ようこそ!ゲームセンター『ファンステージ』へ!   作:君脇玲

55 / 92
おかえり浜谷

教育実習を終えた翌週。

 

久しぶりに制服へ袖を通した浜谷は、少しだけ背筋を伸ばしながら阿佐野店へ向かっていた。

 

「なんか……。」

 

「初出勤みたいに緊張するな。」

 

たった一か月。

 

それでも、あの場所に戻ると思うと、胸の奥がそわそわと落ち着かない。

 

懐かしさと、少しの不安と、そして――帰る場所があるという安心感。

 

自動ドアが開く。

 

「おはようございます!」

 

その瞬間。

 

「琉くーん!」

 

真っ先に駆け寄ってきたのは茂田だった。

 

「教育実習お疲れさまぁ〜ず!」

 

「ただいまです!」

 

その言葉が、思っていた以上に自然に口から出た。

 

続いて古坂が笑顔で迎える。

 

「浜谷くん、おかえり!」

 

「ありがとうございます!」

 

高村も優しく微笑む。

 

「一か月、お疲れさまでした。」

 

「ありがとうございます!」

 

矢水、大澤、樋口、細井も次々と声を掛けてくれる。

 

その一つひとつが、胸にじんわりと染みていく。

 

浜谷はふと、心の中でつぶやいた。

 

「やっぱり……。」

 

「ここが、僕の居場所なんだな。」

 

 

朝礼が終わり、営業準備。

 

いつもの動き、いつもの空気。

 

身体が自然と覚えている感覚に、少しだけ安心する。

 

その時だった。

 

景品を茂田に渡そうとした浜谷が思わず口を開く。

 

「これ、めっちゃ重いんで気ぃつけてください!」

 

店内が一瞬静まり返る。

 

「……え?」

 

浜谷自身も驚いた。

 

「しまった。」

 

「関西弁が……。」

 

教育実習中、一か月間実家で生活していた浜谷。

 

毎日家族と話していたせいで、すっかり地元の言葉が戻っていたのだ。

 

茂田が目を丸くする。

 

「え?」

 

「琉くんって関西の人だったニダ?」

 

浜谷は一瞬だけ言葉を探し、観念したように笑った。

 

「そうですに……実家が関西やもんで。」

 

その一言に、店内がふっと和む。

 

古坂がくすっと笑う。

 

「なんか新鮮。」

 

樋口も肩を揺らす。

 

「いいじゃん、それ。」

 

浜谷は耳を赤くしながら苦笑した。

 

「やめてくださいよ……。」

 

けれど、その空気はどこか優しくて、居心地がよかった。

 

 

その様子を見ていた大澤がぽつり。

 

「……自然ですね。」

 

「ありがとうございます?」

 

「普段より柔らかく聞こえます。」

 

「そうですか?」

 

矢水もうなずく。

 

「私は好きですよ。」

 

高村も優しく笑った。

 

「教育実習、地元で頑張ってきた証拠ですね。」

 

浜谷は少し照れくさそうに頭をかいた。

 

「……そうかもしれません。」

 

自分の中にある“地元”と“ここ”。

 

どちらも否定されることなく受け入れられていることが、少しだけ嬉しかった。

 

 

昼休憩。

 

休憩室では、いつも通りの雑談が流れていた。

 

さっきの出来事も、もう特別な話題ではなくなっている。

 

浜谷はその空気の中で、ふと感じていた。

 

――ちゃんと、戻ってこれた。

 

そんな実感が、静かに胸に広がっていく。

 

 

夕方。

 

閉店作業を終えた浜谷はロッカーで着替えていた。

 

制服を脱ぎながら、ふと一日を振り返る。

 

「最初は緊張しとったけど……。」

 

「やっぱ帰ってきてよかったわ。」

 

その言葉は、誰に聞かせるでもなく、自然とこぼれた本音だった。

 

その時、茂田が笑顔で手を振る。

 

「琉くん!」

 

「シーユーアゲイン!」

 

浜谷も思わず笑う。

 

「ほな、お先に失礼します!」

 

その一言に、スタッフ全員がまた笑い出した。

 

「まだ関西弁抜けてない!」

 

「もうそのままでいいよ!」

 

浜谷は照れ笑いしながら店をあとにした。

 

外に出ると、夕方の空気が少しだけひんやりとしていた。

 

振り返ると、いつもの阿佐野店の明かりがそこにある。

 

一か月離れていても、変わらず迎えてくれる場所。

 

自分をそのまま受け入れてくれる人たち。

 

浜谷は小さく息を吐き、少しだけ肩の力を抜いた。

 

――ここに帰ってくる理由は、ちゃんとある。

 

そう思えたことが、何よりも嬉しかった。

 

その温かさを胸に抱えながら、浜谷はゆっくりと帰路についた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。