春休みも終わりに近づいたある日。
浜谷はいつものようにファンステージ原町中央店へ出勤した。
「おはようございます!」
「おつかれさまぁ〜ず♪」
茂田がいつもの笑顔で迎える。
石村は売場を見回しながら浜谷を呼んだ。
「浜谷くん。」
「今日は接客をやってみようか。」
「接客ですか……!」
少し緊張しながらも、浜谷は力強く返事をする。
「はい!」
石村は笑ってうなずいた。
「大丈夫。」
「困ったら俺たちがいるから。」
その一言に、浜谷の肩の力が少し抜けた。
⸻
開店から一時間ほど経った頃。
クレーンゲームコーナーで、小さな女の子が不安そうに浜谷を見つめていた。
「あの……。」
「はい!」
浜谷は笑顔で駆け寄る。
「どうしましたか?」
女の子はクレーンゲームを指差した。
「これ……取れない。」
景品はあと少しで落ちそうな位置。
(どうしよう……。)
昨日、小瀧に教わったこと。
そして石村に言われた言葉が頭をよぎる。
(困ったら、一人で抱え込まなくていい。)
浜谷は女の子へ優しく尋ねた。
「何回くらい挑戦したの?」
「三回。」
「教えてくれてありがとう。」
浜谷はインカムのボタンを押した。
「クレーン対応お願いします。」
するとすぐに、
『石村、向かいまーす。』
聞き慣れた声が耳に響く。
石村は景品の位置を確認すると、アームが届きやすい場所へ少しだけ調整した。
「これなら狙いやすいですよ。」
「もう一回やってみようか。」
女の子は真剣な表情でボタンを押す。
アームが景品を持ち上げ、
コロン。
景品が取り出し口へ落ちた。
「やったー!」
女の子は景品を抱きしめて満面の笑みを浮かべる。
「ありがとう!」
その一言を聞いた瞬間、浜谷の胸が温かくなった。
「おめでとうございます!」
自然と笑顔がこぼれていた。
⸻
お客様が離れると、石村が浜谷の肩を軽く叩く。
「良かったね。」
「最初にしては十分だよ。」
「一人で何とかしようとしなかったのも正解。」
「周りを頼ることも、大事な仕事だから。」
「はい!」
浜谷は大きくうなずいた。
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昼休憩。
休憩室でジュースを飲んでいると、小瀧が隣へ座る。
「初めての接客、お疲れさま。」
「ありがとうございます。」
「すごく緊張しました。」
小瀧は優しく笑う。
「でも、お客様の目を見て話せてたよ。」
「それって意外と難しいことなんだ。」
浜谷は少し照れながら笑った。
「そう言ってもらえると嬉しいです。」
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閉店後。
営業を終えた店内は、昼間の賑わいが嘘のように静かだった。
茂田が浜谷へ声を掛ける。
「今日はどうだったニダ?」
浜谷は少し考えてから答えた。
「最初は不安でした。」
「でも……。」
「『ありがとう』って言ってもらえて、本当に嬉しかったです。」
高崎が笑顔でうなずく。
「その気持ち、忘れないでね〜。」
相馬も優しく微笑む。
「笑顔も良かったよ。」
石村は腕を組みながら笑った。
「接客はマニュアルだけじゃない。」
「相手のことを考える気持ちが一番大事なんだ。」
浜谷は力強く返事をした。
「はい!」
ゲーム機の電子音が静かに止まり、店内の照明が一台ずつ消えていく。
今日初めて、お客様からもらった「ありがとう」。
そのたった一言が、浜谷の中で少しずつ自信へと変わり始めていた。
ゲームセンターの仕事は、機械を相手にする仕事じゃない。
人と人をつなぐ仕事なんだ。
浜谷はそんなことを思いながら、静かになったファンステージをあとにした。