休日の午後。
阿佐野店のクレーンゲームコーナー。
浜谷は景品を整えながら巡回をしていた。
「景品、大丈夫そうですね……。」
一台ずつ確認していると、一人のお客様に声を掛けられた。
「すみません。」
「はい!」
浜谷は笑顔で振り返る。
「別の景品出して。」
「かしこまりました!」
浜谷はクレーンゲームの前へ案内される。
「どちらをご希望ですか?」
お客様は景品棚を指差した。
「お茶カワのルイボス。」
「……え?」
浜谷は固まる。
「ル、ルイボス……ですか?」
「そう。」
「ルイボス。」
浜谷は景品棚を見つめた。
(ルイボスって……。)
(どれやねん……。)
キャラクターの名前までは覚えきれていない。
「申し訳ありません。」
「どの辺でしょうか?」
お客様は少し身を乗り出す。
「ほら。」
「ジャスミンとむぎの間。」
「……。」
(ジャスミン?)
(むぎ?)
(誰やねん……。)
浜谷は笑顔を崩さず聞き返す。
「申し訳ありません。」
「場所で教えていただけますか?」
お客様は少しイライラした様子になる。
「だから。」
「緑の下で、ほうじの上。」
(緑……。)
(ほうじ……。)
(全部分からん!!)
頭の中が完全に混乱する。
「えっと……。」
「どれですか!?」
思わず声が大きくなった。
お客様も「あっ」と我に返る。
「ご、ごめん。」
「真ん中の段。」
「真ん中のキャラ。」
「あ、これですね!」
浜谷はようやく目的の景品を見つけた。
「こちらでよろしいですか?」
「それそれ。」
「ありがとうございます。」
お客様は少し申し訳なさそうに笑う。
「キャラ名で言えば分かると思ってた。」
「ごめんね。」
「いえ。」
「景品が多くて、全部は覚えられなくて……。」
「そうだよね。」
お客様はプレイ始めた。
その様子を見ていた細井が笑いながら近づいてくる。
「さっき聞こえてたよ。」
「『ジャスミンとむぎの間』って(笑)。」
浜谷は苦笑いした。
「場所で言ってもらえたら助かるんだけどね……。」
⸻
しばらくして。
また別のお客様が浜谷を呼んだ。
「すみません。」
「はい!」
「シナモンの『ミョーチョージュク』出してください。」
「あっ!」
浜谷は一瞬でミョーチョージュクを前に出す。
「こちらですね!」
迷いなく景品を取り出した。
「ありがとうございます!」
お客様は驚いた表情を浮かべる。
「早っ!」
「キャラ名だけで分かった!」
「子どもの頃から好きなんです。」
浜谷は少し照れくさそうに笑った。
ちょうどそこへ樋口が通りかかる。
「浜谷くん。」
「今の見てたよ。」
「シナモンなら強いんだね。」
「はい!」
「シナモンだけは全部覚えてます!」
樋口は嬉しそうに笑う。
「私も好き!」
「やっぱり一番好きなのはナメトンノカワレ!」
「ですよね!」
浜谷も笑顔になる。
「僕はウチバとナンテコッタパンナコッタですね。」
二人はしばらくシナモン談義で盛り上がる。
その様子を見ていた細井は、呆れたように笑った。
「浜谷くん。」
「さっきまで『ルイボスって誰!?』って言ってた人と同じ人?」
浜谷は苦笑いする。
「好きなものだけは覚えちゃうんだよね。」
「分かりやすいなぁ。」
細井が笑う。
浜谷は景品棚を見上げながら心の中でつぶやいた。
(お茶カワも覚えなあかんなぁ……。)
そう思いながら、今日もクレーンコーナーを巡回するのだった。
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