ようこそ!ゲームセンター『ファンステージ』へ!   作:君脇玲

69 / 92
任せてください!

原町中央店へ応援に来てから数日。

 

一週間という短い期間も、気付けば終わりが近づいていた。

 

あと数日後には、浜谷は再び阿佐野店へ戻る。

 

原町中央店で働ける時間も、あとわずかだった。

 

その日も浜谷は開店前の店内を巡回していた。

 

久しぶりの原町中央店だったが、数日働いただけで身体はすっかり感覚を取り戻している。

 

景品の向き。

 

通路の広さ。

 

どこに何が置いてあるのか。

 

自然と足が動く。

 

「やっぱり落ち着くなぁ……。」

 

そんなことを思いながらクレーンゲームコーナーを歩いていると、一人のスタッフがこちらへ駆け寄ってきた。

 

「浜谷さん!」

 

振り返ると、川原だった。

 

「おはようございます。」

 

「おはようございます!」

 

川原は少し困ったような表情を浮かべている。

 

「ちょっとお願いがあるんです。」

 

「どうしました?」

 

「こっちのクレーンなんですけど……。」

 

川原は一台の機械の前まで浜谷を案内した。

 

「朝の点検をしてたら、アームの動きが少し引っ掛かる感じがして。」

 

「景品は取れるんですけど、いつもと違う気がするんです。」

 

浜谷は機械を動かしてみる。

 

確かに動作に少し違和感があった。

 

「なるほど……。」

 

「ちょっと見てみますね。」

 

「お願いします!」

 

浜谷は工具箱を持ってきて、カバーを開けた。

 

内部を一つひとつ確認する。

 

阿佐野店で、生田から教わった調整方法。

 

大澤から教わった点検のコツ。

 

日村から何度も聞いたメンテナンスの基本。

 

それらを思い出しながら慎重に原因を探していく。

 

「……あ。」

 

原因はすぐに見つかった。

 

ある部品がほんの少しだけズレていたのだ。

 

位置を調整し、ネジを締め直す。

 

「これでどうでしょう。」

 

電源を入れ、試運転を行う。

 

ウィーン。

 

アームは滑らかに動き、異音もなく元の動きを取り戻した。

 

「直りましたね。」

 

「すごい!」

 

川原は思わず笑顔になる。

 

「ありがとうございます!」

 

「助かりました!」

 

浜谷は工具を片付けながら笑った。

 

「これくらいなら大丈夫ですよ。」

 

「任せてください。」

 

「阿佐野店で鍛えられてますから。」

 

その言葉に川原はくすっと笑う。

 

「頼もしくなりましたね。」

 

「前だったら、浜谷さんの方が日村さん呼んでましたよね。」

 

「あはは。」

 

「そうでしたね。」

 

浜谷も思わず笑った。

 

「前は分からないことだらけでした。」

 

「何かあるたびに日村さんとか石村さんを呼んでました。」

 

「でも阿佐野店に行ってから、阿佐野店のみんなにもたくさん教えてもらって。」

 

「少しずつ出来ることが増えてきたんです。」

 

川原は何度もうなずく。

 

「すごいですよ。」

 

「私も最初は全然できませんでした。」

 

「でも浜谷さんが阿佐野店へ行ってる間に、私もクレーン担当としてもっと頑張らなきゃって思ったんです。」

 

浜谷は少し驚いた。

 

「そうだったんですか?」

 

「はい。」

 

「浜谷さんが戻ってきた時に、『成長したね』って言ってもらいたくて。」

 

その言葉に浜谷は照れ笑いを浮かべる。

 

「十分成長してますよ。」

 

「お客様対応もすごく落ち着いてますし、この前の景品補充もすごくきれいでした。」

 

川原は少し恥ずかしそうに笑った。

 

「ありがとうございます。」

 

「でも、浜谷さんには負けません。」

 

「僕もまだまだ負けませんよ。」

 

二人は顔を見合わせ、思わず笑った。

 

同い年だからこそ遠慮がない。

 

だからこそ、お互いの成長を素直に認め合える。

 

そんな空気が、二人の間には流れていた。

 

少し離れた場所では、景品整理をしていた茂田がその様子を見ていた。

 

「……。」

 

しばらく黙って見守ると、小さく笑う。

 

「やるニダ。」

 

隣にいた石村が首をかしげる。

 

「何がです?」

 

茂田は二人へ目を向けたまま答えた。

 

「琉くんも木乃香ちゃんも、ちゃんと成長してるニダ。」

 

「前は二人とも教わる側だったのに。」

 

「今はお互い助け合ってる。」

 

石村も二人を見つめ、静かにうなずく。

 

「そうだな。」

 

「店っていうのは、こうやって少しずつ成長していくんだな。」

 

浜谷は阿佐野店で多くのことを学び、原町中央店へ戻ってきた。

 

そして川原もまた、この店で経験を積み、一人前のクレーン担当へと成長していた。

 

離れていた時間は決して無駄ではなかった。

 

それぞれが別の場所で積み重ねた経験が、再会した二人の信頼を、以前よりもずっと強いものにしていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。