十二月。
クリスマスも近づき、原町中央店は一年で最も忙しい時期を迎えていた。
店内には家族連れや学生の姿が絶えない。
インカムは朝から鳴りっぱなしだった。
「琉くん!」
「景品補充お願い!」
「はい!」
「浜谷くん!」
「メダル対応お願い!」
「向かいます!」
「浜谷!」
「クレーン対応!」
「はい!」
息をつく暇もない。
それでも浜谷は走り続けていた。
⸻
夕方。
一人の男性客がクレーンゲームの前で大声を上げていた。
「店員!」
浜谷が駆け寄る。
「お待たせしました。」
「どうされましたか?」
男性は景品を指差す。
「これ、全然取れねぇじゃねぇか!」
「詐欺だろ!」
浜谷は落ち着いて説明する。
「申し訳ありません。」
「獲得できるように設定しておりますので、一度確認いたします。」
しかし男性は聞く耳を持たない。
「確認なんかいい!」
「今すぐ寄越せ!」
「金返せ!」
周りのお客様も足を止め始める。
浜谷は深呼吸した。
「申し訳ありませんが、景品をお渡しすることはできません。」
その瞬間。
男性はクレーンゲームを思い切り叩いた。
バンッ!!
大きな音が店内に響く。
さらにもう一度。
ドン!!
「こんな店ぶっ壊してやる!」
その言葉を聞いた瞬間だった。
浜谷の中で、何かが切れた。
「やめてください!!」
店内に響くほどの大きな声。
周囲が一瞬静まり返る。
浜谷は男性を真っ直ぐ見つめた。
「機械を叩いても何も解決しません!」
「他のお客様にもご迷惑です!」
「今ので機械が壊れたらどうするんですか、弁償ですよ。」
「そういった行為はやめてください!」
普段の穏やかな浜谷からは想像できない迫力だった。
男性も一瞬たじろぐ。
その時。
「琉くん。」
後ろから茂田が静かに前へ出た。
「ここからは私が対応する。」
浜谷は我に返る。
「……すみません。」
茂田は男性と冷静に話し始めた。
数分後。
男性は不満そうな表情を浮かべながらも、そのまま店を後にした。
⸻
営業終了後。
事務所。
浜谷は頭を下げた。
「今日は申し訳ありませんでした。」
茂田は首を横に振る。
「どうして謝るの?」
「感情的になってしまいました。」
茂田は少し笑う。
「確かに声は大きかった。」
「でもね。」
「琉くんは自分のために怒った?」
浜谷は首を振る。
「違います。」
「機械も、お客様も危ないと思って……。」
「だから止めたかったです。」
茂田は優しくうなずく。
「それなら大丈夫。」
「怒ること自体が悪いんじゃない。」
「理由が大事なんだよ。」
石村も腕を組みながら言う。
「今日は機械を守った。」
「店も守った。」
「よく声を出した。」
山神も短く言う。
「おぅ。」
日村も静かに続ける。
「アリガトゴザイマス。」
高崎は笑いながら言った。
「でもさ。」
「私、琉くんがあんな大きい声出せるなんて知らなかった!」
事務所に笑いが広がる。
浜谷も照れくさそうに笑った。
怒ることは滅多にない。
でも、大切なものを守るためなら。
時には感情を表に出すことも必要なのだと、この日初めて知った。