七月。
外では強い日差しが照りつけ、気温は三十度を超えていた。
もちろん、店内は冷房が効いている。
それでもゲーム機から出る熱や、多くのお客様で、売り場は思った以上に暑い。
「暑いですねぇ……。」
細井は制服の袖で額の汗を拭いた。
「今日は特に暑い……。」
矢水もうちわで顔をあおぐ。
「イベントコーナーなんて動きっぱなしだからね。」
高村は笑いながらスポーツドリンクを一口飲んだ。
「夏は体力勝負だね。」
浜谷も景品の補充を終え、大きく息をつく。
「ちょっと動くだけで汗かきますね。」
その様子を見ていた大澤は、いつものように表情を変えずに一言。
「水分補給。」
「それが一番。」
「はい……。」
⸻
しばらくして。
細井はクレーンコーナーを歩いていると、ある場所で足を止めた。
「……あれ?」
エアコンの風がちょうど通る場所だった。
風がふわっと当たり、さっきまでの暑さが嘘のようだった。
「ここ、めちゃくちゃ涼しい!」
思わず一人で感動する。
「見つけちゃった。」
休憩へ向かう途中、大澤とすれ違った。
「大澤さん。」
「なに?」
「メダルコーナーの奥に、すごく涼しい場所があるんですよ!」
「そう。」
「エアコンの風がちょうど当たるんです!」
「へぇ。」
「おすすめですよ!」
大澤は小さくうなずいただけだった。
「分かった。」
それだけ言うと、そのまま歩いて行ってしまう。
細井は首をかしげた。
「興味なさそうだったなぁ。」
⸻
一時間後。
景品を補充し終えた細井は、もう一度あの”秘密の涼しい場所”へ向かった。
「ちょっと涼もう。」
そう思って角を曲がると——
「あ。」
そこには、大澤が立っていた。
エアコンの風を気持ちよさそうに受けながら、静かに涼んでいる。
細井は思わず吹き出した。
「大澤さん!」
大澤は少し驚いたように振り返る。
「……。」
「来てるじゃないですか!」
「さっき興味なさそうだったのに!」
大澤は少しだけ目をそらした。
「……暑かったから。」
「絶対気になってたんですね!」
「別に。」
「いやいや!」
細井は笑いが止まらない。
「“そう。“って言って終わったじゃないですか!」
「……。」
大澤は少し照れくさそうに咳払いをした。
「教えてくれたから。」
「使ってみただけ。」
細井はニヤニヤしながら言う。
「素直じゃないなぁ。」
そのやり取りを、たまたま通りかかった浜谷が目撃する。
「何してるんですか?」
細井は笑いながら答えた。
「大澤さん、ここ興味ないって言ってたのに、一人で涼んでたの!」
浜谷は思わず笑う。
「そうだったんですか。」
大澤は少しだけ困ったような表情になる。
「……静かに休みたかっただけ。」
その一言に、三人は思わず笑ってしまった。
そこへ矢水もやって来る。
「あれ?みんな集まってる!」
「ここ何?」
細井が笑顔で答える。
「阿佐野店で一番涼しい場所!」
「えー!」
矢水も風を受ける。
「ほんとだ!涼しい!」
高村までやって来て、
「ここ穴場じゃん。」
と笑う。
気が付けば、小さな涼みスポットにはスタッフが集まり始めていた。
その様子を見た茂田は苦笑いする。
「みんな、そこに集まりすぎニダ。」
「仕事するニダ。」
「はーい!」
スタッフたちは笑いながら持ち場へ戻っていく。
去り際、細井はもう一度だけ大澤を見た。
「大澤さん。」
「なに?」
「やっぱり来てましたね。」
大澤は小さく笑って答えた。
「……内緒。」
珍しく見せたその柔らかい笑顔に、細井は思わず吹き出したのだった。