教育実習最終日。
3週間という長いようで短い時間も、今日で終わりを迎える。
浜谷は制服に袖を通しながら、鏡の前でネクタイを整えた。
「今日で最後か……。」
生徒たちとの別れを思うと、少し寂しい。
「よし。」
浜谷は深呼吸をし、家を出た。
「行ってきます!」
いつもの通学路。
いつもの校門。
……のはずだった。
「ん?」
校門の看板を見た浜谷は足を止める。
そこには、大きくこう書かれていた。
『私立 ファンステージ学園』
「……え?」
浜谷は目をこすった。
もう一度見る。
やっぱり。
ファンステージ学園。
「いやいやいや……。」
「昨日まで○○高校でしたよね?」
「今日だけ名前変わることあります!?」
頭を抱えながら校門をくぐる。
「……まあ。」
「ここまで来たら夢ですよね。」
浜谷は半ば諦めたように職員室へ向かった。
⸻
「失礼します。」
職員室の扉を開ける。
すると。
「おはようございます!」
聞き慣れた声。
「浜谷さん!」
振り向くと、スーツ姿の川原が立っていた。
「川原さん!?」
「私も今日で教育実習最後です!」
「またですか!」
二人は顔を見合わせる。
「夢ですよね。」
「何言ってるんですか。」
その時。
「おっ、二人とも来たな。」
奥から一人の男性教師が歩いてくる。
「今日が最後やし、楽しんでいこか。」
浜谷は思わず笑った。
「大倉さん!」
「ちゃうちゃう。」
「学校では大倉先生や。」
「ほな、行こか。」
関西弁はいつも通りだった。
⸻
二年A組。
ガラッ。
「起立!」
「礼!」
「よろしくお願いしまーす!」
浜谷と川原は教室へ入る。
そして。
固まった。
「……。」
教室中を見渡す。
「……え?」
最前列。
「おつかれさまぁ〜ず!」
茂田。
その隣。
「石村、出席しまーす。」
石村。
窓際には山神。
「おぅ。」
後ろでは高崎が友達と笑っている。
藤屋は静かに本を読んでいる。
相馬は学級委員としてプリントを配っていた。
大沼は笑顔で友達と話し、
古坂は金髪ギャル。
細井は転校してきたばかりらしく少し緊張している。
高村、矢水、大澤、樋口まで。
全員。
ファンステージのスタッフだった。
浜谷は思わず叫ぶ。
「またみなさんですかーーー!!」
教室中が笑いに包まれた。
「浜谷先生、おもしろーい!」
茂田まで笑っている。
⸻
ホームルームが始まる。
「今日は教育実習最終日なので、みなさんと楽しく過ごしたいと思います。」
浜谷がそう言うと、
茂田が真っ先に手を挙げる。
「先生!」
「ゲームセンター好きですかー?」
「好きですよ!」
「働いてましたから!」
教室は大爆笑。
高崎が続く。
「先生!」
「UFOキャッチャー得意ですか?」
「授業と関係ないですよ!」
石村も手を挙げる。
「先生。」
「メダルゲームは一日何枚くらい補充しますか?」
「質問がおかしいです!」
川原は笑いをこらえながら黒板に向かっていた。
「浜谷先生、大人気ですね。」
「みんなゲームセンターの話しかしません!」
⸻
休み時間。
茂田、高崎、古坂、細井は廊下を走り回る。
「廊下は走らない!」
「はーい!」
返事だけはいい。
図書室では藤屋が静かに本を読んでいる。
「藤屋さんらしい……。」
理科室では大澤が黙々と実験。
放送室からは矢水の元気な声が響く。
体育館では大沼がバレーボール。
「大沼、トスします!」
音楽室では樋口が楽しそうに演奏していた。
「浜谷先生、シナモン好きですが?」
山神は将棋部。
石村と相馬は学級委員。
「みなさん、配役がぴったりですね……。」
浜谷は思わず笑った。
⸻
放課後。
教室には夕日が差し込んでいた。
生徒たちが次々と帰っていく。
「先生!」
「またねー!」
「先生!」
「教育実習お疲れさま!」
茂田たちが手を振る。
浜谷も笑顔で振り返した。
「みんなも元気でね!」
教室を出ると、大倉先生が待っていた。
「一か月、お疲れさん。」
「ええ先生になれるで。」
浜谷は照れくさそうに笑う。
「ありがとうございます。」
その瞬間。
キーンコーンカーンコーン——
チャイムの音が、目覚まし時計へ変わる。
⸻
「……はっ!」
浜谷は勢いよく目を覚ました。
時計は午前六時。
実家の天井を見つめる。
「夢か……。」
少し笑ってしまう。
「最後までファンステージのみなさんと一緒だったな。」
制服に着替え、玄関を出る。
今日は、本当の教育実習最終日。
夢の中でも現実でも。
浜谷は先生として、一日を過ごすのだった。