ようこそ!ゲームセンター『ファンステージ』へ!   作:君脇玲

69 / 133
任せてください!

原町中央店へ応援に来てから数日。

 

一週間という短い期間も、気付けば終わりが近づいていた。

 

あと数日後には、浜谷は再び阿佐野店へ戻る。

 

原町中央店で働ける時間も、あとわずかだった。

 

その日も浜谷は開店前の店内を巡回していた。

 

久しぶりの原町中央店だったが、数日働いただけで身体はすっかり感覚を取り戻している。

 

景品の向き。

 

通路の広さ。

 

どこに何が置いてあるのか。

 

自然と足が動く。

 

「やっぱり落ち着くなぁ……。」

 

そんなことを思いながらクレーンゲームコーナーを歩いていると、一人のスタッフがこちらへ駆け寄ってきた。

 

「浜谷さん!」

 

振り返ると、川原だった。

 

「おはようございます。」

 

「おはようございます!」

 

川原は少し困ったような表情を浮かべている。

 

「ちょっとお願いがあるんです。」

 

「どうしました?」

 

「こっちのクレーンなんですけど……。」

 

川原は一台の機械の前まで浜谷を案内した。

 

「朝の点検をしてたら、アームの動きが少し引っ掛かる感じがして。」

 

「景品は取れるんですけど、いつもと違う気がするんです。」

 

浜谷は機械を動かしてみる。

 

確かに動作に少し違和感があった。

 

「なるほど……。」

 

「ちょっと見てみますね。」

 

「お願いします!」

 

浜谷は工具箱を持ってきて、カバーを開けた。

 

内部を一つひとつ確認する。

 

阿佐野店で、生田から教わった調整方法。

 

大澤から教わった点検のコツ。

 

日村から何度も聞いたメンテナンスの基本。

 

それらを思い出しながら慎重に原因を探していく。

 

「……あ。」

 

原因はすぐに見つかった。

 

ある部品がほんの少しだけズレていたのだ。

 

位置を調整し、ネジを締め直す。

 

「これでどうでしょう。」

 

電源を入れ、試運転を行う。

 

ウィーン。

 

アームは滑らかに動き、異音もなく元の動きを取り戻した。

 

「直りましたね。」

 

「すごい!」

 

川原は思わず笑顔になる。

 

「ありがとうございます!」

 

「助かりました!」

 

浜谷は工具を片付けながら笑った。

 

「これくらいなら大丈夫ですよ。」

 

「任せてください。」

 

「阿佐野店で鍛えられてますから。」

 

その言葉に川原はくすっと笑う。

 

「頼もしくなりましたね。」

 

「前だったら、浜谷さんの方が日村さん呼んでましたよね。」

 

「あはは。」

 

「そうでしたね。」

 

浜谷も思わず笑った。

 

「前は分からないことだらけでした。」

 

「何かあるたびに日村さんとか石村さんを呼んでました。」

 

「でも阿佐野店に行ってから、阿佐野店のみんなにもたくさん教えてもらって。」

 

「少しずつ出来ることが増えてきたんです。」

 

川原は何度もうなずく。

 

「すごいですよ。」

 

「私も最初は全然できませんでした。」

 

「でも浜谷さんが阿佐野店へ行ってる間に、私もクレーン担当としてもっと頑張らなきゃって思ったんです。」

 

浜谷は少し驚いた。

 

「そうだったんですか?」

 

「はい。」

 

「浜谷さんが戻ってきた時に、『成長したね』って言ってもらいたくて。」

 

その言葉に浜谷は照れ笑いを浮かべる。

 

「十分成長してますよ。」

 

「お客様対応もすごく落ち着いてますし、この前の景品補充もすごくきれいでした。」

 

川原は少し恥ずかしそうに笑った。

 

「ありがとうございます。」

 

「でも、浜谷さんには負けません。」

 

「僕もまだまだ負けませんよ。」

 

二人は顔を見合わせ、思わず笑った。

 

同い年だからこそ遠慮がない。

 

だからこそ、お互いの成長を素直に認め合える。

 

そんな空気が、二人の間には流れていた。

 

少し離れた場所では、景品整理をしていた茂田がその様子を見ていた。

 

「……。」

 

しばらく黙って見守ると、小さく笑う。

 

「やるニダ。」

 

隣にいた石村が首をかしげる。

 

「何がです?」

 

茂田は二人へ目を向けたまま答えた。

 

「琉くんも木乃香ちゃんも、ちゃんと成長してるニダ。」

 

「前は二人とも教わる側だったのに。」

 

「今はお互い助け合ってる。」

 

石村も二人を見つめ、静かにうなずく。

 

「そうだな。」

 

「店っていうのは、こうやって少しずつ成長していくんだな。」

 

浜谷は阿佐野店で多くのことを学び、原町中央店へ戻ってきた。

 

そして川原もまた、この店で経験を積み、一人前のクレーン担当へと成長していた。

 

離れていた時間は決して無駄ではなかった。

 

それぞれが別の場所で積み重ねた経験が、再会した二人の信頼を、以前よりもずっと強いものにしていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。