原町中央店へ応援に来てから数日。
一週間という短い期間も、気付けば終わりが近づいていた。
あと数日後には、浜谷は再び阿佐野店へ戻る。
原町中央店で働ける時間も、あとわずかだった。
その日も浜谷は開店前の店内を巡回していた。
久しぶりの原町中央店だったが、数日働いただけで身体はすっかり感覚を取り戻している。
景品の向き。
通路の広さ。
どこに何が置いてあるのか。
自然と足が動く。
「やっぱり落ち着くなぁ……。」
そんなことを思いながらクレーンゲームコーナーを歩いていると、一人のスタッフがこちらへ駆け寄ってきた。
「浜谷さん!」
振り返ると、川原だった。
「おはようございます。」
「おはようございます!」
川原は少し困ったような表情を浮かべている。
「ちょっとお願いがあるんです。」
「どうしました?」
「こっちのクレーンなんですけど……。」
川原は一台の機械の前まで浜谷を案内した。
「朝の点検をしてたら、アームの動きが少し引っ掛かる感じがして。」
「景品は取れるんですけど、いつもと違う気がするんです。」
浜谷は機械を動かしてみる。
確かに動作に少し違和感があった。
「なるほど……。」
「ちょっと見てみますね。」
「お願いします!」
浜谷は工具箱を持ってきて、カバーを開けた。
内部を一つひとつ確認する。
阿佐野店で、生田から教わった調整方法。
大澤から教わった点検のコツ。
日村から何度も聞いたメンテナンスの基本。
それらを思い出しながら慎重に原因を探していく。
「……あ。」
原因はすぐに見つかった。
ある部品がほんの少しだけズレていたのだ。
位置を調整し、ネジを締め直す。
「これでどうでしょう。」
電源を入れ、試運転を行う。
ウィーン。
アームは滑らかに動き、異音もなく元の動きを取り戻した。
「直りましたね。」
「すごい!」
川原は思わず笑顔になる。
「ありがとうございます!」
「助かりました!」
浜谷は工具を片付けながら笑った。
「これくらいなら大丈夫ですよ。」
「任せてください。」
「阿佐野店で鍛えられてますから。」
その言葉に川原はくすっと笑う。
「頼もしくなりましたね。」
「前だったら、浜谷さんの方が日村さん呼んでましたよね。」
「あはは。」
「そうでしたね。」
浜谷も思わず笑った。
「前は分からないことだらけでした。」
「何かあるたびに日村さんとか石村さんを呼んでました。」
「でも阿佐野店に行ってから、阿佐野店のみんなにもたくさん教えてもらって。」
「少しずつ出来ることが増えてきたんです。」
川原は何度もうなずく。
「すごいですよ。」
「私も最初は全然できませんでした。」
「でも浜谷さんが阿佐野店へ行ってる間に、私もクレーン担当としてもっと頑張らなきゃって思ったんです。」
浜谷は少し驚いた。
「そうだったんですか?」
「はい。」
「浜谷さんが戻ってきた時に、『成長したね』って言ってもらいたくて。」
その言葉に浜谷は照れ笑いを浮かべる。
「十分成長してますよ。」
「お客様対応もすごく落ち着いてますし、この前の景品補充もすごくきれいでした。」
川原は少し恥ずかしそうに笑った。
「ありがとうございます。」
「でも、浜谷さんには負けません。」
「僕もまだまだ負けませんよ。」
二人は顔を見合わせ、思わず笑った。
同い年だからこそ遠慮がない。
だからこそ、お互いの成長を素直に認め合える。
そんな空気が、二人の間には流れていた。
少し離れた場所では、景品整理をしていた茂田がその様子を見ていた。
「……。」
しばらく黙って見守ると、小さく笑う。
「やるニダ。」
隣にいた石村が首をかしげる。
「何がです?」
茂田は二人へ目を向けたまま答えた。
「琉くんも木乃香ちゃんも、ちゃんと成長してるニダ。」
「前は二人とも教わる側だったのに。」
「今はお互い助け合ってる。」
石村も二人を見つめ、静かにうなずく。
「そうだな。」
「店っていうのは、こうやって少しずつ成長していくんだな。」
浜谷は阿佐野店で多くのことを学び、原町中央店へ戻ってきた。
そして川原もまた、この店で経験を積み、一人前のクレーン担当へと成長していた。
離れていた時間は決して無駄ではなかった。
それぞれが別の場所で積み重ねた経験が、再会した二人の信頼を、以前よりもずっと強いものにしていた。