ようこそ!ゲームセンター『ファンステージ』へ!   作:君脇玲

41 / 92
頼られる存在

十二月。

 

クリスマス商戦真っ只中。

 

原町中央店は一年で最も忙しい時期を迎えていた。

 

開店前からスタッフは慌ただしく準備を進めている。

 

「おつかれさまぁ〜ず!」

 

茂田の元気な声が事務所に響く。

 

「今日は土曜日!しかもクリスマス前だから、かなり混むよ!」

 

「みんな、よろしくね!」

 

「はい!」

 

スタッフ全員が返事をし、それぞれ持ち場へ向かっていく。

 

浜谷もインカムを装着し、深呼吸をした。

 

去年のクリスマスは、目の前の仕事をこなすだけで精一杯だった。

 

しかし今年は違う。

 

自分も店を支える一人として働かなければならない。

 

そんな意識が自然と芽生えていた。

 

 

開店から一時間。

 

店内はあっという間に多くのお客様で埋め尽くされる。

 

「琉くん、景品補充お願い!」

 

「はい!」

 

「浜谷くん、メダル詰まり対応!」

 

「向かいます!」

 

「イベント応援お願い!」

 

「分かりました!」

 

インカムは鳴りっぱなし。

 

休む暇などほとんどない。

 

景品補充を終えた浜谷が倉庫へ戻ろうとしたその時だった。

 

「浜谷さん。」

 

振り返ると、川原が少し困った表情で立っていた。

 

「どうしました?」

 

「お客様から景品について質問を受けたんですが……。」

 

「私だけではうまく説明できなくて。」

 

「少し見ていただいてもいいですか?」

 

「もちろんです。」

 

浜谷はすぐに川原と一緒にクレーンゲームコーナーへ向かった。

 

 

「こちらの景品なんですが……。」

 

お客様は景品の位置を指差していた。

 

浜谷は一度プレイ状況を確認し、丁寧に説明する。

 

「こちらは定期的に位置を調整しております。」

 

「今、少しだけ遊びやすい位置へ動かしますね。」

 

景品を少し前へ寄せる。

 

「これで狙いやすくなると思います。」

 

「ありがとうございます!」

 

お客様は笑顔でゲームを再開した。

 

その姿を見て川原もほっと胸をなで下ろす。

 

「ありがとうございました。」

 

「やっぱり説明の仕方が上手ですね。」

 

浜谷は少し照れながら笑う。

 

「僕も最初は全然できませんでした。」

 

「先輩たちに何度も助けてもらって覚えたんです。」

 

「だから遠慮なく聞いてください。」

 

「ありがとうございます。」

 

川原は深く頭を下げた。

 

同い年。

 

それでも、職場では先輩と後輩。

 

まだお互い敬語のまま。

 

その少しぎこちない距離感が、どこか心地よかった。

 

 

休憩時間。

 

大沼が缶コーヒーを片手に川原へ声を掛ける。

 

「木乃香ちゃん、どう?」

 

「少し慣れてきた?」

 

「はい!」

 

「でも、まだ覚えることが多くて……。」

 

「大丈夫!」

 

「最初はみんなそうだから。」

 

大沼は笑顔で励ます。

 

「琉くんも最初はインカムが鳴るたびに慌ててたもんね。」

 

「えぇ!」

 

高崎が思わず笑う。

 

「懐かしい!」

 

「インカム持つだけで緊張してたよね。」

 

「そうでしたね……。」

 

浜谷は苦笑いを浮かべた。

 

「今じゃ想像つかないけど。」

 

相馬も優しく笑う。

 

「本当。」

 

「今はすっかり頼れるスタッフだもん。」

 

その言葉に浜谷は少し照れくさそうに頭をかいた。

 

 

午後になると、店内はさらに混雑した。

 

子どもたちの笑い声。

 

メダルゲームの音。

 

クレーンゲームの効果音。

 

店内は活気にあふれている。

 

「浜谷!」

 

石村の声が飛ぶ。

 

「はい!」

 

「メダルの補充は俺が行く。」

 

「その間、川原さんのフォロー頼む。」

 

浜谷は少し驚いた。

 

以前なら逆だった。

 

自分がフォローされる側だった。

 

今は任せられる側になっている。

 

「分かりました。」

 

川原の様子を見に行くと、お客様へ笑顔で接客していた。

 

まだ少しぎこちない。

 

それでも一生懸命な姿が伝わってくる。

 

接客を終えた川原が浜谷に気付く。

 

「あ、大丈夫でした。」

 

「ありがとうございます。」

 

「何かあればすぐ呼んでください。」

 

「はい!」

 

その返事には、朝よりも少しだけ自信が感じられた。

 

 

閉店後。

 

茂田が一日の締めをする。

 

「みんな、お疲れさまぁ〜ず!」

 

「今日も忙しかったね!」

 

スタッフから安堵のため息が漏れる。

 

茂田は浜谷を見て微笑んだ。

 

「琉くん。」

 

「今日は木乃香ちゃんのフォロー、ありがと。」

 

「いえ。」

 

「僕も先輩たちに教えてもらったので。」

 

茂田は満足そうにうなずく。

 

「そうやって教えてもらったことを、次の人に伝えていく。」

 

「それがお店ってものだから。」

 

浜谷は静かにうなずいた。

 

新人だった自分。

 

助けてもらうことしかできなかった日々。

 

そして今。

 

少しずつではあるが、自分は誰かに頼られる存在になっていた。

 

その変化が、浜谷には少しだけ誇らしかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。