営業が終わり、閉店作業もひと段落。
「浜谷くん。」
古坂が声を掛ける。
「一服、行く?」
「行きましょう。」
二人はバックヤードを抜け、喫煙所へ向かった。
外はすっかり暗くなり、夏の夜風が心地よく吹いている。
ライターの音が静かに響いた。
「ふぅ……。」
古坂が煙を吐きながら笑う。
「浜谷くんも、もう喫煙所が似合うようになったね。」
「そうですか?」
「最初は『吸うんだ』って驚かれましたけど。」
「そりゃ驚くよ。」
「原町中央店に入った頃は、まだ二十歳にもなってなかったもんね。」
二人は顔を見合わせて笑った。
しばらく沈黙が流れる。
その沈黙も、不思議と居心地が悪くない。
やがて古坂が口を開いた。
「原町中央店、懐かしいね。」
浜谷はゆっくりとうなずく。
「そうですね。」
「毎日忙しかったですけど、楽しかったです。」
「茂田さんに怒られたり、高崎さんに驚かされたり。」
「石村さんにはたくさん助けてもらいました。」
「日村さんの説明は相変わらず早口でしたし。」
古坂は思わず吹き出す。
「あれは今でも変わらないだろうね。」
「変わらないですね。」
二人は笑った。
「でもさ。」
古坂はタバコを灰皿へ軽く押し付けながら続ける。
「阿佐野店もいいお店でしょう?」
浜谷は店内の明かりを見つめる。
「はい。」
「最初は店が小さいなって思いました。」
「でも働いてみたら、全然そんなこと気にならなくて。」
「みんなで声を掛け合って。」
「困ったら誰かがすぐ助けてくれる。」
「すごく働きやすいです。」
古坂はうれしそうに笑う。
「そうなんだよね。」
「阿佐野店って、規模は原町中央店より小さい。」
「でも、その分みんなの距離が近いんだ。」
「誰か一人が困ってたら、自然とみんなが動く。」
「それが阿佐野店のいいところ。」
浜谷は大きくうなずいた。
「実際、それを毎日感じてます。」
「矢水さんはいつも周りを見てくれてますし。」
「高村さんは安心感があります。」
「大澤さんも静かにフォローしてくれます。」
「樋口さんも明るくて。」
「細井さんも頼りになります。」
「本当にチームって感じです。」
古坂は少しだけ空を見上げた。
「だから私、この店好きなんだ。」
「原町中央店も大好き。」
「でも阿佐野店も、同じくらい好き。」
浜谷は静かに笑った。
「僕も、そんな気がしてきました。」
吸い終えたタバコを灰皿へ入れる。
「さて。」
古坂が立ち上がる。
「そろそろ戻ろっか。」
「はい。」
二人は並んで事務所へ戻る。
店の規模は違っても、スタッフが支え合う気持ちは同じ。
その温かさを改めて感じながら、浜谷は阿佐野店の扉を開けた。