ある日の阿佐野店。
メダルコーナーで修理を終えた浜谷は、工具箱を持って事務所へ戻っていた。
「ありがとうございました!」
お客様へ一礼すると、小さな男の子が浜谷を見上げる。
「おねえさん!」
浜谷は一瞬止まった。
「……え?」
「おねえさん、ありがとう!」
男の子は笑顔で手を振り、お母さんと一緒に去っていった。
浜谷はしばらく立ち尽くす。
「……おねえさん。」
事務所へ戻ると、ちょうど細井が休憩していた。
「細井さん。」
「ん?」
「僕って……そんなに女の人っぽく見えます?」
細井は浜谷の顔を見て笑う。
「髪伸びたもんね。」
「もともと顔も中性的だし。」
「小さい子なら間違えるかも。」
浜谷は鏡を見る。
確かに前髪も横髪も、少し長くなっていた。
「……そうなのかな。」
細井は笑いながら言う。
「髪切れば?」
「うーん……。」
浜谷は考え込んだ。
その時だった。
ふと、変な考えが頭をよぎる。
「……待てよ。」
「男って何だろう。」
「女って何だろう。」
細井は首をかしげる。
「急に哲学?」
浜谷は真剣だった。
「髪が長いだけで女の人だと思われた。」
「でも、世の中には髪の長い男の人もいる。」
「逆に髪が短い女の人もいる。」
「ということは……。」
「髪型だけじゃ決まらない。」
「じゃあ男女の違いって何なんだろう。」
浜谷は腕を組む。
「もしかしたら。」
「阿佐野店のみんなも、髪が長いだけで男の人なのかもしれない。」
「逆に。」
「僕も髪が短いだけで女の子なのかもしれない。」
細井は数秒黙ったあと、吹き出した。
「何それ!」
「意味分かんない!」
「いや、でも……。」
浜谷は本気で悩んでいる。
「考えれば考えるほど分からなくなってきました。」
その時。
高村が事務所へ入ってきた。
「何のお話ですか?」
細井は笑いながら答える。
「浜谷くんが、自分は本当に男なのか考えてます。」
「え?」
高村は思わず浜谷を見る。
「私は男の子だと思いますけど……。」
そこへ矢水も入ってくる。
「どうしたの?」
事情を聞いた矢水は大笑いした。
「浜谷さん、考えすぎ!」
「子どもは髪の長さで判断しちゃうこともあるから!」
「気にしなくていいよ!」
さらに大澤もやってきた。
「何?」
細井が説明する。
「浜谷くん、自分が男か分からなくなったらしい。」
大澤は浜谷を一瞬見つめ、
「……男。」
一言だけ言った。
事務所は笑いに包まれる。
その時、茂田が入ってきた。
「何笑ってるニダ?」
事情を聞いた茂田は浜谷の顔をじっと見る。
「琉くん。」
「髪切れば解決ニダ。」
「……ですよね。」
浜谷は苦笑いした。
その日の仕事終わり。
浜谷はスマホを取り出し、美容室を予約した。
「やっぱり切ろう。」
そうつぶやきながら帰路につく。
数日後。
髪を切った浜谷は、再びゲームセンターで働いていた。
すると、以前と同じくらいの男の子が近付いてきた。
浜谷は少し緊張する。
男の子は浜谷を見上げて笑顔で言った。
「おにいさん!」
浜谷は思わずガッツポーズをした。
その様子を見ていた細井は、笑いをこらえきれなかった。
今日も阿佐野店は、平和だった。