ゲーム・アニメ・カード・グッズなどを展開する国民的人気シリーズ。
朝の阿佐野店。
浜谷は搬入口から届いた景品の段ボールを事務所へ運んでいた。
「樋口さん、新しい景品届きました!」
その一言を聞いた瞬間。
樋口が勢いよく立ち上がる。
「えっ!? もしかして……!」
浜谷が段ボールを開けると、中から現れたのは三種類のぬいぐるみだった。
ココ。
オクバガチガチ。
モウシワケナイ。
「きたぁぁぁぁ!!」
樋口は思わず拍手する。
「シナモンだ!」
「しかもこのラインナップ最高!」
ぬいぐるみを一つひとつ丁寧に持ち上げ、嬉しそうに眺める。
「ココはね、見た目は地味なんですけど育てるとめちゃくちゃ頼りになるんですよ!」
「オクバガチガチは防御力が高くて、ストーリー終盤でも普通に活躍できますし!」
「モウシワケナイは表情だけで反則です!」
「かわいすぎます!」
浜谷は思わず笑う。
「樋口さん、本当に好きなんですね。」
「もちろん!」
「私、小学生の頃からシナモン一筋です!」
「ゲームは全部やってます!」
「映画も毎年観てます!」
「図鑑は毎回完成させます!」
「イベントも毎年参加します!」
「限定グッズもできるだけ集めてます!」
「休みの日にシナモンショップへ行くだけの日もあります!」
その熱量に、事務所のみんなが笑う。
「ちなみに一番好きなのは――」
樋口はぬいぐるみを抱きしめた。
「ナメトンノカワレ!!」
「名前だけでネタ扱いされることもありますけど、本当に強いんですよ!」
「専用技も優秀ですし、進化前からずっと育ててきた思い入れもありますし……」
「もう全部好きです!」
そこへ茂田が近付いてきた。
「私はアチラノオク!」
「新しいグッズ出たら絶対買うニダ!」
「一番くじはラストワン賞まで引いたことあるニダ!」
浜谷が驚く。
「全部ですか?」
「全部ニダ。」
「推しのためなら仕方ないニダ。」
古坂も笑顔になる。
「私はヤーヤーヤー!」
「見てるだけで元気になるんだよね!」
細井もぬいぐるみを見つめる。
「私はカァーッかな。」
「この顔、かわいすぎません?」
「分かる!」
樋口は大きくうなずいた。
「カァーッは人気ありますよ!」
浜谷も笑いながら話し始める。
「僕はウチバとナンテコッタパンナコッタですね。」
「ゲームでは毎回パーティーに入れてます。」
「ウチバは万能ですし、ナンテコッタパンナコッタも強いですから。」
樋口は目を輝かせた。
「浜谷くん!」
「その二匹を一緒に使う人、なかなかいませんよ!」
「分かってますねぇ!」
二人はシナモン談義で盛り上がる。
その時だった。
樋口が勢いよく叫ぶ。
「だからやっぱり1番は!」
「ナメトンノカワレ!!」
ガチャッ!
突然、事務所のドアが開いた。
「大丈夫!?」
高村が慌てて飛び込んでくる。
その後ろには矢水。
「ケンカはやめましょう!」
一瞬、事務所が静まり返る。
そして茂田が吹き出した。
「違うニダ!」
「シナモンの名前ニダ!」
「……え?」
高村と矢水は顔を見合わせる。
「名前なんですか?」
「はい!」
樋口が笑顔で答える。
「信濃路モンスターです!」
矢水は安心したように笑った。
「びっくりしたぁ。」
「すごい名前だね。」
「初めて聞いたら怒ってるのかと思うよ。」
高村も苦笑い。
「私もそう思いました。」
そこへ景品台車を押しながら大澤が戻ってきた。
「何の話?」
浜谷が説明する。
「シナモンですよ。」
「ああ。」
大澤は少しだけ笑う。
「うちの子が好き。」
「えっ!」
樋口の目がまた輝く。
「何が好きなんですか?」
「……そこまでは知らない。」
「毎日ゲームやってるし、ぬいぐるみも家にあるけど。」
「私は詳しくない。」
樋口は少し残念そうに笑った。
「今度ぜひ聞いてみてください!」
「分かった。」
その短いやり取りに、みんなが笑う。
すると店内放送が流れる。
『まもなく開店いたします。』
「営業始まりますよ!」
浜谷の声で全員が持ち場へ向かう。
樋口は最後にオクバガチガチのぬいぐるみを優しく棚へ並べた。
「いっぱいお迎えされるといいね。」
そうつぶやき、笑顔で売り場へ向かっていった。
今日も阿佐野店は、開店前から笑顔であふれていた。