

⸻

 

閉店後。

 

茂田が笑顔で言った。

 

「木乃香ちゃん!」

 

「初日、お疲れさま!」

 

「ありがとうございました!」

 

「どうだった?」

 

「すごく緊張しました。」

 

「でも皆さんが優しく教えてくださって安心しました。」

 

「それなら良かった!」

 

石村も静かにうなずく。

 

「焦らず覚えていけばいい。」

 

「はい!」

 

帰る支度をしていると、川原が浜谷に声を掛ける。

 

「浜谷さん。」

 

「今日はありがとうございました。」

 

「いえ。」

 

「こちらこそ、お疲れさまでした。」

 

二人は軽く会釈を交わす。

 

同い年。

 

だけど、先輩と後輩。

 

その少し不思議な関係が、今日から始まった。

 

そして原町中央店には、新しい風が吹き始めていた。




余談です。
本当の歴史は浜谷と細井の間に3人入社してたんですが、すぐ辞めました。川原と同期入社の人もいたんですが、こちらもすぐ辞めちゃったんですよね。
大沼→古坂→浜谷の3人の採用はかなり良かったと店長は言っておりましたね。
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