休日の午後。
阿佐野店は家族連れのお客様で賑わっていた。
浜谷はクレーンゲームコーナーで景品を整えながら、お客様対応に追われていた。
「いらっしゃいませ!」
景品を補充し終えたその時。
入口の方から聞き覚えのある声が聞こえた。
「おーい!浜谷!」
「え?」
振り返ると、そこには大学の研究室の先生が立っていた。
隣には奥さんと、小学生くらいと幼稚園くらいの女の子。
「先生!」
浜谷は驚きながら駆け寄る。
「こんにちは!」
「今日は家族を連れて遊びに来たよ。」
「ここが浜谷のアルバイト先か。」
「はい!」
先生は店内を見渡しながら感心したようにうなずく。
「思ってたより広いなぁ。」
「ゲームセンターって子どもたちが本当に楽しそうだね。」
奥さんも笑顔で言った。
「いつも浜谷くんの話は聞いてますよ。」
「えっ?」
「真面目に研究してる学生がいるって。」
浜谷は照れくさそうに頭をかいた。
「そんな……。」
先生は笑いながら肩を叩く。
「褒めてるんだから素直に喜びなさい。」
その言葉に思わず笑ってしまった。
⸻
しばらくして。
先生一家はクレーンゲームコーナーへやって来た。
お姉ちゃんが大きなお菓子を見つける。
「これ欲しい!」
「じゃあやってみようか。」
先生は百円玉を入れながら浜谷を見た。
そしてニヤッと笑う。
「浜谷。」
「はい。」
「顔見知りなんだからさ。」
「ちょっと取りやすくしてよ~。」
浜谷は一瞬固まった。
「……え?」
「先生!」
「それはダメですよ!」
先生は笑いながら続ける。
「えー?」
「先生のお願いでも?」
「ダメです!」
「お願い!」
「ダメです!」
二人のやり取りを見ていた奥さんが笑い出す。
「あなた、困らせないの。」
「冗談だよ。」
「分かってるよ。」
それでも先生はいたずらっぽい笑顔を浮かべている。
浜谷は苦笑いしかできない。
「本当に勘弁してくださいよ……。」
⸻
そこへ細井がやって来た。
「浜谷くん、お客様対応?」
「あっ。」
「大学の先生なんです。」
「えー!」
細井は驚いて先生へ頭を下げた。
「いつも浜谷くんがお世話になっています。」
「こちらこそ。」
先生も笑顔で会釈する。
「お店でも真面目なんですね。」
細井は即答した。
「はい!」
「すごく真面目です!」
「困ってる人がいたら真っ先に走って行きますし、機械が止まったらすぐ対応します。」
「お客様からもよく声を掛けられてますよ。」
浜谷は慌てる。
「細井さん!」
「そんな褒めなくていいですって!」
先生は嬉しそうに笑った。
「大学と変わらないな。」
「安心したよ。」
そして、細井と浜谷を交互に見ながら、にやりと笑う。
「ところで。」
「君、浜谷の彼女?」
「えっ!?」
細井は思わず目を丸くした。
「ち、違います!」
「ただの仕事仲間です!」
浜谷も顔を真っ赤にしながら慌てる。
「先生!」
「何言ってるんですか!」
先生は大笑い。
「いやいや、息ぴったりだったからさ。」
「てっきりそうなのかと思って。」
奥さんは呆れたように先生の腕を軽く叩く。
「また浜谷くん困らせて。」
「ごめんごめん。」
細井は笑いながら浜谷を見る。
「浜谷くん、顔赤いですよ。」
「もう勘弁してください……。」
その場にいた全員が笑い、店内は和やかな空気に包まれた。
⸻
先生の子どもはクレーンゲームに挑戦する。
しかし景品はなかなか動かない。
「難しい……。」
浜谷は設定を変えることはせず、遊び方だけをアドバイスした。
「この景品なら、もう少し右側を狙ってみようか。」
「うん!」
お姉ちゃんは言われた通りに挑戦。
アームが景品を押し、位置が少し変わる。
「動いた!」
「いい感じ!」
さらに何回か挑戦すると――
コロン。
景品が見事に取り出し口へ落ちた。
「やったー!」
子供達は景品を抱えて大喜び。
先生も思わず拍手した。
「おぉ!」
「すごい!」
「自分で取れたね。」
浜谷も笑顔で拍手を送る。
「おめでとうございます!」
⸻
帰る時間になり、先生一家は出口へ向かう。
先生は浜谷の前で立ち止まった。
「今日は冗談言って悪かったな。」
「いや、本当に焦りましたよ。」
「でも。」
先生は少し真面目な表情になる。
「知り合いだからって特別扱いしなかった。」
「あれで良かった。」
「社会人として立派だと思う。」
浜谷は少し照れながら頭を下げた。
「ありがとうございます。」
「大学でも店でも、そのままの浜谷で頑張っていこうな。」
「はい!」
先生一家が帰ったあと。
細井が笑いをこらえながら近づいてきた。
「浜谷くん。」
「はい?」
「先生、面白い人ですね。」
「……ずっとあんな感じなんです。」
「でも。」
細井はニヤニヤしながら続ける。
「彼女って言われた時の浜谷くん、今日一番焦ってたよ。」
「その話はもう終わりです!」
二人は顔を見合わせて笑い、休日で賑わう阿佐野店へ戻っていった。