十二月。
クリスマス商戦真っ只中。
原町中央店は一年で最も忙しい時期を迎えていた。
開店前からスタッフは慌ただしく準備を進めている。
「おつかれさまぁ〜ず!」
茂田の元気な声が事務所に響く。
「今日は土曜日!しかもクリスマス前だから、かなり混むよ!」
「みんな、よろしくね!」
「はい!」
スタッフ全員が返事をし、それぞれ持ち場へ向かっていく。
浜谷もインカムを装着し、深呼吸をした。
去年のクリスマスは、目の前の仕事をこなすだけで精一杯だった。
しかし今年は違う。
自分も店を支える一人として働かなければならない。
そんな意識が自然と芽生えていた。
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開店から一時間。
店内はあっという間に多くのお客様で埋め尽くされる。
「琉くん、景品補充お願い!」
「はい!」
「浜谷くん、メダル詰まり対応!」
「向かいます!」
「イベント応援お願い!」
「分かりました!」
インカムは鳴りっぱなし。
休む暇などほとんどない。
景品補充を終えた浜谷が倉庫へ戻ろうとしたその時だった。
「浜谷さん。」
振り返ると、川原が少し困った表情で立っていた。
「どうしました?」
「お客様から景品について質問を受けたんですが……。」
「私だけではうまく説明できなくて。」
「少し見ていただいてもいいですか?」
「もちろんです。」
浜谷はすぐに川原と一緒にクレーンゲームコーナーへ向かった。
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「こちらの景品なんですが……。」
お客様は景品の位置を指差していた。
浜谷は一度プレイ状況を確認し、丁寧に説明する。
「こちらは定期的に位置を調整しております。」
「今、少しだけ遊びやすい位置へ動かしますね。」
景品を少し前へ寄せる。
「これで狙いやすくなると思います。」
「ありがとうございます!」
お客様は笑顔でゲームを再開した。
その姿を見て川原もほっと胸をなで下ろす。
「ありがとうございました。」
「やっぱり説明の仕方が上手ですね。」
浜谷は少し照れながら笑う。
「僕も最初は全然できませんでした。」
「先輩たちに何度も助けてもらって覚えたんです。」
「だから遠慮なく聞いてください。」
「ありがとうございます。」
川原は深く頭を下げた。
同い年。
それでも、職場では先輩と後輩。
まだお互い敬語のまま。
その少しぎこちない距離感が、どこか心地よかった。
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休憩時間。
大沼が缶コーヒーを片手に川原へ声を掛ける。
「木乃香ちゃん、どう?」
「少し慣れてきた?」
「はい!」
「でも、まだ覚えることが多くて……。」
「大丈夫!」
「最初はみんなそうだから。」
大沼は笑顔で励ます。
「琉くんも最初はインカムが鳴るたびに慌ててたもんね。」
「えぇ!」
高崎が思わず笑う。
「懐かしい!」
「インカム持つだけで緊張してたよね。」
「そうでしたね……。」
浜谷は苦笑いを浮かべた。
「今じゃ想像つかないけど。」
相馬も優しく笑う。
「本当。」
「今はすっかり頼れるスタッフだもん。」
その言葉に浜谷は少し照れくさそうに頭をかいた。
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午後になると、店内はさらに混雑した。
子どもたちの笑い声。
メダルゲームの音。
クレーンゲームの効果音。
店内は活気にあふれている。
「浜谷!」
石村の声が飛ぶ。
「はい!」
「メダルの補充は俺が行く。」
「その間、川原さんのフォロー頼む。」
浜谷は少し驚いた。
以前なら逆だった。
自分がフォローされる側だった。
今は任せられる側になっている。
「分かりました。」
川原の様子を見に行くと、お客様へ笑顔で接客していた。
まだ少しぎこちない。
それでも一生懸命な姿が伝わってくる。
接客を終えた川原が浜谷に気付く。
「あ、大丈夫でした。」
「ありがとうございます。」
「何かあればすぐ呼んでください。」
「はい!」
その返事には、朝よりも少しだけ自信が感じられた。
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閉店後。
茂田が一日の締めをする。
「みんな、お疲れさまぁ〜ず!」
「今日も忙しかったね!」
スタッフから安堵のため息が漏れる。
茂田は浜谷を見て微笑んだ。
「琉くん。」
「今日は木乃香ちゃんのフォロー、ありがと。」
「いえ。」
「僕も先輩たちに教えてもらったので。」
茂田は満足そうにうなずく。
「そうやって教えてもらったことを、次の人に伝えていく。」
「それがお店ってものだから。」
浜谷は静かにうなずいた。
新人だった自分。
助けてもらうことしかできなかった日々。
そして今。
少しずつではあるが、自分は誰かに頼られる存在になっていた。
その変化が、浜谷には少しだけ誇らしかった。